事務局のみなさん、
週間報告です。
現地は春めいてきて、まもなくヤナギ、クワの木が一斉に新緑をつけます。
水路をめぐる大きな工事は、もうすぐ終わります。
もう皆の気持ちは、農地開拓に移っています。作付けの計画などが始まりました。
今度は農地開拓に軸足が移りますが、前途は楽観できぬ状態が続きます。
騒乱が去り、アフガン中に平和と建設の日々が訪れるのを祈るばかりです。
カマ取水堰工事と共に、Q岩盤地帯の最終工事が来週中に終わります。P遊水池を入れると、高さ約12~18m、距離1,120mの長い築堤は、2年の歳月を費やす最大の難関でした。2回の記録的な集中豪雨に見舞われ、改修工事を重ねてきました。最後の大規模・機械力を投入するドレーン工は、計32,000立米の砂利を下段に敷き、危険な漏水(パイピングやボイリング)を防止し、堤体内の排水を速やかにする不可欠の仕上げです(浸透水処理)。浸透水は集められて灌漑用水として利用されます。
幅広い砂利の最下段におびただしい量のガズ、クワなど植林しています。アフガン農民が薪を使う生活から離れるのは考えられません。やがて大量の薪の生産地となるだろうと思います。また、連続する大きな遊水地にはマスに似た魚が既に進出しています。ガンベリ沙漠は穀類だけでなく、養蜂、牧畜、養魚、果樹栽培や燃料生産など、完全に近い食糧自給が可能になるでしょう。不毛の荒野に新たな耕地約900ヘクタールを生み、PMS試験農場200ヘクタールが開墾されようとしています。激しい洪水や土石流から里を守り、かつ灌漑用水の流れを保障する不動の基礎を担うのが、この岩盤周りの築堤工事でした。



下写真は第二取水口水門正面である。これは、外国支援団体が作ったとされる基礎打ちの無い水門を改修したものだ。その下の写真は、改修前の写真である。スライド式水門は濁流の底水を引き入れるので、水路内に土砂の堆積が起きる。
そこで、これを日本の堰板方式に変え、壊れた基礎部分を大量の巨石で強化している。堰板方式はアフガニスタンでは見られず、理解を得るのに時間がかかったが、最近では優れた効果を皆認めるようになった。見かけが野暮ったいので、一時はカブールの技師から苦情が出たこともある。「日本がやるなら近代的で立派な倒伏式」という固定観念があった。堰板にはフックつきの鉄板が張ってあり、アフガニスタンの「チャルハ(井戸に使われる巻きとり式の汲み上げ装置)」のロープの先に鉤をつけて堰板の上げ下げをする。これも、日本とアフガンの伝統技術の融合だ。
「倒伏式の調整水門または堰」とは、日本の一級河川で普通だが、強靭な鉄製の板を、油圧式の倒伏動作で越流する水量を調整し、最近ではコンピューター制御である。堰板方式の優れた点は、コストが問題にならぬくらい安くつくこと(倒伏式だと数億円)、堰板は5年に一度変えればよく、地元でも維持補修が可能、電気がなくてもコンピューター制御の変わりに水門番を置いて、急な増水や低下に臨機応変に対処できる。人間の五感を使う方が確かである。
堰板が東部アフガンの田舎で大きな役割を果たしたことは余り知られないが、これも日本の御先祖さまの知恵である。


★Dr.T.Nakamura★ 中村 哲
|
職員と作業員の地道な作業で、P緩衝池、Q2・Q3・Q4遊水池周辺(計約3.5㎞)の植樹を完了、最下段のガズの大量植樹が始まった。数年後の景観が楽しみだ。なおQ2池は架橋していて、いずれ公園化、養魚池を置く予定。(2010年3月4日撮影)