Top» 活動レポート» 掲載日:2025.8.18

4月月報


モラヘイル用水路通水!!

皆さま、
お元気でお過ごしでしょうか。
アフガニスタンへの再渡航を2022年に始めて以降、昨年11月は村上会長をはじめ最大人数9名がPMSの活動地を訪れました。PMS支援室員は2か月滞在し1月末に帰国をしましたが、今滞在中いろいろな事がありました。なかでも12月4日に現地職員たちとPMSジャララバード事務所の庭に座り中村先生を偲ぶ時を共有したことは双方の絆が更に強くなった感じがしました。
その前日の3日には現在建設中のモラヘイル用水路の試験通水のため用水路全線に水を流し、職員や住民たちの働きを労い喜びあいました。また、大和さんのご指導のもと、昨年3月に完工したバラコット用水路の損失水量の測定を行い、損失量は問題のない範囲であることが判明したこともPMSにとってほっとして大変嬉しい事でした。
他の出来事では州知事からの要請でスピンガル山麓の2つの郡の水資源の視察やドロンタダムの視察などもあり、あっという間に時間が過ぎました。
PMSの活動のご報告を致します。写真と合わせてご覧下さい。

医療 ― ダラエヌール診療所
2024年度の診療数は56,209人と、近年では最高数を記録しました。ダラエヌール診療所に政府から割り当てられたひと月の診療数は2500人ですが、24年度は5月、7月、8月、9月に5,000人以上の診療をしています。理由としてはパキスタンからの強制難民帰還が続き、冬季に帰還させられた北部出身の難民たちは故郷に戻ることが出来ないため、用水路建設によって既に農地が復旧し農作物が豊かに実っているベスード、カマ、シェイワ郡に一時的に身を寄せているうちに、農繁期の働き手として雇われたり、とにかく彼らは家族を養わなければならないので商売を始める人も多くいます。そして、子供が病気になるとPMSの診療所に助けを求めることができるのが安心につながり、その地に住みついた人たちも多いのです。彼らにとって用水路の恩恵で家畜市場や野菜や肉、自家製のチーズ、薬局、機械の部品等ありとあらゆる物が並べられ活気を取り戻しているバザールをみると、この地に希望を見出しているのだろうと感じます。

実は、用水路建設の候補地の干上がった畑を目にして無力感に苛まれる時、PMSの活動地で季節ごとの実りや、羊飼いに連れられた羊の群れを至る所で目にすると、私たちもそこに希望を感じ取ることができます。そして、中村先生に「初めから諦めるな!」と叱咤激励されたと喜々として話すPMS職員たちを中村先生は遺してくれている。

話は戻りますが、この地には帰還難民の他に国内避難民も流入しています。干ばつに被災した他州からの(多くが隣のクナール州)移住者たちのコロニーが用水路周辺や荒地に住みついています。このような状況の中で24時間診療を守っているダラエヌール診療所は大変重要な存在で、この地域になくてはならない存在となっているのです。
診療所の上流バンバコットに郡立の病院の建設が決まったとの情報があり、彼らと良好な協力体制が築かれることを期待しています。

ハンセン病診療の準備
帰国前の1月21日に、ジア先生をはじめダラエヌール診療所のハフィズラ医師、ハミドラ医師、ヨセフ検査技師、アーベット看護師たちとハンセン病診療再開について話し合いました。
まずは、州の保健局から提供された建物を視察して場所を選定し、各部署の必要物品の見積もりを取ります。一方で要員の採用に向け準備を進めることにもなりました。
治らい薬の入手やハンセン病の多発地帯であったクナール州から移住した人々の居住区での診療や旧ダラエピーチ、ダラエワマ診療所との協力、など具体的な意見も出されました。準備が整い次第、まずは小さい規模でよくよく観察をしながら進めていくことで全員が一致しました。次回の渡航で進捗をご報告致します。

灌漑事業 ― ナージアン事業
2024年4月に着工したナージアン事業のモラヘイル用水路建設では取水堰、水門、全長約2kmの用水路、その末端の貯水池が12月に完成し、12月3日に試験的な通水で問題がなく送水が開始され、安定した水が農地を潤しています。残作業は沈砂池の造設などがあります。現在、モラヘイル用水路の上流にある3つの既存用水路のひとつカチコール用水路に湧水を取り込む工事が進行中。カチコール用水路の余り水は末端でモラヘイル用水路に落とされ再利用されます。
①複数の湧水を蛇籠の用水路に集め、
②ナージアン川をサイフォンで潜らせてカチコール用水路に合流、
③ 素掘りの用水路床面には浸透水を少なくするためソイルセメントのライニング施工
する計画で作業が進められています。完成後には更に上流のミアガン用水路、バゴン用水路に似たような工事が控えています。最終的には3つの用水路の余り水は全て最下流のモラヘイル用水路へ流入し、水不足ですっかり干上がっていたモラヘイル用水路流域末端の農地復旧を可能にします。
もう一カ所の作業地のトールナウ(村の最上流にある山)では、3つの谷に砂防堤を造っています。時折降る雨で流れ下る鉄砲水から家屋や農地を守り且つ洪水を穏流化して地下水を涵養することを目的に現在二つ目の谷に堤を造成中。中村先生はスピンガル山脈方面で堤を造ることを長年願っていましたので、トールナウの現場に行くと感慨深いものがあります。

