Top» トピックス» 掲載日:2023.2.6

アフガニスタン灌漑事業視察旅行記
(昨日編)

2023年1月20日報告
PMS支援室 技術アドヴァイザー 大和則夫

昨年12月12日に福岡を出発し、ドバイ(UAE)、ペシャワール(パキスタン)を経由して、20日にアフガニスタン入りした。

今回の自分の役割は、技術者として現地の灌漑事業を見て回り、様々な課題についてPMSスタッフと意見交換を行って、意思疎通を図ることと考えている。そこで、中村先生が行ってきた事業功績への感想の「昨日編」、中村先生の意思を継いで現在PMSが進めている事業紹介の「今日編」、将来のあるべき姿や方向性についての「明日編」の3回に分けて、技術屋の視点から報告したい。今回は「昨日編」である。
できるだけ多くの中村先生の事業実績を見て回りたかったが、視察できたのは先生が手掛けた10取水堰のうち5堰(マルワリード、カシコート、カマⅠ・Ⅱ、カシマバード)にとどまった。今後、他の堰については再訪問して見て回るつもりである。

特に印象に残ったのは、カマⅠ・Ⅱで、理想的な斜め堰、取水門、土砂吐きの完成形であり、昨年8月の大洪水でもびくともしなかったとのことである。一方、近くに他国が作った取水門は崩壊の危険が迫り、良い例と悪い例が同時に見られる場所として、中村先生の優秀さを再認識させられた。

また、マルワリード・カシコート両岸取水地点では、流水の力を和らげるために両岸から斜め堰形状の扇型の堰とし、中央に洪水や土砂を導水する施設を設置するとともに、左岸のカシコート下流では流水を中央に導くように横越流堰が設けてあり、中村先生の試行錯誤の知恵が見て取れた。言うまでもなく、ここでの堰はコンクリートではなく、現地の石をメインに組み立てられているので、崩れた場合でも修復可能であり、先生の基本的な考え方がベースになっている。

先生がメインに堰等を建設したのはクナール河沿いであり、唯一カブール河に建設したのがカシマバード堰である。ここの上流にはソ連が建設したドロンタダム等複数のダムがあり、流量調節による河川流量の変化が激しく、取水量にも大きく影響しているとのことであった。さらには右岸側の住民が、住居建設のために右岸側の砂州から砂利を採取したため流水が右岸側に片寄るようになり、左岸側のカシマバード取水門の前に砂利が堆積するようになって、取水しにくくなっていた。河川形状からしても建設当初は順調に取水できることが見込まれていたらしく、先生も問題個所とは認識していなかったと思われる。ただ対応策はありそうなので、次回の「今日編」で報告したいと思う。

取水施設以外にも、ガンベリ農園や流域内の景色等を見て回ったが、中村先生が取水灌漑して潤した地域の緑は感慨ひとしおであった。農作物の生産量も増えているようで、藤田室長が言う「10年前はこんなところには、人は住んでいなかった場所」があちこちに広がっていた

さらに感心したことがある。日本では地図や地形図があるのは当たり前で、取水灌漑計画や施設計画を設計する上での基礎資料であるが、アフガニスタンにはそういうものが一切なかった。あるのはグーグルアースなどの衛星写真だけである。その上で、あれだけの用水・配水・排水路を計画建設するには、中村先生はどれだけ流域内を歩き回ったことか。たぶん何百日以上、想像するだけで頭が下がる思いである。 数日間の視察でコメントすることへのおこがましさを感じながらの報告でした。

2023.1.20 大和則夫