Top» 活動レポート» 掲載日:2024.7.9

2023.12月月報

マルワリードI改修事業、開始!!
バラコット事業大詰め


皆さま、お元気でお過ごしでしょうか。
11月初めにアフガニスタンの活動地から帰国して早くも年末を迎え、あっという間に時が過ぎてゆきました。特に昨年12月から活動地への滞在が可能となって以降、この一年間は言葉通り駆け足で日本と現地を往来していたように感じますが、PMSの職員たちの嬉しそうな顔を見たり、彼らから中村先生のことを聞いたりするのは楽しいものです。
現在の現地活動の様子をお伝え致します。

●灌漑事業
【1】バラコット用水路建設(工期;2022年10月~2024年3月)
堰・用水路、二つの貯水池は完成し4300mの用水路末端の貯水池から灌漑地への分水路の建設や植樹と水やりが進められています。樹木の成長は早く、用水路が通過する山の斜面にグリーンのベルトが見えてきました。コット川はスピンガル山脈に近い小河川で、現地では涸れ川と呼ばれていますが、河川水は水量を変えながらも年中流れていることが観察されています。また夏季に大量の砂を含むクナール河のような大河川ではないため、洪水時以外は水が澄んでいます。そのため用水路の途中に沈砂池を造らず、用水路末端に貯水池が建設されたのです。

10月には村人たちが畑の境界線を引き水の到着を今か今かと待っています。また、数キロ離れた所から谷を300mほど下りコット川から水汲みをしていた子供たちは、近くの用水路末端から水が汲めるようになったので大喜びしています。家にいるお母さんたちの喜びもまた想像できます。

【2】マルワリードⅠ改修事業(工期;2019年11月~2024年12月)
 クナール河の水位が下がるのを待ち、改修の最大の工事である取水門間口の増設とコンクリート製の土砂吐き建設が10月に開始されました。灌漑面積が広いマルワリードⅠ用水路では、11月内の麦蒔きに十分な送水が叶うようエンジニアや作業員たちは早朝から遅くまで黙々と働き全力を注ぎました。ジャララバードの事務所が現場に呼応するように資機材の手配をして双方が一体化して進めています。中村先生が彼らのその姿を見たらきっと嬉しそうに「おー、やっとるね~、やるじゃないか!」と言われるだろうなあと時折思っています。とは言え、作業工程を観察しながら「入るべきところに鉄筋がないのでは?池と農地との落差があまりにも大きいのでは?」などなど、各担当者への疑問も変わらずぶつけながら、日本側の技術支援チームの方々にご指導を頂きながら現地事業は進められています。

【3】マルワリードⅡ堰(維持・管理)
 昨年夏の大洪水で堰の上流側で河道の変化が発生し、取水門への流量が減少したため、10月に河道の整備が行われ水位を確保しました。10月中旬には堰の巨石の大きな乱れは見られず綺麗な湾曲斜め堰が姿を現していました。堰内の洪水吐きは通過する水量が多く深掘れの発生があるかどうかを観察していました。川の水位が下がり深掘れが確認されたので、石の投入が始まりました。昨夏の大洪水の影響によりクナール河の多方面で河道が変化し、今夏に大洪水は無かったものの、7月には護岸の石出し水制が補強されました。

【4】タンギートークチー用水路補修工事(工期;2023年10月~2024年2月)
ここもクナール河の河道の変化により、ジャララバード・クナール国道が徐々に洗堀され、国道に沿うように埋設されていた用水路(土管)がバラバラに倒れ、国道も危うくなっていました。9月に州知事の秘書官や灌漑局長を始め州の役人たちが大勢PMSを訪問し、PMSにしか出来ない工事であると嘆願されて、10月に開始した補修工事です。 ジア先生を筆頭にPMSの技術者と技術支援チームの大和さん、ジャララバード事務所は急を要すると判断し一週間後には工事を開始しました。

それぞれの現場の詳細については写真報告をご覧ください。
農業や医療の概要は次回に報告致します。

今年も遅ればせながらTMS(タウンメディカルサービス=旧PMS基地病院)の、イクラムラさん宛に靴下や手袋を発送しました。中村先生はペシャワール・ミッション病院のハンセン病棟でクリスマスには、手足に感覚障害を持つ患者さんたちに傷の予防としてソックスや手袋を、また少しでも温かく過ごしてもらおうとセーターを贈り、ケーキと温かいチャイを振舞いひとときの団欒を大切にしていました。その時期になると職員たちと病院近くのオールドバザールの古着屋を何軒もまわり、ほつれや穴が開いていないかなどチェックしながら買い求めるのが楽しく、その時期に日本からの訪問者があると早速バザールに出かけてもらいました。ハンセン病棟の詰所の前を折り紙などで飾りつけ、その前で中村先生とレントゲン技師の林達夫さんが現地風に手をがっちり繋ぎ唱歌を歌い、患者や職員が大喜びした年もありました。中村先生がミッション病院から独立した後はPMS基地病院でこの行事を続け、現在はイクラムさんの手を通して必要な人に渡してもらっています。イクラムラさんは2007年にPMS基地病院を引き継ぎTMSと名称を変え、現在はコメディカルのカレッジを開き、貧困者への診療に尽力しており、昨年パキスタンを襲った大洪水の被災者への支援も続けています。ご本人はドクターサーブナカムラの影響を受けた一人だと話しますが、信仰心が篤く慈悲深い方で、中村先生とは話しが尽きないほどの間柄でした。

