Top» トピックス» 掲載日:2022.4.28

12月月報(2021.12.20)

2021年12月20日報告
皆様、お元気でお過ごしでしょうか。

8月15日のタリバンによるカーブル掌握後の現地情勢やPMSの活動状況については、8月25日、9月17日、10月17日に村上会長/PMS総院長が報告を致しました。
12月初旬に発行したペシャワール会報では、PMSの職員たちが各事業の再開や現状について報告をしておりますので、合わせてご覧下さい。

厳しい干ばつで食糧危機に直面しコロナウイルスも蔓延する中で、アフガニスタンの資産が凍結されたまま12月を迎えました。PMSもジャララバードの銀行から資金の引き出しが制限されるなか、農業生産物からの収入を合わせて、ダラエヌール診療所での医療、ガンベリ農場、バルカシコート堰の工事が進められています。加えて、2019年12月から4年間の工期で始められた、マルワリード堰・用水路改修計画が小麦の播種を待って開始されました。また、河の低水期に入り、増水期を経た各堰の維持・保全のための観察、農閑期の用水路の保全についてPMSの職員たちとのやり取りが始められています。
資金面の問題があるため常に優先度を考えながら、農場で成長した樹木を薪や材木として、また畜産から売却できる牛はいないか等々、何とか資金を捻出できないかを考える日々です。

 11月30日にガンベリ横断水路で流域住民による浚渫作業が行われました。現地語でアシャールと呼ばれる奉仕作業によって住民たちの自主的な作業でした。集まった村民たちに地域の代表から「中村先生は私たちのためにこの用水路を造り努力をされた。私たちもこの用水路のために働こう」とスピーチがありました。この動きこそが中村医師が「私の後継者は用水路です」と考えられた事に繋がると感じ、大変厳しい状況にあるアフガニスタンで希望を失ってはいけないと思わせられる出来事となりました。

●バルカシコート堰
 10月に燃料の購入ができたことでPMSの重機をフル稼働し7日に工事を再開。また、重機レンタル会社の協力(レンタル料の半額を支払う)があり、11月中旬から重機を増やし、堰の完成に向け本格的に工事が進められている。
ひと夏(増水期)を経た仮堰や取水門、土砂吐き周辺の河道や砂州の変化、MRRDによって造られた河を二つに割るような高い石積みの壁による河の変化などを観察しながら、現地PMSと日本側技術支援チームとの協議が持たれ現在下記の対策が取られています。

※砂州2が拡大し、土砂吐きからの流れを封鎖し土砂吐き下流側から河道1に水がプールされた状態となっている。
砂州2に蓄積していた巨礫を早急に堰工事で使用し、砂州2の上流端側の土砂を除去する。

※ 堰が接続する砂州1の上流右岸側に砂利・土砂の堆積が広がり河道内に張り出している。
河道へ張り出している堆積物の除去。資金問題から稼働重機の台数に限りがあり、上記の作業を先に終えてから取り掛かる。

マルワリード用水路改修計画
用水路H区4kmの用水路床面のライニング工の予定だったが、資金不足から今回は2kmに短縮しバルカシコート堰の工事を優先的に進める。
H1池の土砂堆積が多く、浚渫が人力では難しく掘削機が必要となった。また、軟弱地盤のため砂利で置き換えた後にハウラセメントで床面のライニングを行なう。エンジニアの発案で傾斜を変更し砂の滞留防止策をとっている。

その他
PMS方式灌漑事業ガイドラインのパシュトウ語版とダリ語版がいよいよ印刷に入りました。

中村医師の現地活動は1984年に始まりましたので、丁度旧ソ連がアフガニスタンに侵攻している時代でした。その後ソ連が撤退し内戦が始まり数年後にラバニ政権が樹立しました。そしてタリバン政権、カルザイ政権、ガニ政権と続きました。今回のタリバン暫定政権樹立でPMSは中村医師と共に政変を5,6回経験しています。どんな政権でも彼らのルールにのっとり協力体制をとり今日に至ります。この度の政変において、治安の回復では目を見張るものがありました。しかし、8月の資産凍結や外国団体の撤退により、大干ばつで既に食糧危機に直面していた人々や大量の失業者が取り残されました。干ばつは現政権になってから始まったわけではありません。中村医師は干ばつのために2000年から井戸を掘り、干上がり土漠化した畑を復旧させるために取水設備を改修、建設しながら「干ばつは進行している」と20年間訴えてきました。現在、この厳しい状況下での資産凍結で、食べられずにいる人々に支援もできない状況です。何とかできないものかと現地の職員たちと意見交換を繰り返しております。

