Top» 活動レポート» 掲載日:2024.10.31

10月月報


▼マルワリード用水路によって復活したシェイワバザール 2023年10月19日

ナージアン事業、モラヘイル用水路は順調に進行
 皆さまお元気でお過ごしでしょうか。
 ジャララバードは9月になりやっといつものカラッとした気候に戻って来ました。到着時の8月中頃は湿度が高く(と言っても日本よりは低いのですが)、シャルワル(現地服のズボン)が足にまとわりつく日々が3週間程、また天気はもやがかかる日が多く、PMS事務所から見えるケシュマンド、スピンガルの両山脈も鮮明に見える日は少なくどんよりとしていました。日中は気温が40度近くになり、5月に滞在した時の湿度20%台とは違い熱がこもった感じがしていました。

 9月27日夜半ケシュマンド山脈方面に激しい稲光が見えたので久しぶりに雨が降るのではと期待しました。しかし期待を通り越して夜中2時半頃から30分間暴風・豪雨が続き、さらにピンポン玉ほどの雹も降りマルワリード用水路沿いの家屋が浸水。夜中だったこともあり、突然谷から流れてきた雨水で3人が家の中で溺れて亡くなるという惨事になりました。当地は干ばつに被災した他の州からの移住者が多く住んでいる地区で、普段降雨も少ないため鉄砲水が下る所と気が付かず家を建てたり、土地マフィアに騙されて実際には鉄砲水が流れ下る土地を購入させられ家を建てたりしているので、住みついた人たちは時折発生する災害と何とか折り合いをつけて生活をしようとしている様子がうかがえます。

 私たちも早速ジア先生やエンジニア達とマルワリード用水路の見回りをしました。マルワリード用水路は谷から流れ下った砂利によって4カ所で堰上がりが発生。用水が溢れて堤が崩れ、畑に大量の水が流入して収穫中のトウモロコシや刈取り前の稲に被害が出ました。
早速、砂利の除去が始められましたが、マルワリード用水路一帯を再度見直して根本的な対策を立てる必要があるため、PMSではもう少し調査をして行政や流域住民との協議を行う予定です。

 PMSは医療、農業、灌漑とそれぞれの現場がジャララバード事務所を中心に進められています。

医療 ― ダラエヌール診療所
 診療所では一時期パキスタンからの帰還難民たちの受診が多く、殆どが疥癬の治療を必要としていました。ミッション病院時代から使っている軟膏(ワセリンに硫黄を練り込んだもの)が効果的で、それを知った人たちが更に受診してくるということで診療所は軟膏作りに追われていました。ハフィズラ医師の話では疥癬もようやく下火になり、現地の夏の(悪い)風物詩であるマラリアの患者も減少し、最近では季節の変わり目で呼吸器の患者が増えているとのこと。コロナウィルス感染疑いの患者は殆ど見られなくなりました。また、カーブルの北西部に位置するパルワン州の一部で原因不明の病気が発生し保健省がWHOと調査をしています。

農業 ― ガンベリ農場
 さつま芋――今年はツルの植え付けを4月から8月まで試みています。9月18日にそれぞれの観察をしたところ、7月に植え付けをした畑までは芋ができていました。「砂の多い畑は他と比べてツルの成長が遅い」「畝は高くスコップがサクッと入りやすい所は芋が大きく数も多い」「試食(焼き芋)したところ7月の芋は繊維が多い」などの結果がみられました。驚いたことに、この農場の入口の門番も小屋の直ぐ横のみかん畑でさつま芋の栽培を試みているのですが、昨年収穫せずに畝に残したまま越冬させた芋(畝は枯草で覆い、伸びたツルは切らずそのまま成長させた)が新たに芽立ち、大きな芋が数多くついていたのです。

 さつま芋については、研究途中ですが多くの期待が寄せられており、州の農業局も試験栽培を始めたところです。アフガニスタンはじゃが芋や里芋の栽培は良く行われているので、芋を植えるのではなく挿したツルから芋が収穫できるのを疑う人が多いと、普及に力を入れているアジュマルジャンは楽しそうに話します。

 また、ナツメヤシの収穫も9月に行われました。アフガニスタンでは収穫後のナツメヤシを食するまでの工程を理解している人物が少ないようです。PMSも収穫できるようになってから3年、試行錯誤のなかやっと昨年それなりの形になりましたが、それでも渋みがのこって出来は良くなかったとのこと。今年はカーブルの業者に売却して彼らから情報収集をして学習をすることしました。9月17日に業者が農場で1回目の収穫をしました。サウジアラビアで研修をうけ20年間ナツメヤシの仕事をしている人で、PMSも彼らから学べることを期待しています。

