Top» トピックス» 掲載日:2023.1.30

―アフガニスタンの現状とPMSの今(8)―
現地訪問シリーズ

ペシャワール会会長/PMS総院長 村上優

 はじめに
 しばらくご無沙汰してしまいましたが、今年も変わらぬご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。

2022年12月20日から2023年1月4日まで、PMS支援室のメンバーなど8名がアフガニスタンを訪れました。それに先立ち、12月15日に中村哲医師の出発点であるパキスタンのペシャワールに行き、PMS基地病院を引き継いでTown Medical Services(TMS)として医療福祉教育施設を立ち上げたイクラムラさん(元PMS基地病院事務長)を訪問し、ミッション病院など縁(ゆかり)のある施設を見学しました。

私たちがジャララバードに入るのは12年ぶりのことです。マルワリード用水路完成の祝いで訪問したのが2010年のことでした。その後、治安が悪化して、2014年以降は日本とアフガニスタンを往来したのは中村医師のみでした。中村医師が先頭に立ち続けてPMS事業は滞ることなく進み、2019年12月に中村医師が亡くなると、その精神を引き継ぐことでPMS職員とペシャワール会は絆を深めてきました。PMS支援室を強化して、日本とアフガニスタンの交流を深める努力は実を結びつつありますが、実際に手を取り合い、現場を見て、語り合い、一緒に行動する必要性は日増しに高まってきていました。
2021年8月にタリバン政権が復活して治安が改善してくるとビザの取得も可能となり、世評とは裏腹に、アフガニスタン訪問の可能性が強まり、今回実現しました。

 パキスタンからトルハム国境を越えてアフガニスタンに入る──ある意味では拍子ぬけ、ある意味では感動的な体験でした。「拍子ぬけ」なのはそこに戦争が無くなっているからです。平和があったからです。振り返れば中村先生の現地活動にはいつも傍らに戦争、戦闘がありました。巷(ちまた)には軍の存在を感じる「もの」や「こと」が普通にありました。今、人々は戦争がないことを歓迎し、アフガニスタン人によって作られた国家という受け止めをしているように感じられました。「感動的体験」とは、12年前にはなかった緑の圧倒的な回復と、人々の生活、どこからでも元気いっぱいに飛び出してくる子どもたちを見たからです。中村医師が主導した用水路の広がりは昔から続いていたように風景へ融け込み、あたりまえに存在する営みのように思われました。その自然と人の営みのスケール感は、言葉では言い表せません。そしてそこにいつも中村先生の存在を感じ、人々の心の中にあるのが伝わってきます。中村先生に導かれてのアフガニスタンの旅でした。

 ホームページの「アフガニスタンの現状とPMSの今」コーナーを使って、今回の訪問に参加したメンバー全員が、週1回のペースで報告します。いずれその集大成を会報155号で報告する予定です。全体の目次は下記の要領です。順番は不同です。

【目次】
8-1 はじめに/村上 優
8-2 12年ぶりの訪問/藤田 千代子
8-3 技術支援チームから見たPMS灌漑事業 昨日(過去)編/大和 則夫
8-4 技術支援チームから見たPMS灌漑事業 今日(現在)編/大和 則夫
8-5 技術支援チームから見たPMS灌漑事業 明日(未来)編/大和 則夫
8-6 PMS支援室スタッフより ―灌漑事業/籾井 孝文
8-7 PMS支援室スタッフより ―農業事業/山下 隼人
8-8 ダラエヌールクリニックから -医療事業/藤田 千代子
8-9 事務局会計担当者より ―事務所編/藤野 洋子
8-10 元ワーカーで通訳としての再訪/石橋 周一
8-11 記録者として/谷津 賢二
8-12 パキスタン訪問(TMS/ミッション病院/ハンセン病対策)/藤田 千代子
8-13 今後のアフガニスタンと日本/村上優