Top» トピックス» 掲載日:2021.9.24

トピックス7月月報(2021.7.28)

2021年7月28日報告
皆様、お元気でお過ごしでしょうか。
現地では、7月22日からイスラム教の犠牲祭が始まりPMSも一時の休暇となりました。コロナウィルスや治安悪化の心配がありましたが、今年は親戚同士でのお祝いの挨拶が行われたようです。例年同様に日本からナカムラコミッティ―メンバーたちにお祝いを伝えました。

厳しい干ばつと治安悪化
今年は2018年並みの干ばつになるとアフガニスタンでは言われており、6月にはガニ大統領も、アフガニスタン全域で食糧不足が発生していると発表しました。

PMSの活動地では、マルワリード用水路が横断するダラエヌール渓谷の水不足が心配されていました。この谷はPMSの井戸事業で農地灌漑用の大きな井戸を13基掘削した所で、更に上流に行くとダラエヌール診療所があります。降雨も少なくこれらの井戸の水位が低下したため、農地の水不足が深刻になっている村々から「マルワリード用水路から水を汲み上げて農地へ水を引きたい」との要望が伝えられました。中村先生が以前に同様の計画をお持ちだったこともあり、PMSは、①灌漑井戸の水位が上がってきた時点で汲み上げを停止する、②決められた給水量を越えない、③農業以外の用途に転用しない等の条件で承諾しました。

2009年にマルワリード用水路が最終地に到達した時、「このまま干ばつが進行すると、いつかこの谷は干上がっていくだろう」との中村先生の判断で、試験農場をこの谷からガンベリに移転したことを思い出しました。
7月に、NWARA(アフガニスタン 国家水資源管理機構)から技術者5名が一週間の研修に来ました。また、カーブル河流域河川管理官が訪問・視察、MRRD(農村復興開発省)が行なっている事業現場でアドバイスを求められたりと、PMS職員は忙しくしていましたが、進行する深刻な干ばつ対策に政府も力を入れているようです。

7月末から8月にかけてクナール河上流のヌーリスタン州で局所的な豪雨があり、河の水位が急激に高くなりました。昨年の全く同時期に同様の豪雨でマルワリード用水路が通過するウオレス谷から激しい土石流が下り、多大な被害がでました。世界各地で同じような気候現象がみられることを考えると、温暖化について真剣に考えるぎりぎりのところまで来ていることを感じます。
以下に現在の現地活動の様子をお伝え致します。写真での報告もありますのでご覧ください。

●灌漑事業
1. バルカシコート堰
現在クナール川の水位が高いので、主な作業は築堤・護岸工事と植樹や水やりです。堰が接続している砂州1や取水門上流側の岸辺の植樹については活着率が高く、植樹班によって良くケアされています。
2. マルワリード堰や取水門の改修工事
治安が更に悪化しているため延期。
他、PMSが手がけた堰の観察について、各取水門の門番やエンジニアによる定期的な見回りを継続しています。 

3. シギ・ゴレーク堰計画 
対岸に位置するシギ堰とゴレーク堰建設時の護岸線について地域住民の協議がもたれ、両岸の地域住民が妥協策を見出していく過程にあります。

●農業 PMSガンベリ農場
・1月から開墾を始めて農地が広がりを見せる中で、問題であった人手不足と農産物生産の向上を図るため、職員の補充が行なわれました。農業高校を卒業した24名の候補者の中から5名が試験採用され、7月24日から農場で働き始めました。今年は他の地域では干ばつが厳しいためPMS農場ではそれに備えた食糧生産と貯蔵庫等の設備を整える予定です。

・2015年に移植したナツメヤシに初めて実がつきました。アフガニスタン、パキスタンでは大変好まれている食物で、中村先生も結果を楽しみにしておりました。PMSでは初めての栽培経験なので無事に収穫まで漕ぎつけられるかを観察中です。
稲や柑橘類の栽培中にPMSが今まで体験したことのない栽培上の問題も出てきています。担当のアジュマルジャンと支援室の担当者が密に連絡を取り、専門家の細野博士や福岡の試験場からアドバイスを受け対応中です。

●医療 ダラエヌール診療所 
6月診療数は5548人と前月から1,500人も増加しました。原因はコロナウイルス感染の疑いの患者の増加にありました。感染が疑われる患者はジャララバード市内の治療センターに送ることになっていますが、呼吸困難の症状が多く診療所の酸素ボンベが不足に陥り急遽購入を進めました。ハフィーズ医師は、デルタ株が蔓延してきたと考えられると報告しています。バザールでは医療用のマスクの入手が難しくなっており、FAOの協力を得て急遽現地へ発送しました。

その他
PMS方式灌漑事業ガイドラインの日本語版と英語版が完成。現在パシュトウ語版とダリ語版を制作中です。

PMS支援室一同


▼クナール河の8月5日までの水位グラフ。2021年(赤線)は、干ばつの厳しかった2018年の曲線(青色)と推移がよく似ている。7月末に水位が急上昇しているのは、上流ヌーリスタン州で局所的な豪雨による洪水が発生したためで、300人以上が亡くなった。
クナール河水量グラフ


