2005年度の水利事業報告
及び2006年度の計画

ペシャワール会現地代表・PMS(ペシャワール会医療サービス)総院長
中村哲
ペシャワール会報88号より
(2005年06月28日)

飲料水源確保事業

2000年7月、旱魃被害の著しかったダラエ・ヌール診療所付近に端を発した本事業は、2003年6月には井戸1000本を超え、2006年5月現在、1400本を超えた。この中には灌漑用井戸11本、カレーズ38本が含まれる。ダラエ・ヌール下流域は、見違えるほど緑がよみがえっている。

だが、ニングラハル州全体で見ると、地下水位は下がり続けており、再掘削したものが大半である。全域で1400本の維持補修に当たるのは不可能となった。これは住民の自立を損なうだけでなく、予算上でも泥沼状態に陥った。このため、アチン郡で採用した「即時譲渡、住民自主管理」を進めてきたが、職員が利害関係に巻き込まれ、動きがつかなくなっていた。そこで、新方針を採り、「全水源を住民に譲渡、いったん井戸掘り事業を解散。その後に再開して公共性の高い場所に集中すること」が断行された。

2005年度はジャララバード事務所の新態勢を整えつつ、ほぼ全ての譲渡を完了、全井戸事業を停止した。職員も数名を残して次の段階に備えた。少なからぬ職員たちが過去の業績とPMSの名声の上にあぐらをかき、これに個人的な利害が絡んできたので、弊風を一新して出直す必要もあった。懸案は、やっと実行に移され、2006年度に「再出発」となる。2005年度の業績は別表1の通り。作業地が増えていないのは、以上の事情による。

灌漑事業

これまで会報で再三述べてきたので、詳細は過去の報告を参照されたい。
2005年4月、岩盤周りの難所(4・5キロメートル地点)を越え、念願の第一次灌水が始められた。03年3月着工から2年である。年度末には10・2キロメートル地点まで完成、2006年4月、第二次灌水でブディアライ村下流域を部分的に潤せた。これによって、過去の旱魃で無人の荒野となっていた田畑、約500ヘクタールを年度内に回復、緑野を取り戻した。2006年5月現在、灌水の面積は正確には以下の通り。

(1)過去の旱魃で砂漠化していた耕地…約480ヘクタール
(2)元来の沙漠が耕地となった地域…約50ヘクタール
(3)冬の取水が困難となった他の用水路への供給…推定約1000ヘクタール以上

※(1)と(2)は、何れもニングラハル州シェイワ郡クズ・クナール地方。(3)は既存の地域最大の2000ヘクタール以上を潤す「シェイワ用水路」への給水。大洪水で取水口が埋まり、浚渫困難で冬の取水量が半分以上低下していた。PMSも努力したが完全復旧が不可能と判断、我々のマルワリード用水路から余水を送って回復したものである。
なお、過去の会報で述べてきた「第一期工事・全長14キロメートル」を「全長13キロメートル」に訂正する。これは主に、ルートの短縮と測量誤差による。

2005年度は、以上の主水路の延長と共に、分水路の整備、大洪水・集中豪雨による決壊部の復旧工事、取水口の改修が重なり、大きな努力が払われた。

マルワリード用水路は、2006年度中に残るブディアライ村2,7キロメートルを完成し、2007年度から始まる第二期工事七キロメートルを以って完了する予定である。これによって、ニングラハル州北部の穀倉地帯は往時の農業生産を完全に回復した上、新たな耕作地を加えることになる。

また2006年度は、ブディアライ村上流(ダラエ・ヌール渓谷)に貯水池を多数設ける予定。アフガニスタン全土で最も犠牲になっているのは比較的低い山(4000メートル以下)の雪に依存してきた所(中小河川流域)である。大河川からの取水はむしろ例外的で、こちらの方が広域にわたる旱魃対策のモデルとなると信ぜられる。

付け加えると、初めから無人地帯であったと思えた荒野も、帰農した住民の話から、10年、20年、30年前からと、次第に増加していたことが分かった。中小河川の水量減少と農地の砂漠化が、相当前から徐々に進行していたことが分かる。場所によっては、ダウード政権時代(1974〜1978)以前からのものもあり、少なくともアフガン東部農村では、旱魃が難民化の主因であったと推測される。

表1.水源確保事業の現状(2006年4月15日現在)
  飲料井戸 灌漑井戸 カレーズ
ダラエヌール 395(263) 11(11) 38(38) 444(312)
ソルフロット郡 538(447)     538(447)
ロダト郡 538(447)     538(447)
カイバル峠 4(4)     4(4)
アチン郡 171(171)     171(171)
スタッフ用 20(20)     20(20)
その他 17(17)     17(17)
1,412(1,280) 11(11) 38(38) 1,461(1,329)
( )内は完成した井戸・修復したカレーズの数
(第T期井戸事業は同日を以って完了し、4月16日より第U期井戸事業を開始)



- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
灌漑事業トップへ>>>

88号中村医師の記事を読んでみる>>>

ホームへ 連絡先 入会案内