Top» 活動レポート» 掲載日:2025.8.18

12月月報


 皆さま、お元気でお過ごしでしょうか。
11月28日に一行8名でジャララバードに到着し、数日後に石橋周一OB(通訳)が合流ししばらく賑やかに過ごしました。
それから丁度1カ月が過ぎ、現在はPMS支援室員4名が残っている所ですが、この間いろいろな事がありました。主な出来事として以下のような事が挙げられます。今回はPMS総院長およびペシャワール会会長の村上先生がおられたので、州政府のPMSへの期待が膨らみシェルザド郡やホギャニ郡の灌漑事業やドロンタダムの水利用についての相談などもありました。

11月30日、ナンガラハル州知事を表敬訪問
12月3日、モラヘイル用水路通水式
12月4日、中村哲先生記念行事、ジア先生と協議
(村上会長、藤田、石橋氏通訳)
12月5日、シェルザド郡、ホギャニ郡視察
12月8日、FAO関連事業について協議―ミラーン事務所にて
12月17日、ドロンタダム視察

12月の天気は、ほぼ毎日もやがかかりどんよりしています。スピンガルやケシュマンド山脈がすっきり見える日はなかなかありませんが、目を凝らしてうっすらと見える山頂を観察すると非常に少ない積雪があります。富士山より高く、4,000~6,000m近くもある山です。事務所では12月11日頃から9時前後の気温が10度以下を示し冷え込んできました。雨は夕方に一度ほんの数分パラパラと降ったのみで、PMSの職員たちは来年の干ばつは厳しくなると口にしています。
このような中、PMSの活動地ではいきいきと作業が進められています。写真での報告とあわせてご覧ください。

ダラエヌール診療所
シェイワ郡への移住者が増加したことや、ダラエヌール周辺に帰還難民の居住に寄るかと考えられますが、受診者数が数カ月5,000名近くの診療数を記録しています。薬品や職員の労働力にも制限があるため調整を要します。平行してマラリア患者の治療数も増加傾向にあります。

ナージアン事業―モラヘイル用水路建設
堰・取水門から最終地の貯水池までが完成し、12月3日に通水式が行われました。ナージアン川から取水した水が途中でカレーズからの水と合流、農地の中を這うように通過しながら農地への給水門を数カ所備え、モスクの横では祈りの前の沐浴用に用水路壁に段差をつけて通過し、車道を横断したあと緩やかな下り坂の車道沿いに段差をつけながら用水路は延びます。遠方からみると用水路は階段状に見えます。道路沿いで水の到着を待っていた子供たちの歓声とともに2,000mほどの所で道路を離れ右折した水が波打ちながら貯水池を目指して流れてきました。炎天下のなか働き続けたPMSの職員や村の作業員たち、そして日本人たちが貯水池の底で見守るなかしぶきをあげながら池に流れ落ちました。歓声をあげ拍手です。「通水日は用水路が水で一本につながり、それまでの苦労は水に流される」と、中村先生の声が聞こえたようでした。

この用水路建設では計画されていなかった沈砂池造成について、大和技師の帰国前の12月21日には再度現場で計測や対岸の護岸線の位置の確認が行われました。幅の狭い河川で時折流下する鉄砲水の勢いに晒される場所であるため、慎重な協議が行われました。

取水設備の維持管理
クナール河の低水期はPMSが手掛けた各堰の点検が行われます。PMSが観測している水位表では、今年の増水期は例年のようにスパイク状ではなく高水位のまま水平に保たれたまま10月初旬まで続き、その後低水期に移行。現在では観測を開始した2018年から最低水位を示しています。長期にわたる高水位期を経た堰ではマルワリードⅡ堰のみが取水困難になっていましたが、他の堰は取水に何ら問題はなく流域住民は安心して麦蒔きや野菜作りに精を出しています。ここでも中村先生の口癖であった「一年を通して一定した水が取れる、安定灌漑」を思い出しPMS取水方式の素晴らしさを感じます。
補修工事は以下の通りです。

