Top» トピックス» 掲載日:2022.10.25

8・9月月報

2022年9月14日報告

突発的、局所的豪雨発生
改修工事
コット郡で用水路建設


皆さま、お変わりなくお過ごしでしょうか。

7月の報告書でお伝えしましたが、クナール河は例年3月初旬頃から水位が上昇しますが4月になっても低水位で、洪水期の5、6月に入っても異常な低水位が続き心配をしていました。
そのような中、6月20日に局所的な集中豪雨がありました。22日にはスピンガル山脈、カーブル、ヌーリスタン州などで季節外れの降雪があり地域の人々を驚かせました。22日にホースト州で地震が発生。以降散発的な降雨が続き、7月20日過ぎにはアフガニスタン34州のうち中部や東部の24州で豪雨があったと伝えられました。そしてナンガラハル州やラグマン州では8月26日夜半から連日の豪雨で大洪水が発生し、軍のヘリコプターでの救助活動が行われたほどです。

この8月の大洪水でPMSの職員たちは、今にもクナール河が氾濫し村落に流入しそうな状況の中、現場に張りついて補修工事に尽力しました。現地では異例の夜11,12時過ぎまで作業を続け昼夜を問わず働く日々でした。多くの村人が家財道具を積んで非難するなか、村に残った青年たちと一緒に働き緊急工事を終えるのに1週間かかりました。彼らの働きでPMSの活動地では村への洪水流入は免れましたが、クナール河上流には既存の取水口が無数にあるため、そこから洪水が流入して村落に被害があっただろうと容易に想像できます。
現在PMSは各現場の護岸堤の修復工事中です。河が低水位期に入る数週間後には各堰の観察・修復工事に取り掛かります。

PMSの動き
1. 9月末にバルカシコート堰・用水路が完工。主幹用水路の末端に作られた沈砂池から既存用水路への接続工事が完成し迂回路からの送水を停止。用水路と交差する洪水通過橋から河への通路も完成し交通路周辺の整備中。これで植樹と水やりを残し全ての工事が終了。PMSは通常通り今後5年間は、地域への譲渡に向け取水調節や用水路の維持管理を住民らと共に行う。

バルカシコート近傍の山谷に初めての試みとして造られた砂防堤は、8月の豪雨で成果がみられた。鉄砲水を緩流化させ下流の用水路や田畑への被害を抑え、さらに堤に水を滞留させるので周りに草が生えてきている。現在は鉄砲水による堤の修復を終え、堤とその周辺への植樹作業中。そのうちこの山一帯が緑化するのでは、と期待している。

2. マルワリード用水路の8月末の局所的豪雨、鉄砲水による修復工事―マルワリード用水路では今年6月中旬から8月にかけて発生した集中豪雨、鉄砲水で用水路の修復をしてきた。L地区のサイフォン部(洪水路)では覆土がかなり流失した。PMSの技師たちはバルカシコートの谷の経験から、マルワリード用水路流域にも砂防堤を設置することを提案している。

3. 10月からの新事業計画―コット郡での調査が大詰め。小規模な用水路ではあるが斜面に建設するため、沈下、滑り、崩壊などなど懸念事項が多々あり、地盤支持力を調査。その結果、不安要素はあるが建設開始が決定し10月1日から資機材調達、地域作業員の雇用、重機の移動や現場事務所の準備中。

4. 農業―ガンベリ農場
冬野菜の種まきや苗つくりと同時に収穫期を迎えた。

ナツメヤシ
今年は待ちに待ったナツメヤシの収穫があり現在農業事務所で乾燥中。2016年にカーブルの日本大使館からの支援金で、早生種をパキスタンから500本ほど買付けて移植したもので、当時の中村医師の報告書に次のような記述がある。
「ナツメヤシは、雌雄分かれていて、その配置などで特別な技術が要る。また結実するまでの日時が長く(約15年)敬遠されがちだった。今回はオマーン産の短期結果種(約4~5年)を持ち込み、技術者を雇っている。2016年2月7日」
初めての結果が昨年見られたが収穫まではいかなかった。今年は50本から収穫ができ、今後の成長に期待できそうである。

サツマイモ
5月に植え付けをしたサツマイモは、日本ほどつるが繁茂していないが皆楽しみにしている。種芋からのツルの成長が著しいので農業責任者が9月に入っても植えつけをしてみたいと希望し、試験的に植え付けを続行している。現地と日本では気候がずいぶん違うので試験栽培をして現地に合った栽培時期を見つけられるかも知れない。ネズミ対策の猫は5匹に増えこれから力を発揮してくれるのを期待している。

