Top» トピックス» 掲載日:2023.3.20

「あなたたちにガンベリを見せたかった!」

PMS支援室 山下隼人
パキスタン ―ゆるやかに時は流れる
 初めて降り立ったペシャワールの町は、空が曇るほどの砂埃が舞い、排気ガスの匂いが鼻をつきました。イクラムラさんに迎えられ駐車場へ向かう途中、通りのあちこちから聞こえる男たちの粗野な大声、通行人を意に介さない無秩序な自動車の往来に、身の縮む思いで歩いたのを覚えています。

 その一方で、ペシャワールの人々にとって時間はゆるやかに流れていると感じることもありました。例えば、食事などは急かさないといつまでも出てきません。滞在先のゲストハウスでは、職員の方に「朝食は七時には準備できると昨夜聞きましたが、まだですか」と尋ねました。すると彼は「タックリバン(だいたい)、あと30分でできる」と、すでに7時を40分も過ぎているにも関わらず、悪びれる様子もなく笑顔でそう答えました。

 夕方は早めにキッチンに行き、スタッフのバイジャン(若い兄ちゃん)に「いいキッチンですね。ところで夕食はいつできますか」と尋ねると、「そう、いいキッチンだ。この棚はフォークがあってここには......」と、食事の準備はそっちのけ、嬉しそうにキッチンの説明を始めました。私は呆気にとられ、結局催促せずに戻ってしまいました。彼らは非常にのんびりしていて、10分で出来ると言えば40分かかり、30分で出来るといえば1時間はかかる。電気は点くし、点かないこともある。お湯はインシャッラー(神の思し召しならば) 出るだろうと言う。これはジャララバードでの滞在先のスタッフたちも同様で、現地の気風なのでしょう。日本では苛々しそうな出来事ですが、現地では奇妙な居心地の良さを感じました。

アフガニスタン ―「試験」農場の意義
 私はPMS支援室で農業事業の担当をしておりますので、主にガンベリ試験農場について書きたく存じます。
   農場では責任者のアジュマルジャン(ジャンは親しみを込めた呼称)や職員の方々と抱擁で挨拶を交わしました。アジュマルジャンと直接顔を合わせたのは3年ぶりで、前回は日本でした。「ヤマジャン、あなたたちにガンベリを見せたかった!」と大歓迎してくださり、広大な麦畑や果樹園、牛舎や養蜂場など各セクションを案内していただきました。

 農業事業は年間の栽培スケジュールや農場全体のメンテナンスの他、公園の拡張やナツメヤシの脇芽の移植なども予定しながら、事業計画に沿って進められます。アジュマルジャンは広大なガンベリ農場で起きたあらゆることを把握し、また農業担当の職員らと密に連絡を取りながら仕事を進めていたのが印象的でした。

▲サトウキビ搾汁の様子を撮影する筆者。2022年12月22日

 現場では、私が日々現地から受信している日報などから読み取れる以上の仕事が行われていました。各作物は一般的な栽培方法のほか、圃場ごとに灌水の効率化や収量増加のための異なる栽培方法が試みられ、結果が比較できるよう整備されているのです。アジュマルジャンから、過去に失敗した経験や成功した方法、現在期待している圃場などを説明され、大変感銘を受けました。

どの作物の種を何kg、何haに植え、何kg収穫できたか。結果だけを見て良い悪いと日本側で評価するのではなく、現場で様々な試行錯誤が行われていることが重要であり、それこそが中村先生の構想された「試験」農場の意義であることを理解しました。

 今後も現地活動の一助となるよう、精進して参ります。
▲ドクターサーブ ナカムラ記念塔の前で記念撮影。2023年1月3日