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―アフガニスタンの現状とPMSの今(4)―

2022年1月26日
ペシャワール会会員・支援者の皆様へ

私たちの現地事業が多くの人々の慰めになり、ひとつの灯火として存続することを願って止みません。
─ 中村哲
2022年が始まりました。これまでに寄せられた多くのご支援に感謝申しあげます。
昨年8月のタリバン政権復活を期に生じた混乱の中でも、中村哲医師とPMSの事業に心を寄せていただく支援者の輪が広がっております。中村先生の精神が確かに引き継がれていることを強く感じ、励まされています。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
ペシャワール会会長/PMS総院長 村上優

◎経済封鎖による飢餓と社会不安

2021年の初めから、温暖化に伴う干ばつによる飢饉、飢餓、餓死の危機は叫ばれていました。同年10月25日には国連食糧計画(WFP)が「冬の間に2280万人が深刻な飢餓に直面、そのうち870万人が緊急事態の飢餓に陥ると推定される」と警告しました。しかし現状は、経済封鎖=制裁により、状況は悪化し続けています。12月に入り、カブールなどの標高が高い地域は氷点下が続く真冬になりました。飢餓と寒さにより栄養状態の悪い人から命が奪われていきます。貧しい子どもや妊産婦の死が現実のものとなって広がっています。これは回避できるはずの人為的な死です。
ペシャワール会からPMSへの送金は銀行を介して行われてきました。しかし、タリバン政権樹立後は日本からの送金は停止され、アフガニスタン国内の銀行にあるPMSの預金もアフガン政府の指示で引き出しが大きく制限されています。これではPMS職員や作業員の給与の一部でさえ支給できません。アフガニスタンの国の資金は全て米国の銀行に置かれており、これが凍結されているのです。世界銀行、IMF(国際通貨基金)も同様です。世界銀行は凍結を解くと声明を出したものの具体的な施策は見えていません。
緊急人道支援の呼びかけでパキスタン、インドなどの近隣諸国、WFPなどの国際機関による食糧配給が試みられていますが、私たちが活動しているナンガラハル州で見聞する限りでは、有効な手立ては講じられていません。
旧アフガニスタン政府の多くの職員は国内にとどまっています。しかしこの4か月間の給与がまともに支払われていないために、行政機関としての機能にも大きな支障が生じています。企業活動も停止し、失業者の急増などによる社会不安は高まっています。国際社会がタリバン政権を「否認」することで生じる社会不安は、貧しい者、弱い者たちの命を脅かしています。今はタリバン復活以前にはあった戦闘がなくなって静かな状態ですが、予断は許されません。過去の内戦の悪夢は絶対に避けなければなりません。
中村先生は2003年の惨状を前にこう述べています。
《アフガニスタン国民を救うものは、「民主的」政治改革や、目先の教育、経済投資ではありません。(略)事は余りに重大です。平和への志向は、人為の小世界に欺かれず、いのちを尊び、実際行動で力を持つべきです。(略)無実の人の殺戮を是認してまで守るべきものとはいったい何でありましょう。》(2003年7月ペシャワール会会報76号)

◎現在のPMSの活動

医療
現在、ダラエヌール診療所は通常どおりに診療活動をおこなっています。低栄養状態による貧血は子供や妊産婦に多く、冬季のために肺炎などの呼吸器感染も多くみられます。新型コロナウイルス感染症は8月15日以降も進められたワクチン接種の効果で、感染拡大は大規模ではありません。
診療に供する薬剤は9月末に3か月分を確保しました。しかし国や州立医療機関が資金不足で機能停止しているために、遠方からの受診も増えてきています。そこで、12月にはさらに3か月分を購入、備蓄を増やして診療体制を整えました。医師からは、低栄養を伴う患者家族への栄養パックを支給するようにとの提言を受けています。飢餓を原因とする疾病には薬だけでは効果がありません。食べるものが必要です。

農業
すでに昨年春に収穫した小麦は全て供出しました。トウモロコシやコメは昨秋のうちに収穫できて供出し、レモンなどの柑橘類も収穫は終わりました。昨年11月には麦播きも終え、順調に育っています。クナール河周辺の、PMSの灌漑事業が潤すシェイワ、ベスード、カマ郡では普段の農村風景が見られます。しかし、その風景は、我々の活動するナンガラハル州22郡の中でもこの3郡だけです。田畑が土漠化して麦播きができず、この春の収穫がない地域も多く、難民化する村人も出ております。この対比こそが、20年間喧伝されたアフガン復興の現実です。農村の復興は可能でした。農村復興のもたらす平和も可能でした。大干ばつを前に、地を這って行なってきた事業に回帰すべき時が来たと信じるのは私たちだけでしょうか。

灌漑用水路
2020年12月より始まったバルカシコート堰の工事は、川の水位が下がり始めて、川の中での作業が可能となる昨年10月より2期工事が始まりました。11月からは自前の重機だけでなくレンタル業者の重機を投入して、順調に斜め堰の完成(本年3月終了予定)に向けて工事が進んでいます。日本側の技術支援チームがアドバイスしていた砂洲の除去など、堰の上流下流の工事も順調で、今年の9月までに取水堰完成が見通せるところまで来ました。また、ガンベリ地区の用水路では地元住民による浚渫作業が行われました。

食糧支援
2021年12月の現地PMSとの協議で緊急食糧支援を実施すべきと判断しました。さまざまな調査を行った結果、対象をナンガラハル州の14郡とし、最初は6郡での食糧配給をすることを1月13日に決定し、実施に移しています。多くの人々が飢餓状態にある状況下で、配給には混乱も予想され、円滑に実施するために州や郡の保健局と協力して妊産婦、栄養失調児を中心に、1月23、24日にアチン郡の300家族(約3,000名)に食糧の配給を無事終えました。次いで1月25,26日にドゥールババ郡での配給に向けて準備をしています。2月上旬をめどに6郡の配給を終える予定です。配給食糧は小麦粉や米、豆類、食用油を栄養パックとして支給します。6郡の食糧配給のためPMSとして9万ドル相当の資金を投入し、合計1,800家族(約18,000名)に支援をする予定です。それ以上の実施に当たっては、経済封鎖による送金困難を越えて、可能な限り全力を尽くしてこの冬を乗り越える支えとなるように行動します。

皆様には、経済封鎖の中での事業についてご心配をいただいています。活動を支えているのは、現地における農業収益、PMS職員の献身的な活動、そして日本での多くの人々の声です。何度も引用しますが、ペシャワール会とPMSの想いは「水が善人・悪人を区別しないように、誰とでも協力し、世界がどうなろうと、他所に逃れようのない人々が人間らしく生きられるよう、ここで力を尽くします。 中村哲」に尽きます。
現地への食糧援助や送金など、私たちはできる限りの試みを実行してまいります。これからも皆様のご理解とご支援を切にお願いいたします。