Top» トピックス» 掲載日:2022.8.22

7月月報(2022.7.25)

2022年7月25日報告

クナール河・カブール河の異常低水位
皆さま、お変わりなくお過ごしでしょうか。
現地では犠牲祭(大イード)を7月初旬に迎えPMSは4日間休みになりました。日本から各責任者にイード祝いを伝えました。職員たちは口々に、「イード期間は親戚廻りをし一緒に食事をして談話する、さっきまで友人が来て一緒にお茶を飲んでいた。これはアフガニスタンのとても良い習慣なのだ」と楽しんでいる様子を伝えます。そしてカブールもジャララバードもたいへん穏やかな日々であったと強調していました。

干ばつについてご報告を致します。
6月の現地との定例オンライン会議で、ダラエヌール診療所のあるカライシャヒ村とその近くのアムラ村も農地が干上がってきているとの報告がありました。昨年は同地方のブディアライ村と上流のシュキアライ村が干上がり、給水対策が進められていましたが政変が重なり停止され、この2ヵ村の人々は都市部や隣国へと難民化しました。この地はPMSが2000年から飲料用の井戸掘削や38ヵ所のカレーズの復旧、2001年から農地用の井戸を13ヵ所手掘りしたところです。早速職員たちが調査をしたところ、灌漑用井戸2ヵ所はボーリングで更に掘り下げて水を確保し、他の2ヵ所は水位が取れず使用不可。残り9基は1時間汲み上げると水が無くなるという状態でした。
現在飲料用井戸も調査中です。

厳しい干ばつの中、6月21日にアフガニスタン22州で久しぶりの降雨がありました。少しは地下水が上がるのではと期待していた所、22日の夜中の1時過ぎにホースト州を震源とした震度6の大地震が発生しパクティア州、パクティカ州でも大災害をもたらしました。PMSの活動地では軽い揺れを感じたほどだったそうです。

降雨により鉄砲水が発生したマルワリード用水路のH区で一部決壊が見られましたが、手作業で修復できる規模でした。また、地震の影響かはまだ判断がついていませんが、同用水路C区で用水路の高い位置からの漏水が見られソイルセメントを使用し修復が行われました。

今年は昨年に続き雨が殆ど降らず、気温40度を超える夏になってもクナール河の水位がなかなか上がらず心配をしていました。6月21日から2日間の降雨にもかかわらず河の水位は上がらず超異常低水位を示してしています(水位表参照)。また、6月22日にはケシュマンド山脈やスピンガル山脈に降雪が見られました。カブール州のパグマン郡やバーミヤン州でも同様に積雪があり時季外れの雪に皆驚いていました。
PMSは全ての堰の確認をしましたが、どの堰も必要水量を取水し用水路内の水位は十分に保持していました。また、クナール河より厳しい低水位のカブール河では河道の変化も見られ、この増水期にもかかわらず堰を越流する水位もない状態です。しかしこのカブール河に造られたカシマバード堰ではしっかり取水され用水路に流れ込んでいます(写真あり)。「河の水が少ない時も、洪水の時も安定した取水ができる」とPMS取水方式の説明をしていた中村先生を思い出し、改めて斜め堰の素晴らしさを感じています。

PMSは来年度の灌漑事業計画のため5月からナンガラハル州の他ラグマン州やクナール州、ヌーリスタン州まで足を延ばして調査を開始しています。干ばつの最中、更に河の異常低水位によって取水が困難になっている新しい地域で「PMS方式灌漑事業ガイドライン」を元に多くの技術者や地域の人々と一緒に働き、技術の伝達をしながら農地の復旧を目指します。

●バルカシコート堰(2020年12月―2022年9月完工予定)
工事は順調に進行しています。用水路建設がほぼ終わり、谷からの洪水が通過する橋の建設も終了。現在は沈砂池の造設中です。沈砂池には既存の用水路へと送水される送水門と池に堆積した砂をクナール側へ排出させる排水門も建設されます。また、用水路近傍の山の谷に造設した砂防堤合計27ヵ所は最終地の整地をしています。今後植樹が進められる予定。

●農業
干ばつをよそにPMSのガンベリ農場やPMSの活動地のシェイワ、ベスード、カマ郡では5月に麦刈りを終え例年通り田植えが行われました。ガンベリ農場では、イチゴや玉ねぎ、グリンピース等が収穫され大豆やトウモロコシの種まきが終わっています。
今年はサツマイモの栽培を試みています。サツマイモは種芋の越冬が難しく暫く栽培をやめていましたが、中村先生が2018年に再度挑戦されました。そのあと小規模に栽培を続けましたが、ネズミ被害で殆ど収穫が出来なかったとのことで、今年は対策として猫を農場で飼うことにして5月に苗植えをしています。サツマイモが成功すれば干ばつ地にも普及できるのではないかと期待しています。昨年PMSは農業学校を卒業した人材を5名ガンベリ農場職員として採用しました。彼らとアジュマル農業事業責任者を対象に、オンラインで「施肥技術及び土壌」について細野先生(2017年からPMSへの農業指導、PMS方式灌漑事業ガイドラインの農業項目執筆者)による講義が行われました。
彼らは学ぶことに意欲的で質問も多く、習ったことを実施できる農地があるため大変実用的な講義となりました。