農業 ― ガンベリ農場
2月にさつま芋の伏せこみ、4月は苗代作り、ナツメヤシの受粉作業などが行われました。今月末には麦刈りが始まる予定です。新しい取り組みとして、桐の木の栽培を開始しました。

現地では3月末に1カ月の断食明けのイードを迎えました。職員たちは親戚周りをして新年のあいさつを兼ねてイードのお祝いをしたとのことです。親戚や友人と顔を合わせ“座って”お茶を飲み話をするのがアフガニスタン流なのだと、毎年彼らは「座って」を強調して話します。
この平和が続くことを心から願っております。
2025年4月25日
PMS支援室
藤田千代子
写真報告:籾井孝文、山下隼人、赤澤 空、山下玄


▼3月27日までのクナール河の水位グラフ(赤線)。3月26日、27日にまとまった降雨があり、水位が上昇した。今後の変化を注視していきたい。


▼オレンジの収穫。広大な園には、オレンジをはじめとする様々な柑橘類が約3万本以上植えられ、年間261トンの果実が収穫されている。2025年1月27日


▼サツマイモの伏せ込み。作業員は慣れた手つきで進めていく。2025年2月15日


▼ガンベリ公園の敷地を拡張。中村医師の記念塔を中心に、敷地面積は倍になる。2025年2月4日


▼敷地内の植樹が概ね終了。皆、完成を待ち望んでいる。2025年2月15日


▼ガンベリ農場のオレンジ園。新たに800本近くの苗木が植えられた。2025年2月23日


▼育苗場では、オレンジの苗木がすくすくと育ち、青々とした葉を茂らせている。2025年2月26日


▼診療所全体をアーベット看護師に隅々まで案内してもらう。診療時間は8:00~15:00だが、夜勤職員を置き、急患に対応できる24時間体制をとっている。2024年12月12日


▼【左写真】検査室:ヨセフ検査技師とマスード検査技師の二名が毎月平均800件の検査を行い、正確な診断と効果的な治療計画のための業務を担う。2024年12月18日
【右写真】薬局:抗生物質や抗マラリア薬など50種類以上の医薬品を備え、患者には無料で提供している。2024年12月18日


▼【左写真】処置室:傷の処置、注射、簡単な外科処置など、包括的なケアを提供する。2024年12月18日
【右写真】外来診療(OPD):ハミドゥラー医師とハフィズラー医師の二名が、毎日約250人の患者を診察している。2024年12月18日


▼整備前のマルワリードⅡ流域下流。
以下、中村医師の週報より一部抜粋する。「下流(E岩盤)からベラ村を望む。難民化していた村民が三々五々戻って、テント生活を営んでいる。一昨年夏、分流の発生で同村は島状に孤立していたが、分流閉塞によって交通が自由となり、家を建て始める者も散見される。(中村医師週報より 写真:2017年6月12日)」


▼現在の同地点。黄色に色づいているのはサトウキビで、昨年価格が高騰していたため大量に栽培された。8年前中村先生が撮影していた写真資料と現在とを交互に見比べていると、PMS職員の運転手がそれをサッと手に取りそのまま護衛たちのところへ。眼前の景色の8年の変遷を熱心に語っていた。
2025年1月5日


▼大晦日にジャララバード事務所の敷地内でサツマイモ掘りを行なった。ガンベリ農場と同様に、5月と8月にそれぞれ試験的にツルを植え付け、合わせて約30kgの収穫となった。2024年12月31日


▼収穫された芋は、焼き芋のほかにも素揚げしたサツマイモチップスとして食された。素材の甘さのみで止まらなくなるほどの美味しさであり、評判が良い。PMS職員の子どもたちからも人気が高いという。2024年9月18日


▼中村先生が「河川工事の黄金期」と呼んでいたクナール河の低水位期(10月~3月頃)が、今冬も終わりを迎える。維持管理事業では、今冬最後の主要な工事としてカマ堰まわりの補修を行なった。


▼2024年にはクナール河の高水位が横ばいに続き、大きな水圧が掛かった為か、カマI・II堰では土砂吐き末端の河床が深掘れを起こしていた。2019年にカマI堰を整備していた当時、中村先生は「土砂吐き末端は激しい流れで河床が洗掘されやすく、その程度はその年の洪水、傾斜、落差、流方向と複数の要因による」と言及していた。25mの土砂吐き本体(コンクリート構造物)に対して元々数十メートルに及ぶ護床工を施していたが、それが洗堀された箇所に巨礫を充填してゆく。2025年1月4日


▼【上写真】作業中の様子。2025年1月16日
【下写真】補修後1ヶ月の状態。今年の増水期を経て巨礫が乱れず安定してゆくか、経過観察が求められる。2025年2月17日