・カシマバード堰-堰の掛かる砂州の補強―11月3日に終了
・ミラーン堰背面の補強工事 
・カシコート橋の上流護岸線の洗堀―護岸工事
・カマⅠ堰の掛かる砂州の補修
・マルワリード=カシコート連続堰―巨礫の乱れを修復、コンクリート土砂吐き部の洗堀部に巨礫を投入

・シギ堰―堰上流部の土砂堆積の除去
・ベスード護岸線の終点地点の石出し水制の補強

上記のように、取水堰に関する補修工事が多く、用水路に関してはマルワリードⅠ以外では流域住民による維持管理が実行されています。

農業―ガンベリ農場
さつま芋の収穫を一緒にしました。まずは、研究中の植え付け時期別に掘り返しました。
楽しみにしていた8月の植付けでも芋ができており、2月から8月までの植え付けで収穫が可能と判明しました。残るは蔓を大量に生産して栽培地を増やすことですが、PMSの掘削機やトラックは用水路建設に忙しく一日も農業に貸して貰えず(!)、さつま芋用に考えている砂漠地の開墾を待っている所です。

ジャララバード事務所
1週間程まえ、州政府の役人がモラヘイル用水路現場で抜き打ち検査をしました。作業現場(現場があるかどうか)、職員数、作業員数を調べにきました。そこで作業員の数が6名多く記録してあることが指摘されました。ナージアン事務所・宿泊所の庭で蛇籠を編んでいる6名の場所に案内した所で役人たちは驚いたとのこと。先日検査した某NGOではエンジニアの数を4名多く記載していたそうで、翌日責任者の政府役人までが称賛しPMSの働きに感謝を述べました。

これは、ジア先生の考案でジャララバード事務所がひたすら続けている確認作業による結果です。ペシャワール会会報でもジア先生やジャララバード事務所の職員が話していますが、毎日事務所から各現場へ出向し燃料の補給や資機材のストック確認と同時に作業員の数と夫々の作業内容を目視し最後に現場監督と責任者の署名、、と一連の作業を日々行っているのです。現場によっては早朝に現場へ向かう時もあり、そんな日は夜明け前から事務所の燃料タンクのポンプが稼働する音が聞こえます。そして現場で作業をしている事務職員に会うと、彼らが、「日本の方々から頂いた資金を1ルピーも無駄にしない」という言葉に信頼がおけるのです。

今年は12月4日の中村先生の命日に、PMS職員たちと村上先生を筆頭とする日本人とがPMSの庭に一同に会し追悼セレモニーを静かに行いました。皆が中村先生は自分たちの心の中に生きていらっしゃると話し、PMSの活動、運営に関する考えと行いは先生の生前と何ら変わることなく続けていると話します。日々の彼らを見ていると真実だと感じています。職員同士の真剣な口喧嘩の回数を除いては。

今年も皆様には大変お世話になりました。皆様からのご支援と励ましによりPMSは活動を継続しております。心からの感謝を申し上げます。
新年が良い年となりますようお祈りいたします。

藤田千代子
2024年12月28日


▼カシマバードでは上流ドロンタダムの影響でカーブル河の水量が一定でない事や、取水門へ向かう左岸河道内の顕著な土砂堆積に悩まされており、PMSは毎年重機を出して対処していた。一方で流域(ベスード郡)の村人は団結力と維持管理の意識の高さが素晴らしく、用水路内の浚渫を欠かさずに行っている。最近では自分達で重機をレンタルし、取水を促すため堰の上に巨礫を積んでかさ上げするなど、工夫を重ねていた。 しかし堰の適正な造り方を始めとし、河から如何に無理なく自然な形で取水するかが、PMS方式の最も重要なポイントである。
今年は抜本的な対策として、堰を造成当初の高さに戻して土砂吐きを設置し、河道安定のために堰がかかる砂州周りの工事を行う事となった。


▼元々堰を造成した際には、巨礫で水量調整ができる簡易的な部分可動堰/土砂吐きを設けていた。しかし取水量が安定しない中で極力用水路へ水を送るべく、長年巨礫が詰められ放しの状態となりその姿を消していた。中村先生はここにコンクリート製土砂吐きを設置する計画を持っていたが、他の現場も忙しく手を付けられずにいた。ついにそこにメスを入れる事が叶った形だ。2024年8月17日

