2024年6月17日現地活動報告
4月 ナージヤン事業着工!!
皆さま、お元気でお過ごしでしょうか。
今年は1月中旬より3月初旬までと4月中旬から5月末まで現地活動地へ行って参りました。
下記の文章は4月にPMS事務所で書き綴ったものです。今回はこれを以てご報告をさせて頂きたいと思います。7月の会報160号に診療所の状況を記しておりますのでご覧ください。また、現地に渡航するようになった後、多くの方からタリバンについて質問がありましたので、ほんの一部ですが会報の「PMS支援室より」でお答えをしております。合わせてご覧ください。
アフガニスタンの活動地に到着して1カ月も経っていませんが、もう一カ月以上滞在してるような気がして驚きます。今回は雨が多く、これにも驚いています。聞くと4月10日からのイード(断食明けの祝日)前あたりから雨が降り出し、10日間ほど断続的に降ったとのこと。私たちがカーブルに到着しジャララバードに移動する時のカーブル河は茶色く濁った水が轟々と恐ろしいくらい流れていました。その後、4月26日夕方から4日間ほど降りました。PMSの活動地によっては40分で21㎜と集中豪雨となった場所もありますが、概ね小雨が断続的に降った感じでした。降雨後はスピンガルとケシュマンド山脈には積雪が見られました。晴れた日には白雪を戴いた両山脈を宿舎からも見ることができます。中村先生がこの両山脈を作業現場からいつも観察して、積雪の状態を知らせて下さったことを思い出しながら毎朝見ておりました。
恵みの雪や雨で喜びましたが、一方で、天候の変動で気温が急激に下がったかと思っていると、突然30℃を越える日が数日続き、これの繰り返しで、小麦の成熟がかなり遅れて、麦刈りが出来ません。コット郡ではバラコット用水路の近くの道路に村人たちが集まり、雨が降り続かないようにと一斉に祈りをささげていました。雨が続くと主食となる小麦にカビが付き食糧に出来ないのです。今まで雨乞いの祈りは聞いた事がありましたが、このような祈りの場は初めての事でした。
カーブル以北では数回の集中豪雨による大洪水で甚大な被害が発生しました。PMSの活動地では数回の短時間の集中豪雨を除くと、しとしとと降る長雨で日干し煉瓦造りの屋根や土塀が崩れたりしているのを見聞きしましたが、大きな被害は見られませんでした。
さて今回は、ジャララバードに到着直後からいろいろな事がありました。嬉しい事に2022年10月に着工したバラコット用水路が今年3月に完成し、4月から新規事業としてナージヤン用水路改修工事が始まりました。当地の行政や州政府に完工と着工の報告が必要で、特に新規事業についてはナンガラハル州知事からの認可を得なければなりませんのでジア先生をはじめ職員たちがその調整をしておりました。しかし州政府は隣国から強制的にトルハム国境に押し返された難民たちの対応に追われているため、関係局長も留守になっていました。やっと4月23日に州知事代理が認可の署名をするところに漕ぎつけ、私たちも出席しナージヤン事業を州と郡がサポートすることが確定されました。
実際には4月に入ってすぐにPMSは工事に携わる職員たちが寝泊まりする家を借り、完工したコットの宿舎から生活用品を移動させ準備を整え始めています。現在(4月下旬)は台所とバスルームの整備を行っている所です。 昨日4月27日は、ナージヤン郡の庁舎で郡長が同席して、用水路建設現場に関係のある長老たちの中から代表(ニヤマットゥラー氏)が決められました。今後は氏がPMSとの連絡窓口を務め、何か問題が発生した際は作業員の調整や雇用など、全て彼を通して進められることになります。早速、先に雇用された作業員3名に加え本日から10名が作業に加わり、工事前の準備作業が進められます。バラコットに続いてスピンガル山麓での、小河川からの取水施設の工事です。
ナージヤン灌漑設備工事の概要は以下の通りです。
●モラヘイル用水路改修工事
水源:スピンガル山系の小河川からの取水。数カ所の湧水も利用
工期:2024年4月~2026年9月(2年6カ月)
工事内容;
【1】取水堰・取水門建設―湾曲斜め堰、堰板式取水門
【2】既存用水路の改修―拡幅、用水路床面のライニング工
【3】貯水池造成―数カ所に貯水池を造り余剰水や洪水を取り込み貯水
【4】本用水路の上流に素掘りの小水路が3カ所あり、各小水路の排水はモラヘイル用水路に落としている状態。各小水路の床面にライニング工を施し浸透損失(40%)を減少させることにより、モラヘイル用水路への排水量を増す。
【5】湧水を利用―モラヘイル用水路の上流対岸に存在する2カ所の湧水を、川を横断させ用水路へ導水
【6】周辺の山間部に砂防堤を造成し降雨時の激流を緩和し貯水する。
実際に工事が始まってみると、農地の麦刈りが終わっておらず建設用の交通路敷設が遅れ、それならと用水路末端部の貯水池を先に造ろうと取り掛かると、実は予定地が私有地と判明し変更を余儀なくされる等々、驚くことも多々ありますが、みんな張り切っております。
2024年6月17日 支援室一同
▼6月13日までのクナール河の水位グラフ(赤線)。4月は降雨日が多く、特に27日はジャララバード市街の道路が一部冠水する程の大雨が降った。例年の増水期とは打って変わり、5月は高いまま推移している。
KUNAR RIVER HYDROGRAPH (Flow = CUM/sec)

