Top» トピックス» 掲載日:2023.10.16

―アフガニスタンの現状と
PMSの今(12)―

ペシャワール会会長/PMS総院長 村上優

アフガニスタン西部ヘラート州での地震災害
2023年10月7日現地時間午前11時頃、マグニチュード(M)6.3の地震がヘラート州で立て続けに2回、その後も大きな余震は続き2,000名以上が死亡し、9,000名以上が負傷しました。11日と15日にもM6.3の余震が発生、死傷者がさらに増えたと政府が発表しています。活断層が動く直下型地震で、震源は主要都市ヘラートから北西28km離れた地域とされ、震源近くのZindajan地区(1,395世帯)では現時点で死者1,294人、負傷者1,688名、家屋倒壊率100%と最も大きな被害が出ています。日干し煉瓦と石積みの家ですから震度7以上の揺れで容易に倒壊したと思われ、全壊している地区が20近くになっているとの報告もあります。

アフガニスタン暫定政府関係省庁、国際赤十字・アフガニスタン赤新月社、ユニセフやWFP(世界食糧計画)などの国連機関、国境なき医師団などのNGO、近隣のパキスタン、イラン、中国、トルコが支援を表明して活動が始まっていると伝えられています。次々に支援も広がると信じています。 その後も発生する余震を含めて被害は次々に拡大して、その全容をうかがう術(すべ)は乏しく、私たちが参考にしているのはUNOCHA(国連人道問題調整事務所)のヘラート地震速報です。具体的な被害数字が出されており、今の段階では実情を反映している情報と捉えています。詳しくはこちら(ヘラート地震: 速報#4 / 国際連合人道問題調整事務所 OCHA 公式サイトへリンクします)»を参照下さい。

訪問再開後4度目のアフガニスタン訪問
9月23日よりペシャワール会のPMS支援室メンバー4名(技術支援チーム1名を含む)がジャララバードに入っていました。本来は10月1日から村上を含めた3名が訪問する予定でしたが、次のような自然災害による交通障害で訪問を中止しました。9月17日、高山に降った雨による鉄砲水のために、崖が崩落してカブール・ジャララバード間の国道が通行不能になり、先発隊は河沿いの迂回路で何とか通過できたものの、9月27日からは全面通行止めになりました。主要幹線の国道が閉鎖されて生活物資の運搬も不可能になりました。人々の声に押されて政府も急ピッチの工事を進め、迂回路は10月7日までには回復しましたが、交通障害は持続しています。

先発したPMS支援室からの報告では、コット郡でのバラコット小規模灌漑工事の視察や、その後の同様な工事の予定地選考のための調査を行い、FAO / JICAとPMS/ペシャワール会の協働によるPMS方式灌漑事業が予定されているヌールガルの調査と工法について現地技術者たちと意見交換をしました。またタンギトゥクチーに他団体が作った用水路が、クナール河の増水で洗掘し、並走する国道も一部崩落しました。そのためPMSは9月26日、州政府や住民代表からの依頼で、急遽、用水路回復と護岸工事を決定して工事が即日始まりました。来春までかかる大規模な工事となります。このように現地PMSは八面六臂の活躍をしています。

実りと危機
ガンベリ農園では稲が実り、収穫、脱穀作業が始まっていました。またジャララバードを訪れた岡田駐アフガニスタン日本大使やFAO本部の視察団を灌漑予定現場、中村哲医師記念塔に案内し、緑の広がりを見てもらいました。PMSが活動するエリアの実りと、その他の地域の干ばつの凄まじいコントラストを実感されたことでしょう。

今回の地震被災地のヘラートも干ばつが厳しいところです。干ばつによる危機と、震災による危機、またこれから氷点下になる冬へ向かう危機、震災を生き延びた人々がさらなる苦難、とは想像にかたくありませんが、現実に私たちができることは限られています。

ヘラートとジャララバードは直線距離で800km以上離れており、ジャララバードでは、直接の地震を感じることはありませんでした。アフガニスタン政府は各州に、支援委員会を立ち上げ、市民からの支援を呼びかけています。ジャララバードでも支援物資や支援金が集められ、衣類などの支援物資や支援金は空路や陸路で直接被災地に運び込んでいます。支援を主導すべき政府も戦争が終わって治安を回復するのがやっとで、経済や民生の面で安定的な運営が十分にできる状態ではなく、世界からの経済制裁も継続したままです。まずは人々が命をつなぐことを第一に、どうすべきかを考えるしかありません。一つの答えはPMSの活動している地域にあることは確かです。

地震が数多く起こることでは、アフガニスタンと日本は共通しています。日本でも地震の救急医療支援は、2004年にDMAT(災害派遣医療チーム)が、2013年からDPAT(災害派遣精神医療チーム)が始まったばかりです。私も2011年の東日本大震災、2016年熊本地震では早期に出動して現場で活動した経験があります。その時に一市民が支援活動をするには、国の安定無くしてはできないことを確信しました。

今、アフガニスタンも人々がこころを一つにして生き延びようとしています。PMSは自らの現場を離れて遠方に赴き、緊急対応をすることは困難です。私たちができることは、生き延びた人々への支援ではないかと考えます。これから長期にわたり医療、食糧、住居、寒さ等々に支援が必要です。PMSメンバーからの依頼は、まずは現場で活動できている国際赤十字・アフガニスタン赤新月社に財政的な支援をしてほしいとのことでした。ペシャワール会として当会を支えていただいている方々のご理解を得ることができると信じ、10万ドルを支援することを決定しています。

災害は全世界の人々に等しく降りかかります。生き延びることに不平等があってはなりません。これが「中村哲の思索と行動」から学んだことです。