早いもので今年もあと僅かとなりました。今年も皆様に励まされながらの一年でした。
御礼を申し上げますとともに、新しい年が皆様に素晴らしいことの多い年になりますよう祈念致します。
PMS支援室一同

▼バルカシコート事業は11月17日より、重機の数を増やし本格的な工事が始まった。現在①堰の造成、②巨礫の輸送、③護岸造成、④土砂吐き下流の砂州(砂州2)の掘削、⑤植樹・水やりが、一気呵成に行われている。2021年11月21日


▼①堰の造成。堰の造成は限られた期間の工事になるため、両岸から行い、河が増水する前に完成させる。2021年11月24日


▼②巨礫の輸送。堰に使用する巨礫をマルワリード用水路D池上流の谷とバルカシコート村の谷から輸送しており、ダンプトラック8~10台が日々稼働している。2021年12月1日


▼③土砂吐き下流の砂州掘削(上下写真の赤で囲んだ部分)。護岸沿いの河道の河床が、堰を乗り越えて流れる河道の河床より高く、土砂吐きからの流れが緩流化し土砂堆積をおこしていた。砂州を撤去し、土砂吐きからの流速を増し、排砂機能の回復をはかる。


▼④護岸造成。砂州掘削後の土砂で護岸のかさ上げをし、ローラーで締め固めを行っていく。2021年12月1日


▼⑤植樹・水やり。現在までに護岸、取水口対岸の砂州1、主幹水路、取水門上流の護岸等に25,000本の柳が植えられており、作業員が一本一本に丁寧に水やりを行っている。2021年12月1日


マルワリード用水路H地区以降のライニング改修工事開始
11月27日より、マルワリード用水路H・I 地区(取水口より約5km地点以降)のライニング(用水路床面)工事が開始された。今回の改修距離は計画では4kmであったが、経済封鎖による資金不足のため、今年は2kmを行うことになった。残りは状況を見て、今後いつ行うか検討する。子どもたちも作業を見守っている。2021年12月8日


▼マルワリード用水路H・I区。


▼工事開始直後。1年前にもPMSは浚渫をしたが、土砂が大量に堆積していた。今回の改修ではエンジニアの発案で、より勾配をつけ土砂が溜まらないようにする。
2021年11月27日


▼紐を張ったり、水盛りパイプや測量器を使って、正確に傾斜をとる。2021年12月12日


▼軟弱地盤を十分攪拌したセメントと土砂・砂利に置き換えて、コンパクターで締め固めを行う。2021年12月4日


▼締め固めを行なった上に、ソイルセメント層を敷く。最終仕上げは必ず手作業で行う。作業員は多い時で約80名。3グループに分かれて作業を進めている。2021年12月2日


▼用水路隅もソイルセメントで埋めつぶすことで、流路隅の渦流の発生と土砂堆積を抑え、全体の流速を増す。2021年12月7日


▼用水路D地区(取水口から1.9km地点)。昨年ライニングの改修をした地点では土砂の堆積は全くなかったとのこと。2021年11月29日


▼ガンベリ沙漠の東側を南北に貫くマルワリード用水路S地区で、ハシャールが呼びかけられ、住民による浚渫作業が行われた。 開始前に長老の挨拶に耳を傾ける住民たち。2021年11月30日


▼地域の住民が力を合わせて、水路にたまった泥・砂利を掻き出している。
2021年11月30日


▼現地から送られてきた12月9日までのクナール川の水位グラフ。 10月下旬ごろから2020年(黄線)とほぼ同じ水量で横ばいの推移。


▼レモン園。柑橘類はPMS農場で大きな収入を生む。今年は直射日光により白く日焼けしてしまうなどの問題も生まれた。今後は上部の枝葉を残すように剪定するなど、改善の余地がありそうだ。2021年9月13日


▼今年の稲作は9.6ヘクタールで行われ、約40トンが収穫された。うち約36トンが販売され、残りは来期の種籾として保管される。2021年10月11日


▼トウモロコシの収穫風景。2021年10月18日


▼今年は厳しい干ばつが予想されていたため、ガンベリ農場で収穫された小麦を貯蔵していた。幸いPMS作業地では水の恩恵を得られているため、バザールへ出荷することとなった。しかし、PMS作業地を一歩外に出ると厳しい干ばつに直面しているのが現状だ。2021年11月6日


▼ガンベリ農場の牛舎。毎朝新鮮なミルクがバザールへ出荷される。今年の4月には19頭、10月には1頭が競売にかけられた。牛たちはガンベリ農場で栽培しているアルファルファやソルゴー(飼料用モロコシ)を食べ、牛糞は燃料や堆肥になる。2021年11月13日