▼4月27日、大雨が降った日のジャララバード市街。2024年4月27日

▼バラコット事業完工式
2024年5月4日、バラコット事業の完工式が行われた。式には政府の役人や村人が大勢参加し、事業の完了を盛大にお祝いした。

▼テープカット後、お祈りを捧げる。完工式には現地に滞在していたPMS支援室、技術支援チームの計6名も参加していた。2024年5月4日

▼地元住民たちが開催したお祝いの食事会。羊の肉や山盛りの果物が振る舞われ、温かい歓待を受けた。2024年5月4日

▼バラコット用水路の新灌漑地に植えられた麦が順調に成長している。用水路通水後に時期が遅れて麦撒きが行われたため、今年は収穫が出来るかわからないが、この様子を見ていると来年は大いに期待が持てる。2024年4月21日

▼バラコット用水路を一目見ようと遠くからピクニックに訪れる人も多く、いつの間にかお店も開かれていた。お菓子やジュースはもちろん、鶏も売られている。2024年4月21日

▼切土斜面からしばしば落石があるため以下の対策を講じていく。2024年4月21日
【1】雨天時は特に落石の危険が高いため、訪問客が怪我をしないよう用水路横の道路を通行止めにする。
【2】用水路山側の水路わきに木を密植して1m以下の大きさの落石による用水路の崩壊を防ぐ。

▼ナージヤン郡モラヘイル堰・用水路の改修事業が2024年4月1日より始まった。5月4日に村人たちが催した着工式は、多くの長老や村人が集まり盛況のうちに終了。PMSだけでなく、中央政府の大臣やナンガラハル州知事、灌漑局長らが出席した。写真は日本の支援者への謝意と着工の祝辞を述べるマンスール 水・エネルギー省大臣。2024年5月4日

▼ナージヤン郡はコット郡と同様、スピンガル山脈を源流とした小河川や湧水から取水してきた地域である。安定した取水がままならず、荒れた農地が広がっている。バラコット用水路と同様、堰と用水路を整備するほか、溜め池を造成し貯水・地下水涵養を図る。2023年9月26日

ナージヤン郡 モラヘイル堰・用水路事業 概要
●工期 2024年4月~2026年9月(2年6ヵ月)
●主要工事
―湾曲斜め堰 、堰板式取水門
―モラヘイル用水路 1,75km ソイルセメント工、拡幅 (120cm幅)
バゴン水路 (対岸) 1,7km ソイルセメント工、護岸
ミアガン水路 3,1km ソイルセメント工、護岸、湧水導水のためサイフォン建設
カチコル水路 3,3km ソイルセメント工、護岸、湧水導水のためサイフォン建設
計9,3km (40%の浸透損失あり)
―貯水池、洪水時の河川水を貯水
―連続堤防 (溢水防止)
―近傍の3つの谷あいに砂防堤建設予定
●灌漑面積 約360ヘクタール
(既存農地180ha, 新規灌漑地180ha)
●裨益人口 約11,000人 (4ヵ村 2,500世帯、うち1,100世帯)
▼ナージヤン事業
概略地図【1】

▼ナージヤン事業
概略地図【2】

▼モラヘイル既存用水路の改修風景。浸透水を減らすため床面をソイルセメントで2層のライニングを施し、レンガで新たに用水路壁を造成、モルタルで塗り固める。見慣れた光景。2024年6月1日

▼用水路末端に造成中の貯水池は、堤のかさ上げを行なっている。既存の用水路ではこの地点(概略地図②参照)まで水を引くことが難しいが、取水設備の改修によって取水量が増加するうえ、洪水時の水をうまく引き込み貯水することで、灌漑や地下水涵養に大きな効果が期待できる。2024年6月1日

▼現場を歩く私たちを興味津々で観察する子どもたち。アフガニスタンでは見慣れた光景で、どこからともなく集まってくる。2024年5月14日

▼ガンベリ農場のサツマイモ畑は続々とツルが伸びてきたが、夜に「ヤマアラシ」がやってきて、せっかく植えた種芋を食い荒らしていた。PMS職員たちは放り出されたイモの残骸を見つけるたびに丁寧に植え直していた、対策のため圃場をフェンスで囲うと、被害は見られなくなった。2024年4月24日

▼ツルをカットし、植え付けるPMS支援室員と現地職員。2024年5月15日

▼ガンベリ農場での麦刈り。滞在中のPMS支援室も作業員たちと一緒に刈り取りを行った。2024年5月12日

▼花盛りのガンベリ農場。2024年4月25日