今年も多事多難の中、現地活動をお支え頂きましたこと心から感謝申し上げます。良い新年をお迎えください。

PMS支援室一同 2023年12月28日


▼12月21日までのクナール河の水位グラフ(赤線)。夏の増水期を経て、水位は9月末に下降に転じた。過去に比べて、低水位に移行していく時期が遅れている事が見て取れる。
KUNAR RIVER HYDROGRAPH (Flow = CUM/sec)


▼カシマバード堰。8月上旬に行なった【1】取水門前の土砂除去 【2】流路確保の為の掘削に続き、【3】中央河道に砂利を積み上げ、取水門に向かう左岸側河道へ導水を促す為の作業。過去の洪水による砂州と河道の移動、及びカーブル河上流ドゥルンタ・ダム開閉の影響が大きく、土砂堆積が著しく取水量が不安定になっている為、現在は頻繁に応急処置を行っているような状態。近い将来、以前より中村先生が計画していた【4】コンクリート製の土砂吐き建設を予定している。2023年11月11日


▼ミラーン堰は安定した3つの砂州を連結した越流線444mの堰であった。2022年の洪水で砂州・河道が大きく変わった。取水門へ向かう河道1入口が、砂州3上流端の寄付きによって狭まった。砂利堆積により砂州2と砂州3は一体化し、砂州間の石堰は見えなくなっている。河道3-Aが主流となり、河道4は流量が少なくなった。河道3-A が3つの砂州の左岸側を洗堀し、このままでは堰が破壊されかねない状態だ。さらにミラーン訓練所付近の護岸にも悪影響を与えている。2023年11月16日


▼現地とのオンライン会議で方針をまとめ、今冬の早急の対策として、河道1入口を狭めている砂利を除去→河道3-Aに投入し堰上げ、斜め堰にする。これによって河道1の回復を臨みつつ、悪さをしている河道3-Aの流量を抑える算段。2023年12月6日


▼カシコート用水路。恒例となった、アシャール(奉仕作業)にて地域住民が集まり水路清掃を行う様子。若者から高齢者まで、活気に満ちているようだ。
このような光景を見る度に、「私の後継者は用水路です」という中村先生の言葉が思い出される。2023年11月12日


▼マルワリードⅡ堰は洪水期を経て洪水吐きが深堀れし、取水門へ流れる水量が減少。深堀れ部に巨礫を投入し取水量の安定を図る。2023年12月15日


▼2023年10月-12月
バラコット用水路事業


▼7月の洪水で破損した護岸線。改めて巨礫を敷設し、畑との間を充填し強固に造り直している。来年夏の洪水でどうなるか、経過観察を続けたい。
2023年11月22日


▼用水路1750m地点で5m程度、小さなクラックが発生した。6月に発生した大規模なクラック程ではないが、原因は同様、ソイルセメントの材料に水分を含むと柔くなる“頁岩(シナレイ)”を使用した事によるものである。今回は水路床面のみ造り直した。今後もクラックの発生を注視していく。2023年12月5日


▼取水部から4.3km地点の分水点。まずは小貯水池に、余り水は先の大貯水池に送水される。水門番小屋も完成し、いよいよこの用水路が利用される時のイメージが湧いて来た。2023年10月22日


▼小貯水池。”小”とは言っても50m×50m×1mの大きさがあり、ここに日常的に灌漑利用される水が貯められる。この用水路は「川からの取水」と「湧水」を運ぶつくりであるが、後者のみでも一晩でこの池を満杯に出来るという事だ。現在は小貯水池から灌漑予定地まで700mの延長路造成が進められている。2023年11月4日


▼造成中の延長路。現在は見渡す限りの荒野が続いているが、ここに畑が拡がってゆく予定。2023年12月11日


▼大貯水池。雨水や雪解け水、洪水および用水路の余水が貯められる。全線開通した用水路を伝って貯水が始まっている。灌漑利用としてはもちろん、この水が浸透し豊富な地下水となる事で、飲料用井戸やカレーズ(地下水路)の復活も期待される。早速水飲みに来た羊たちが、堤防を横切る。 2023年11月20日


▼新たな水場を見つけて、野鳥も集まって来た。枯れた台地で、自然の営みが始まる。2023年11月1日


▼植樹への水やり。ソーラーを活用したポンプで燃料要らず。木々が成長し、落石や鉄砲水から用水路を護る役割に期待したい。ホースを持つのはPMS職員のザビウッラーさん。その驚くべき測量技術によって、中村先生から「レベルとりの鬼」と呼ばれ、読み書きなど出来ずとも非常に優秀かつ質実な男、と称賛されていた。このようなスタッフ達の力によって「職能集団:PMS」は支えられている。2023年11月25日