 9月にはVetch(緑豆)、小レモンの収穫、10月初めには稲刈りも始まりました。

灌漑 ― モラヘイル取水設備改修工事
 4月から始まったモラヘイル取水設備の改修工事は最新の会報161号で多くの事が報告されておりますので合わせてご覧頂けたら経過が分かりやすいです。用水路の部分は2カ所に分けて建設されています。まず280m地点から開始された用水路は約1800m地点に到達し、あと2か月ほどで最終地の貯水池に到達予定。取水門建設がじきに終了し、その背面から用水路が間もなく着工されます。モラヘイル用水路の最終地点にはバラコット用水路と同じように貯水池が造られています。スピンガル山脈の雪解け水や降雨時に発生する洪水を貯水して灌漑利用する計画です。現在、貯水池は堤の石張りと植樹を残しほぼ工事は終了し、あと400m程でこの池に到達する用水路は、連日直射日光が50度ほどある中で懸命に作業が進められています。

 この貯水池の主な工事を終えたエンジニアは、近傍の小高い山に砂防堤造成を開始しました。山といっても樹木は生えておらず、表面が土砂で覆われた岩山です。雨が降ると、水が浸透する間もなく鉄砲水となって下流の村を突き抜けてナージアン川に流下するのです。昨年調査に訪れた際は、ちょうど鉄砲水が下った後で、土壁がどさっと倒壊した住居が散見され、住人が嘆き「何とかして欲しい」とPMSに訴えてきました。村を縦断するこの洪水路はモラヘイル用水路の上流にある2つの小水路からの排水も受けており、且つ交通路でもあり調査でPMSの車両で通過した時は洪水路兼排水路と知り驚きました。現在進行中のモラヘイル用水路の改修工事ではこの排水をも用水路に引き込み利用するため工夫されています。

 谷には砂防堤を数カ所造り、鉄砲水を段階的に貯留させて緩流化、それによってゆっくり水を浸透させ、堤の周辺に草木の播種や植樹などが計画されています。この鉄砲水対策としては、当初「ハチマキ水路(山腹に造る幅の狭い溝)を数本造りたい」とPMSのエンジニアが計画し、大和さんとの間で協議が重ねられ、金は掛かるが効果は少ない、しかしPMSは試してみたい…すったもんだの末に、谷間に砂防堤を造ることになったのです。協議の中で現地職員の士気を下げないようにとの配慮に感謝するばかりでした。

アフガニスタンの国造り
2021年8月に現タリバン暫定政権が樹立して、翌年12月から私たちはアフガニスタンへの渡航を始めました。ビザの関係で2カ月現地に滞在し日本に1カ月半から2カ月、そして再度現地で2カ月、と言ったリズムが定着してきました。こんな中でいろいろな変化を目にします。

 はじめに驚いたのはジャララバードの街中で見た光景です。頭からすっぽりとブルカを被った女性たちが乳児または幼児を抱いて物乞いをしている姿です。以前ペシャワールで、赤ちゃんを抱いた物乞いの女性が商店街を練り歩いているのをよく見ましたが、ここでは女性たちが道路の大小を問わず交通量の多い道の真ん中に等間隔に座っていました。日中の直射日光は50度を超えるので気の毒に思い、職員に尋ねると割とあっさり「ビジネスだ、時間が来ると箱型の車が彼女らを迎えに来る」と言います。振り返って考えると彼女たちに何かを恵んでいた人を一人しか目にしていない。それにしても道路がいくら混雑していても座り込んでいる彼女たちにクラクションや罵声を浴びせるわけでもない。なんとおおらかな人々だろうと感動したものです。

 時には「本当に困っている女性もいるのではないか」と気にしながら過ごしていましたが、女性たちの数は現地を訪れる度に徐々に少なくなり、昨年は全く目にしなくなりました。聞くと座っている女性の自宅を役人が訪問し、実際に困っているのかどうかを調べ、支援が必要と判断された家族には月に2000~3000アフガニ(約4000~6000円)の支給が始まったとのこと。役人が一軒一軒訪問をしたと聞いて驚きましたが、本当の事だろうと考えます。というのは、現暫定政権が樹立してから土地と家屋登記の調査が一斉に行われ、不法に国土を使用している場合は借賃の支払いが義務付けられました。それまで暴力的に土地を奪っていた「土地マフィア」と呼ばれている人たちが、建設途中の物件を放置して国外へ逃亡したことは現地の誰もが知っている話で、PMSが建設した用水路のすぐ隣にも、マフィアが地元住民の反対を無視して強引に建設を進めた未完成の物件があります。他州の有力者の持ち物ということで前政権時に建設が始まり、地域住民やPMSも苦情を訴えてきましたが、以前の行政が恐れて手を打てなかった家です。