▼完成した土砂吐き。PMSがバラコットの現場で新たに採用した、練り石積みのものをここでも採用。 固定堰から巨礫を抜き、コンクリートで固めて造成した。鉄筋コンクリートに比べると強度は劣るだろうが、工期的にも工事費的にも非常に経済的である。2024年10月20日

▼河道や砂州が常に変動し続ける中で堰を護るためには、堰がかかる砂州をしっかり固定する事が重要。砂州固定の為に護岸を施した。今回は予算の関係もあり、主流である中央河道側のみ。さらに中央河道上流側に巨礫を投げ入れ(潜り堰)、左岸河道への導水を促す。また取水門への流量を確保するため、左岸河道内の掘削を行なった。2024年12月4日

▼10月に入りクナール河の水位が下がり始め、河の中の様子が徐々に観察できるようになる。PMSでは灌漑事業の維持管理部門が、これまでに造った各堰の経過観察を行っている。カマⅠ堰は幾度かの洪水を経て、堰がかかる砂州が分断されている事が発覚した。(2022年の航空写真でも兆候は見られていた)

▼堰を維持するには砂州の安定が必須。早急に重機を手配し、10月7日より砂州の補修に取り掛かった。

▼大量の土砂を投入して砂州を繋げた後、法面は巨礫でしっかり保護された。現場視察した技師達も、「良い仕事をしている」とのコメントであった。 2024年12月8日

▼下流側のカマⅡ堰も同時に視察。堰全体は非常に綺麗な形を保っている。ただ洪水吐きの部分は巨礫がだいぶ流され、以前よりも幅が拡がっていた。おおよそで測定したところ、25mくらいはありそうだ(造成時は15~20m)。今のところ大きな問題はないようだが、経過観察を続けていきたい。2024年12月8日

▼2022年夏のクナール河大洪水を経て、特に河の変動が激しいミラーン。堰を成していた3つの砂州のうち砂州-2と砂州-3が一体化されるほど、形が大きく変わってしまった。また左岸側の流量は減少し、主流がかなり右岸側(堰を成す砂州の背面側)に寄った。2023年にはこの主流が砂州の背面を洗掘するようになってしまい、2024年2月~4月に砂州保護と河道整備を行った。しかし例年になくクナール河の高水位期が続いた為、石出し水制一基と砂利で保護した砂州背面はさらに洗掘されてしまった。低水位期に転じた11月から、再び補修工事を開始。

▼砂州-1を中心に、石出し水制を複数設置して護岸を施し、やがて土砂堆積により洗掘されていた砂州が復元していく事を期待する。また大和技師の見立てでは、現在の河全体の流れ方は悪くない傾向で、今後は主流が左岸側に寄っていくのではないか、という事であった。今回は砂州の補強に留め、対岸砂州に手を入れての河道調整はしない方針が決まった。次の増水期や洪水を経てどのように変動していくか、注意深く観察していく必要がある。

▼「河は生き物である」という中村先生が常々口にしていた言葉が添えられながら、大和技師から「河道や砂州は右に寄り左に寄りを繰り返していく。今後の流れとしてはよい兆候も見られ、今回の砂州補強工事自体の出来はデール ハ!(とても 良い!)」というコメントがファヒーム技師に伝えられた。前回の補修が思うようにいかなかった事もあり、ファヒーム技師は「その言葉を聞きたかった!」と笑顔を浮かべていた。2024年12月14日

▼対岸の砂州から堰を視察する時に活躍してくれるのが、船頭のチェチェさん。上流側から河の流れに乗って、ぴったりと目的の場所にたどり着く。急流をオール代わりのシャベルで漕ぎ、陸では80kg以上あるゴムボートを片手で担ぎながら、軽快な足取りでまた上流側に運んでゆく。2024年12月14日