▼タンギトークチー用水路補修事業
工期:2023年10月~2024年2月
8月下旬マルワリードⅡ護岸線約6.5km地点対岸の国道が浸食された。一部区間、国道の下を暗渠で通過していたタンギトークチー用水路も共に崩壊し、下流への送水が一時途絶えていた。ナンガラハル州からPMSに改修工事の依頼があり、10月7日に工事を開始。


▼崩壊した国道と用水路。地元住民が漏水箇所に土壌や草を詰め、辛うじて、送水を可能にしていた。2023年10月10日


▼補修工事概要
本工事では主に4つの作業が行われる。
【1】右岸に寄り付いた主流が中央を流れるよう砂州を掘削
【2】右岸側の河道に巨礫を置き、砂州掘削部に流れを導く
【3】用水路の補修
【4】護岸工


▼砂州を掘削し、右岸に寄り付いた主流を河の中央に導く。2023年11月8日


▼崩落した用水路(土管)の基礎部分にライニング工を行うため、一旦クレーン車で移動させる。当初用水路は造り直す予定だったが、思いのほか頑丈な造りだっために、再利用することとなった。 2023年11月5日


▼ライニング工の様子。完了後、土管をこの位置に戻し各土管を接合する。通りがかった人達が工事現場を物珍しそうに見学していく。2023年11月7日


▼用水路の補修工事が終了。用水路を埋め戻し、国道の高さまでかさ上げしていく。2023年12月3日


▼護岸工。浸食対策として、法面に巨礫を敷き詰めていく。2023年12月11日


▼工事現場全景。【1】砂州の掘削、【2】巨礫の配置、【3】用水路の補修が完了し、残すは【4】護岸工のみとなった。2023年12月11日


▼10月3日からマルワリード取水口の改修工事(取水門の増設および用水路の拡幅工事)が始まった。写真は水門の間口を増やすため、取水門横を掘削している様子。2019年11月に開始した本事業は、中村医師の逝去に伴い工期が1年延長され、2024年12月に終了を予定している。

改修工事は、【1】取水門の拡張(間口を2つ増設)と用水路の拡幅(取水門から50m間)、【2】コンクリート製の土砂吐き=可動堰の設置、【3】用水路約13km地点までの水路床ソイルセメントライニング工、が含まれる。今冬は【1】・【2】の工事を行う。2023年10月10日


▼増設する取水門の基礎工事。畑への送水を停止せず工事が進められた。2023年10月19日


▼同工事。深さ1mほど掘削すると、マルワリード取水口着工当時の基礎(2003年に投入された巨礫)が残っていたため、そのまま利用する。締め固めを行いながら60cmを砂利とセメントで固め、その上に鉄筋コンクリートで計1mの基礎を築く。


▼同地を高台から見る。土砂吐きの基礎工事が行われている。2023年11月5日


▼コンクリート製の土砂吐き(可動堰)造成風景。渇水時、マルワリード堰は土嚢や木材などで土砂吐き(余水吐き)を塞ぎ取水量を確保していた。今後は堰板での調整が可能となる。2023年12月9日


▼用水路は、増設した取水門の幅に合わせ50mにわたり拡幅する。2023年12月10日


▼トウモロコシの収穫風景。アフガニスタンではトウモロコシの栽培も非常に盛んで、特に米が作れない地域ではトウモロコシが植えられ、煮たり焼いたりして食べたり、粉にしてナンを作ることもある。2023年10月7日


▼現場へ向かう道中、しばしば外から「ワギワギワギ。ワギはどうだ? 」と焼きトウモロコシ(ワギ)を行き交う車に売り歩く、男たちのテンポのよい声が聞こえてくる。通りは芳ばしい香りで満たされる。2023年10月7日


▼11月中旬から麦蒔きが始まった。アフガニスタン東部ではばら撒きによる種まきが一般的だが、PMSではトラクターや播種器(左下)で行った。
昨年、比較のためいくつかの方法で麦蒔きを実施し、トラクターと播種器の栽培結果が良かったためだ。2023年11月20日


▼5月15日に植え付け、12月上旬に収穫予定のサツマイモ畑。今年は作業員や近隣の住民など30家族にツルを配給し、栽培の経過を観察した。良い結果も、肥料を与えてしまいイモが生育しなかったケースもあった。アジュマルジャンが再度説明し、来年に再挑戦。2023年11月8日


▼収穫したサツマイモを焼き芋にして食べるPMS支援室員と現地職員たち。2023年11月1日


▼サツマイモ畑のネズミ対策として農場で飼い始めた猫4匹は、現在9匹に増えている。畑でネズミを襲う様子が目撃されているため、仕事はしているようだ。2023年10月9日