▼バルカシコート工事現場の砂州1で水やりをしている様子。柳の挿し木が活着し、葉が青々と茂っている。バルカシコート堰事業が始まってから半年の間に、砂州1や取水門上流の護岸等に柳、シーシャム、マツ科の幼木が合計で2万本近く植えられた。2021年5月26日


▼護岸の拡幅工事風景。PMS方式では、ダンプトラックが行き来できるよう、幅10m以上を確保している。奥の樹林帯は2013年にPMSが施工した「Green Mound 方式」(次図参照)の護岸である。2021年7月5日
写真内の矢印が、2013年にPMSが施工した「Green Mound 方式」の護岸の樹林帯


▼Green Mound (緑の丘) 方式は、洪水を完全に封じこめるのでなく、盛り土と植樹で被災を減ずる堤防。表法に柳を密生し、裏法にユーカリとシーシャムを植樹する。浸食には弱いが、激しい堤防崩壊を防ぎ、溢水しても大幅に被害を減らす。(『アフガン・緑の大地計画[改訂版]』より)
植物を使った防御壁


▼堤防天端の締め固めをしている様子。PMS方式では厚さ30cm毎に、ローラーで締め固めを行う。 2021年6月29日


▼今回は初めての試みとして、柳がより活着しやすいように護岸の河側法面に土を入れ溝を作って、柳を挿している。 2021年6月29日


▼バルカシコート堰事業でも、これまでと同様に取水門付近に水門番小屋が建築されている。 2021年7月27日


▼6月21日(土)~24日(木)までNWARA (国家水資源管理機構)の技師5人がPMS方式を学ぶために、作業地を訪問した。写真はバルカシコート堰での実地研修。右上は植樹の説明中。2021年6月22日


▼現在のカマⅠ堰。増水し越流線がはっきりと見えている。砂州との接合部は浸食と改修が繰り返され、中村先生が最も苦心した点だ。砂州の浸食を防ぐために、できるだけ緩い傾斜を取り流速を落とした。増水期の現在でもゆるやかな流れを保っているように見える。2021年5月24日


▼カマⅠ堰を下流から眺める。堰を越流する水と洪水吐き、土砂吐きからの水は堰中心部の直下流に集められ、お互いの勢いを減殺している。これにより対岸砂州の洗堀・流出が抑えられる。2021年5月24日


▼カマ堰対岸下流、ベスード地区の護岸。石出し水制間に大量の土砂の堆積が確認でき、よく機能を果たしていることが分かる。2021年5月24日


▼高台から眺めたマルワリード=カシコート連続堰。全長505mに亘って越流線が大きく弧を描いて、カマ堰同様河の中心に流れが集まっていることがわかる。2021年5月9日


▼取水門周辺からのマルワリード堰。堰体内に5本の土砂吐きが設けられている。現在のままでも機能はしているが、
①排砂機能が弱い、
②急流が下るため、巨礫の配列が乱れやすい、
③堰の保全(特に河道②)のための交通路が渡せない、
などの課題がある。治安の事を考慮し改修工事を延期しているが、いずれPMS方式の標準設計となったコンクリート製の土砂吐き(=可動堰)を設置する予定である。2021年5月9日


▼マルワリード用水路C地区(取水口から1.5km地点付近)で護岸の洗堀が発生した。ここは用水路と護岸の距離が短く、このまま崩れると水路の崩壊にもつながる。現在巨礫や土砂を投入し、補修を行っている。2021年8月3日


▼ガンベリ主幹排水路。田畑の浸透水を一挙に集めクナール河へ流す、地域の大静脈。蛇籠を支える柳が育ち、美しい景観となっている。 2021年5月24日


▼ミラーン堰の現在。土砂堆積があり、取水門への河道は歩けるほどの水深となっている。現在は取水量に問題はないが、水位が下がる秋以降は注意が必要である。2021年5月25日受信


▼ガンベリ農場では、4月末にPMSが飼育している牛の競売が行われた。大きな乳牛の番は特に盛り上がり、参加者たちは競って入札した。牛はミルクをもたらし、農作業で役に立ち、牛糞は燃料や堆肥になる。アフガン農民には欠かせない。19頭が買い取られ、現在合計40頭を飼育している。2021年4月27日


▼PMSの麦刈り風景。作業員を増員し、収穫が行われる。今年の作付面積は205ジェリブ(41ヘクタール)。2021年5月1日


▼収穫された小麦は約46トン。今年アフガニスタンは厳しい干ばつが予想されているため、採れた小麦はミラーン事務所に貯蔵している。2021年5月27日


▼6月に入り、田植えが始まった。当初37ジェリブ(7.4ヘクタール)で田植え予定だったが、48ジェリブ(9.6ヘクタール)に田植えを行うことができた。2021年6月6日


▼水田の雑草対策で雁爪(がんづめ)を使う作業員。PMS職員の一人がダラエヌール渓谷の農民から借りてきたもので、かつて日本からアフガニスタンへ持ち込まれたものが、一部普及していた。2021年6月22日


▼現地の雁爪と、日本の雁爪


▼現地に送った水温計とダラエヌール診療所用のマスク、農具の雁爪。加えて、6月上旬遂に完成した『PMS方式灌漑事業ガイドライン』英語版も同封した。FAOの協力を得て、発送から3週間余りでPMS事務所に届いた。2021年7月9日