●医療
ダラエヌール診療所の6月の診療数は4800人でした。コロナウイルス感染疑いのある患者は減少してきました。しかし経済制裁で他の医療機関が機能していないため来院者が多く、無制限に診療をすることは困難であることを訴えています。

医療の問題も大きいですが、干ばつが凄まじい状態で国民の95%が厳しい食糧危機に陥っており、更に飲料水の心配も出てきました。この状態の中、昨年8月の政変から続く経済制裁は解かれていません。私たちは何とかPMSと連携して対策を考えてゆきたいと思います。
PMS支援室一同

▼バルカシコート事業は主幹用水路(全長300m)と、時折鉄砲水が発生する谷に建設していた砂防堤の造成が完了し、現在、沈砂池、洪水通過橋、護岸の造成と植樹後の水やりが行われている。写真は沈砂池の送水門、分水門の鉄筋組みと池側壁の蛇籠積みを行っている様子。2022年7月7日


▼沈砂池の送水門と分水門のコンクリート打設作業。コンクリートミキサー車を複数並べ、人海戦術でフル回転して作業を行う。2022年7月6日


▼建設中の洪水通過橋(長さ7m×幅10m)。洪水通過橋は谷からの土石流が用水路を横断する箇所に設置され、用水路への土砂流入を防止する。 2022年6月30日


▼造成中の砂防堤。50名以上の作業員が40度を超えるうだるような暑さの中、一つ一つ手作業で蛇籠を積み重ね建設した。2022年6月29日


▼会計のカービルさんが作業員の労賃を支払うため、砂防堤の建設現場に向かう。2022年7月6日


▼現地から届いた7月7日までのクナール河水位グラフ。今年(赤線)は例年の同時期に比べ異常な低水位が続いていたが、7月6日頃に東部およびカブール、ウルズガン州で降雨があり急激な水位上昇。しかしカブール河では水位の上昇が見られない。


▼現在のミラーン堰。上のグラフでは、水位が上がり始めている6月19日の撮影。ミラーン堰は砂州1・2・3が連続して造られている。河道①内への著しい土砂堆積が毎年発生しているため増水期も観察が欠かせない。


▼取水門と隣接する土砂吐き1と石積み堰。 増水で石積みは見えないが、堰の巨礫に乱れがなく越流水が美しい。2022年6月19日


▼カマ橋から撮影されたスピンガル山脈。2022年6月23日 バーミヤンやカブールのパグマーン郡などで6月の降雪という異常気象の報告があり、急遽ファヒーム技師に撮影を依頼。この時期の降雪は珍しく、また山に残らず、すぐに溶けて流れ去り洪水を招きかねない、とファヒーム技師は嘆いていた。


▼撮影方向


▼7月7日までのカブール河水位グラフ。クナール河同様、今年(黄色)は渇水に喘いでいるようだ。PMSの取水堰の中で唯一カブール河にあるカシマバード堰は、上流に2つのダムがあるため水位の変動が激しい。


▼渇水のカシマバード堰。堰の石積みは剥き出しで、手前に設けられた土砂吐き(余水吐き)も巨礫で塞がれている。2022年6月19日


▼対岸砂州から。2022年6月19日


▼カーブル河は超低水位であるが、用水路には50cmの水位が保たれている。2022年6月19日 「この堰は15cmの超低水位でも潤せるよう設計している」(中村医師、2014年3月報告)


▼マルワリード用水路では現在2カ所で補修工事が行われている。水門番たちによる用水路のパトロールが定着し、水路に異変が起きた際はすぐにPMSのエンジニアに連絡が行き、調査・補修が行われる体制ができている。


▼取水口から約5.3km地点、用水路H区。谷からの鉄砲水によって土手が破れ、水路に土砂が流入した。大きな工事ではなく、補修工事は作業員たちの手作業で行われた。2022年6月21日


▼同地補修風景。ファヒーム技師は「自分たちが長老になったり、いなくなったりしても水路を維持していけるよう、作業員たちに一つ一つ説明しながら一緒に仕事をしている」と語る。2022年6月21日


▼決壊部は蛇籠で造成し、透過性を持たせる。鉄砲水は用水路に流れ落ちる。2022年7月3日


▼取水口から約1.6km地点、用水路C区。用水路からクナール河側に漏水が見られた。漏水部にハウラセメントを充填し覆った。6月22日の地震によるものか、用水路壁面の雑草の根によるものかは調査中である。2022年6月21日


▼補修後の同地。2022年7月3日


▼PMSガンベリ農場での麦刈り。断食月後のイード期間中も、多くの作業員が麦刈りのため働いた。今年はアフガニスタン各地でサバクトビバッタなどによる被害があったが、行政も迅速に対応し、幸いガンベリ農場では大きな被害に至らなかった。2022年4月26日


▼かつて「死の谷」と呼ばれたガンベリで、今年も田植えが行われた。アフガニスタンほぼ全土が干ばつに被災しており、この地域も3カ月雨が降っていない中で、奇跡のような光景。2022年5月30日


▼約1カ月後の水田。2022年6月29日


▼ガンベリ農場で初めての栽培する大豆。収量が良ければ、更に栽培面積を増やす予定。2022年6月29日


▼昨年末に試験的な栽培を始めたイチゴ。40度近い猛暑の中、直射日光を浴び枯れてしまった。来期は日陰での栽培を検討中。2022年6月29日


▼ガンベリ農場の猫。冬にサツマイモを食べにくる野ネズミ対策として、活躍が期待される。