5. 医療―ダラエヌール診療所
8月は診察数が5000名を超えた。水溶性下痢患者が通常の2倍に増加し、8月の豪雨で周辺では井戸水が濁り不衛生になっていたとの報告。コレラが発生している州もあるため、PMSでは9月の薬品購入で点滴等を多めに備えた。

6. 2023年度事業として
JICA,FAOとの共同事業の候補地の選定、調査が開始されるが、PMSは新事業であるコット郡の堰・用水路建設を軌道にのせてから、FAOと合同調査を開始することにしている。この事業は、中村医師(PMS)が確立した「PMS取水方式」の普及事業として、FAOをはじめ企業や各地域の技術者や住民に技術を伝達することに力が注がれる。
この方式はPMSの活動地ですでに有効性が実証済みなので、干ばつで干上がってしまった農地が復旧させられるという確信から地域住民を挙げて懸命に取組むでしょう。

6月からのアフガニスタンの気象状況はパキスタン側も同じで、彼の地では豪雨に加え氷河の融解や氷河湖の決壊で甚大な被害をもたらしました。PMS活動地のクナール河とカーブル河はジャララバード空港の近くで合流してカーブル河となり、カマ郡、ゴシュタ郡沿いを流下し越境してパキスタンへ流入します。PMSから届く現場の画像に見るクナール河の様子だけでも、パキスタンの洪水の激しさが分かります。多くの方々にご心配を頂いたペシャワールの旧PMS病院は被災を免れ、現代表のイクラムラ氏(PMS病院時代の事務長)は旧北西辺境州の被災地への支援に駆けずりまわっています。旧北西辺境州(現カイバル・パクトゥンクワ州)は中村先生が深く関りを持った地域であり、私たちもイクラムラ氏を通して被災者の支援を始めました。

イスラマバードの気候科学者は「今年の洪水は、すべての人に警鐘を鳴らすものだ」と述べました。2000年、PMSのラシュト診療所周辺の氷河がスリップし雪崩が発生し、泥まみれになった職員たちが1週間かけてペシャワールに戻ってきました。その直後に中村医師はアフガニスタンで井戸掘りを始めました。アフガニスタンの干ばつは進行し「アフガニスタンは戦争では滅びないが、干ばつで滅びるかも知れない」と温暖化の危機を発し、私たちにはゴア氏の著書「不都合な真実」等を読み、環境についての学習をするよう薦めました。アフガニスタンの干ばつに私たちも無関係ではないのです。
PMS支援室一同

▼完成したバルカシコートの沈砂池。送水門、分水門、排水門を併設している。現在、9月末の工期終了に向けて、送水路、分水路、排水路の造成と谷から流れ下った鉄砲水により損壊した砂防堤の補修工事が行われている。2022年9月1日


▼送水路の造成。少し先で、既存用水路に接続される。2022年8月29日


▼排水路の造成。2022年9月11日


▼8月15日、20日に大雨が降り、バルカシコート堰近傍の砂防堤を建設した谷で鉄砲水が発生した。27カ所の砂防堤により段階的に緩流化され、村に被害はなかった。2022年8月20日


▼損壊した砂防堤の修復。今回の鉄砲水により砂防堤の有用性が証明されたのでマルワリード用水路周辺の谷に造ることも検討されている。2022年8月23日


▼蛇籠工で使用する針金を背負い、急峻な谷を往来する作業員たち。2022年8月23日


▼最下流に造成した砂防堤。法面にユーカリを植樹し、さらに流速を落とし鉄砲水の勢いを和らげる。2022年8月23日


▼PMS作業地では、7月から8月にかけて降雨が多く、谷からの鉄砲水が頻発し、補修工事に忙殺された。写真はマルワリード用水路L区。中村医師の予期した通り用水路は鉄砲水を受け止め、人的被害はなかった。2022年7月25日。2022年7月25日


▼同L区。8月17日にはほとんどの工事を終え、小規模な残余作業はチョキダール(水門番)たちの手によって行われた。2022年8月17日


▼マルワリード用水路H区、洪水路に蛇籠で設置した構造物。鉄砲水が通過し、多少損傷が見られる。2022年8月9日


▼マルワリード用水路S区(ガンベリ沙漠横断水路)の鉄砲水。ガンベリ農場の防風林が鉄砲水の勢いを減じ、緩やかな流れとなって用水路に落ちる。2022年8月9日


▼カブール河、カシマバード堰上流。7月末の洪水により、取水口付近に土砂の堆積が見られ、堰を取付けている砂州の伸長も観察された。取水量が落ちているとのことで、土砂の除去作業が始まった。現地ディダール技師から届いた作業概要。2022年8月7日