▼堰や河道周りが毎年慌ただしくはあるが、ミラーン用水路への取水自体は今のところ問題なく出来ている。柳の佇まいが冬を感じさせる。2024年12月14日

▼バラコット用水路2400m地点周辺の切土した斜面(頁岩層)で、降雨時に斜面からの土砂流出および用水路への土砂流入を防ぐため、9月に試験的に植生工を実施した。12月に再び観察に向かったところ、現地作業員が毎日欠かさず水やりを行った甲斐あって、確かに斜面に根付いていた。特にヒヨス(写真右)は横に広がるように成長していくことから、斜面を保護する一つの方策として、期待が膨らむ。2024年12月2日

▼進行中のナージアン事業で、モラヘイル堰取水門から用水路末端の貯水池までの通水式が行われた。取水門にてテープカットを行うPMS職員と日本人メンバー。2024年12月3日

▼全長約2,200mのモラヘイル用水路を抜けて、水は最終地点の貯水池へ勢いよく流れ落ちていった。その後、貯水池の隅で円座を組み、村上会長/PMS総院長やジア副院長、日本とPMSのエンジニアたちからの労いと激励の言葉が職員一同に送られた。2024年12月3日

▼中村先生の逝去から5年後の12月4日に、ジャララバード事務所にて追悼の会が行われた。PMSの全スタッフと滞在中の日本人メンバーが集まり、一人一人が中村先生へ想いを馳せる一日となった。

▼ナージアン事業モラヘイル堰、取水門を対岸高台から見る。堰下流側の護岸造成が残っている。2024年12月10日

▼堰下流側の護岸造成風景。ここは川幅が狭く急流が流れ下るため強固に造られる。基礎部は3m掘削し巨礫を投入、護岸壁は石とミルクセメントを混ぜて固められている。2024年10月1日

▼事務所で行われている蛇籠編み。編んでいるのは日雇いの作業員たちで、周辺の村々に住んでいる。PMSは用水路の維持、管理を地域住民たちで行なっていけるよう、新規事業に取り組む際は必ず地域住民を雇用し、班長たちが技術を指導している。はじめはゆっくりだった蛇籠編みも、10日ほどでマスターし、迅速な製作が可能となった。班長のサミウラさんはシェイワ郡在住で長年PMSで働いており、蛇籠編みを一任されている。2024年12月3日

▼お昼の休憩時間。作業員たちは近くの焚火で沸かした温かいチャイを飲みながら、家から持ち寄った食事を食べる。2024年12月1日

▼モラヘイル堰上流、対岸バゴン地区の湧水。ナージアン川近辺には湧水地が数多く存在し、それらもモラヘイル用水路に注ぎ込むよう整備される予定。バゴンでは4~5ヵ所の湧水地を整備する。2024年12月9日

▼現場での一枚。モラヘイル堰上流バゴン地区で、取水口の改修案を協議する一行。今年の洪水期に河床が低くなったため、堰の新設が必要となったのだ。2024年12月10日

▼モラヘイル堰近傍、トールナウ谷で建設中の砂防堤。降雨時に山から急流で流れ下る鉄砲水を緩流化して、人家や畑を守るため盛土、蛇籠、巨礫での砂防堤建設が進んでいる。2024年12月7日

▼ガンベリ農場でのサツマイモ掘り。11月下旬に日本人スタッフが現地に到着してから、農業担当アジュマルジャンは芋掘りのため日本人たちを今か今かと待っていた。寒さが厳しくなってきて地上のツルは枯れているが、芋は無事だ。2024年12月12日

▼6月、7月、8月にツルを植え付けた畑の一部で収穫したサツマイモ。ネズミに食べられていた芋も散見された。1月に種芋の伏せ込みをした際はヤマアラシがやってきて芋を食い荒らされることがあったが、対策としてカカシを設置した効果があってか今回収穫したサツマイモ畑では被害が見られなかった。8月のツルも立派な芋をいくつもぶら下げており、8月まで問題なく植え付けができることがわかった。2024年12月12日

▼焼き芋を頬張るアジュマルジャンと作業員たち。2024年12月12日