 渡航するたびに国造りに取り組んでいるなあ~と感じることが多々あります。
  次回説明をしたいと思います。
皆さま、お元気でお過ごしくださいませ。

PMS支援室 藤田千代子 
2024年10月4日 ジャララバードにて
以下、写真報告
P3-P10 山下 隼人
P11-16 山下 玄

▼ナージアン事業は、モラヘイル堰の土砂吐きと洪水吐きの建設、取水門上下流側の蛇籠による護岸の造成が行われている。2024年9月23日


▼用水路建設風景。全長2,150mのうち、約1,850mまでの掘削が完了。2か月後には貯水池までの通水が可能になる見通し。2024年9月23日


▼工事が概ね完了した貯水池。モラヘイル用水路で送られる水の最終地点となる。池の工事を担当した職員たちは近傍の谷(トールナウ地区)で砂防堤の建設に取り掛かる。2024年9月23日


▼トールナウ地区で、砂防堤の建設候補地を訪れたPMS支援室と技術アドバイザー、PMSエンジニアたち。トールナウは降雨があるとしばしば鉄砲水が流れ下り、下流側の村が被害を受けていた。砂防堤を建設することで鉄砲水の緩流化を図る。以前他団体が建設した砂防堤(写真)は、勢いよく流れ下る鉄砲水によって、倒壊したまま放置されている。2024年8月21日


▼サツマイモ畑。勢いよく伸びているツルの「ツル返し」を行った。また、いくつかを掘り起こし、イモの成長の確認を行った。2024年9月18日


▼掘り起こされた芋。2024年9月18日


▼バラコット取水口付近(標高約1330m)で行われている養蜂ではハチミツの収穫が行われた。夏の間は高地のコット郡に巣箱を移し、蜂たちはシンショウバイ(パシュトゥ語)と呼ばれるセージの一種から主な採蜜を行っている。9月末までシンショウバイから採蜜し、その後は低地へ移動する予定。この日は30箱で110kgの収穫となった。2024年8月28日


▼ハチミツの採取風景。①取り出した巣から蜜蓋を取り除く。ハチミツが十分に蓄えられていない巣や幼虫が多い巣は巣箱に残す。②遠心分離機で蜜を飛ばす。③採取した蜜をふるいで濾す。ふるいには幼虫がたくさん残っているが、PMSの養蜂家は「全体の蜂の数と比較すればごく少数なので問題ない」と述べている。2024年8月28日


▼バラコット用水路末端の小貯水池。随所から訪れる見物人たちが大人も子供も次から次へと跳び込み、市民プール代わりとして気持ちよさそうに泳いでいる。貯水池は、思わぬ二次的な効果をもたらしている。2024年9月23日


▼バラコット用水路2,400m周辺、切土した斜面。 バラコット用水路沿いではシナレイ(頁岩(けつがん):薄片状にはがれやすく、水を含むともろくなる)層が多い。降雨時に斜面からの土砂流出、用水路への土砂流入を防ぐために斜面を植物で覆うことを試みている。2024年9月11日


▼植生工。用水路の左壁面には、斜面から流れてくる雨水を用水路に取り込むために、2m間隔で穴が開けられている。斜面を植物で覆うことにより、穴が土砂で閉塞することを防ぐことを期待する。2024年9月11日


▼バラコットに自生するヒヨス。毒性を持つため羊に食べられる恐れがなく、シナレイ層・岩盤所かまわずに這いつくばるように成長していき、直径1mほどのものも発見。こちらも斜面に植えた。一部事務所に持ち帰り、水を張ったコップに入れ生育観察したところ、水の中でも芽が出てきているのを確認(写真左下)。斜面への活着も期待大。2024年9月11日


▼元PMS職員で中村先生の専属運転手として30年間働いたモクタール氏と、ガンベリ公園で邂逅。現在は息子のバイダルジャン(次ページ 写真右端)がジャララバード事務所に勤めている。2024年9月17日


▼PMSの農業チームたちに歓迎されるモクタール運転手 2024年9月17日