▼土砂の除去作業のさなか、カブール河を洪水が襲った。増水する河の砂州上でギリギリの作業。2022年8月17日


▼8月20日ファヒーム技師より、カブール河の増水が著しくこれ以降は砂州での作業が不可、との連絡があり今回の作業は一時中断。高所から撮影したカシマバード堰。2022年8月20日


▼8月25日、さらなる洪水がカブール河に押し寄せた。現地技師曰く2010年洪水にも匹敵するレベル。濁流が対岸まで全河道を覆いつくし流れていく。しかしこの大洪水でもしっかりと斜め堰の原型をとどめているのには驚かされる。2022年8月25日


▼大洪水、襲来
8月下旬、アフガニスタン東部では異例の大雨が続き、8月25日夜半からクナール河は大洪水に見舞われた。PMS 作業地では各地で護岸の洗堀が発生し、危険を察知した住民たちが避難していく中、PMSは昼夜を問わず補修工事に奔走した。
写真はバルカシコート堰。かつてこの地域は度重なる洪水被害に脅かされていたが、PMS の取水口と護岸の造成により洪水の流入を防ぎ、村は守られた。洪水が去った後も大きな損壊は見られていないが、注意深く観察を続ける。2022年8月26日


▼現地から届いた9月8日までのクナール河水位グラフ。8月後半の洪水で水位が急上昇している。
KUNAR RIVER HYDROGRAPH
Flow = CUM/sec



▼カシコート堰上流側護岸工事。夜半、地域住民から連絡を受け、緊急工事のため駆け付けたPMS技師たち。2022年8月27日


▼洗堀されたベスード護岸に、心配して集まってきた地域の住民たち。洪水を怖れ避難した家族も多いが、残った青年たちは復旧のためPMSと共に働いた。 2022年8月27日


▼洗堀された箇所に巨礫を投げ入れる。補修作業に協力する地域の青年たち。 2022年8月27日


▼現場に急いで向かうPMS、家財道具を積んで避難する人々、河を見に来る人などが行き交う。2022年8月27日


▼(左上)補修のため巨礫を投入するPMSのトラック。2022年8月31日
(右下)重機をフル稼働して石出し水制を造成する。 2022年9月3日


▼8月末の大洪水後のミラーン堰。3つの砂州を繋げ、約444mの長大な堰を成している。砂州3は表層が流失したように見える。中村医師は2015年の大洪水後、この堰の改修工事で砂州を補強するために巨礫や蛇籠を埋設していた(後述)。
もう少し水が引けば、この基礎が残っているかが分かる。


▼2015年の大洪水後、この堰の改修で砂州3の主に下流部、粒径が小さく脆弱だった河床材料を巨礫で置換。さらに辺縁部には蛇籠を埋設し、2m以上の丈の柳枝を括りつけた(剣山粗朶柵工)。
砂州3の柳は活着しなかったが、この基礎がまだ残っていれば、柳の植樹に再挑戦するなど回復のための手だてはある。



「ミラーン堰の現在。河道はよく安定し、砂州の形状もよく保たれている。砂州3は越流が予想以上で、ヤナギ粗朶柵が見えない。砂州1、砂州2ではよく活着して役目を果たしている。」(2017年6月17日 中村医師のメール報告より)
再植樹に挑戦する際は、洪水期でも柳が呼吸できるよう、2mより更に丈の高い枝を植樹することで克服できる可能性がある。
2017年6月14日

▼大豆畑。アフガニスタンでは大豆は小麦粉と混ぜてナンを作り、妊産婦や栄養失調児に与えられる。2022年7月5日


▼一ヵ月後の大豆畑。2022年8月10日


▼サツマイモ畑。日本とは気候が大幅に違うガンベリ農場での適正な栽培時期を研究するため、9月まで植え付けを行ってみる。2022年8月20日


▼実をつけて2年目のナツメヤシ。初の収穫となり、今年はPMSの職員たちに振る舞われる予定で、皆楽しみにしている。2022年8月20日


▼レモンの収穫。昨年の9月2日、政変後に農業事業の一部再開をこのレモンの収穫を皮切りに始まったことを思い出す。2022年8月17日


▼6月の中旬から8月まで突発的な集中豪雨が断続的に続き、PMS職員たちは用水路の補修工事に追われた。8月末の大洪水では、護岸の緊急工事が1週間にわたり昼夜続けられ、 4ヵ村を守り抜いた。工事が落ち着いた頃、時機良く中村医師の誕生日を迎え、労いも兼ねて、羊を屠り皆でお祝いをした。 2022年9月15日


▼ドクターサーブ ナカムラ記念塔の前で献花をするPMSスタッフたち。 2022年9月15日