▼ナージアン事業で殆どのPMS灌漑スタッフが遠くに出払っている中、維持管理事業ではレンタル重機を手配して工事を行なう。現場監督のアタ・モハマッドさんが張り付いて、レンタル会社のドライバーに逐一指示を出す。責任者のファヒーム技師と共に、今冬の維持管理に貢献してくれた一人。
【左写真】2018-19年にカマI堰を大規模整備していた頃の中村先生の報告書
【右写真】2025年1月2日、マルワリード堰で仕事中のアタ・モハマッドさん。そちらが終わった後にレンタル重機と共にミラーン堰、その完了後にはカマ堰の現場に移動した。


▼下流側のカマⅡ堰では、カマIと同様の土砂吐き補修を行なうと共に、洪水吐き補修を行なった。洪水吐き部分も多くの巨礫が流され、建設当初の幅が15m前後だったところ、28mに拡がっていた。このまま拡大すると用水路側への流量が減少し取水困難につながってしまい、また堰自体も崩壊しかねないため、今冬のうちに手を入れる事となった。2024年12月8日


▼一言で説明してしまうと「ダンプカーで巨礫を運んできて、バックホーで並べる」という作業であるが、ここにこそ、長年かけて確立されたPMS方式の技が詰め込まれている。遠くから質の良い石を運んできて、緻密な計算によって設計された「湾曲斜め堰」を意識しながら、洪水吐きを元の状態に復元してゆくのである。今回の補修を終えた時点での洪水吐きの幅は、水面付近で15m、河床部分で10mとなった。2025年2月17日


▼カマ堰を造成していた頃に、対岸工事として実施したベスード護岸。特に2010年の大洪水でベスードの村が壊滅的な被害を受けたため、最終的に3.5kmの長大な堤防を形成する事となった。河道が右岸側に寄り付く下流側では洗掘が起こりやすく、定期的な補修が必要となっている。12月に石出し水制2基の補修と、1月には2基の水制を新たに造成した。


▼過去に海外団体が造った質の低い石出し水制(角石で下向き)の直上に新設した2基。PMS方式の水制は丸石で造成する事で水流に強く、上向きに配置して流れを河道中央に導き、護岸の洗掘を低減させる。 背景にはケシュマンド山脈がそびえるが、積雪は以前よりさらに心もとない。これらの山脈の雪解け水が現地の生命線であるだけに、今年も干ばつが心配される。2025年1月23日


▼灌漑部門のエンジニアたち。ベテランのディダール技師とファヒーム技師のもとで、3人の若手技師が働いている。今冬はファヒーム技師が維持管理事業の現場で多忙を極めていたが、その間も今現在も、ナージアン事業ではこの3人がそれぞれ持ち場に分かれ、現場で旗振りしている。2025年12月19日


▼最近行なわれた、ディダール技師からの技術レクチャー。スライドを用いた説明に、皆が熱心に聞き入っているようだ。2025年3月13日


▼主要工事である、約2kmのモラヘイル用水路と末端の貯水池が2024年末に造成完了した後、現在は主に下記2つの工事が進められている。
・トールナウの3つの谷で盛り土や蛇籠、巨礫を用いた砂防堤を造成。1つ目の谷の2基が終わり、2つ目の谷での工事が進行中。
・上流の既存3用水路を整備し、且つ湧水を取水して最終的にモラヘイル用水路に接続させる。1ヵ所目としてカチコール用水路の工事を開始。


▼モラヘイル用水路取水点の全景。 2024年12月10日


▼3月10日頃にまとまった降雨があり、大池には全容量の約半分(25,000m3)の水が溜まった。最初はすぐに水が浸透していたが、少しずつ地面の土が目詰まりして保水力を増し、浸透速度が徐々に緩やかになっていったという、良い報告も受けた。 2025年3月13日


▼大池の隣の小池には、常にカレーズから送られてくる水が注ぎ込まれる。一晩で一杯になり(2,500m3)、日中の畑作業に利用できる。2025年3月13日


▼トールナウ谷では、ポーパル技師が現場担当している。一つ目の谷では下流側よりTN1-1、TN1-2の計2基の盛り土の砂防堤が完成。2025年1月27日


▼現在は、最も集水域が広い二つ目の谷で工事が進行中。土石流の流路末端側のTN2-1は、11月中旬から約2ヵ月半かけて重機で少しずつ盛り土を締め固めながら巨大な堤を築き、その後は手作業で丁寧に石貼りを行なっている。上流側の土石を溜めるポケット部を掘削して容量を増加させつつ、掘削した土を用いて下流側には3つの小段を設け、堤をより強固なものとしていく。2025年3月18日


▼モラヘイル用水路取水点より約1.5km上流、ナージアン川左岸側にあるカチコール湧水地での工事。ファイズラー技師が担当している。ここに湧水の導水路を造成し、ナージアン川の下にサイフォン(パイプ)を通して、集めた湧水を右岸側のカチコール用水路に引き込む計画。2025年3月15日


▼右岸側のカチコール用水路周りの現場は、ワヒドゥラー技師の担当。既存水路の整備を行なうと共に、右岸側で新たに発見した湧水も引き込み、水量を増やす算段である。2025年3月19日