2008年度の水利事業報告 及び2009年度の計画 ペシャワール会現地代表・PMS(ペシャワール会医療サービス)総院長 中村哲 |
ペシャワール会報100号より (2009年7月15日発行) |
2003年3月に着工した用水路は、2007年4月、4年の歳月をかけて第1期工事13キロメートルを完了した。第2期は6,8キロから最終的に11,3キロに延長され、工事は最終地点にさしかかっている(全長24,3キロ)。これは、諸般の情勢から、早期完成を目指し、ガンベリ沙漠横断の第3期工事を全て第2期工事に含めたためである。 2009年6月、最難関の20~21キロ地点を突破、沙漠横断路3.5キロのうち、1,2キロまで開通させた。全工程24,3キロを終え、開通を宣言するのは7月中旬となる。なお、終点はガンベリの自然土石流路(普段は涸れ川)に落とされ、急流をなしてクナール河に戻る。 第二期工事、特に08年度で特徴的だったのは、水路が延長される度に灌漑地が増し、分水路の整備、発生する湿地帯の処理を行いつつの作業だったこと、防災対策に集中したことである。この結果、この一年間だけでも約2,000ヘクタールを潤し、最終的にマルワリード用水路は約3,000ヘクタールの農地に水を供給する。 |
用水路の概要(2008年1月1日~2009年5月17日の実績を示す)
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既存水路と新水路との間には、当然湿害が発生する。このため、2009年3月から6月まで、放置されていた広大な湿害地の排水設備を復活させ、以後湿害の問題はなくなった。分水路は、この6年間で10,3キロが整備された。 ■植樹 植樹の目的は、①水路工事の一部である柳枝(りゅうし)工、②土手の保護、③土石流の緩流化、④防風・防砂林の造成で、約20万本が植えられた。木の成長は早く、第1期工事の地帯は水路沿いに並木道が伸びている。植樹なしに水路の保全は考えられない。 ■他の用水路の取水口建設 最近の気候変動は、アフガニスタン全土で大きな影響を与えている。即(すなわ)ち、雪解けと洪水が早めに訪れ、最も農業用水が要る時期に、渇水期が始まるのである。マルワリード用水路があるクナール河沿いでは、増水のピークが5月下旬から6月上旬に集中、その後急激に河の水位が下降する。このため、大河川沿いの耕地もまた、大きな被害を受けている。 われわれが初め手本としたシェイワ用水路は、2005年から深刻となり、一時は完全に水が途絶えた。その他の隣接する用水路も同様で、PMSが取水堰(ぜき)の方法を会得すると、次々と支援が行われた。2008年は、各地域で取水口建設が行われた。 ベスード用水路: 2007年~2009年 シェイワ用水路: 2008年 カマ用水路: 2009年 それぞれの灌漑(かんがい)面積は、ベスード3000、シェイワ1200、カマ7000ヘクタールである。 われわれの用水路建設は、隣接地域にも恩恵を及ぼし、ニングラハル州北部農村地帯で沙漠化を免れた地域は1万ヘクタール(100平方キロメートル)を優に超える。殊にカマ郡では、2009年夏の作付けの六割以上が米であり、同地域始まって以来だと言われる。 一般に取水堰の建設は膨大な石材を必要とするが、資機材と労働力は全てマルワリード用水路の建設費に含まれている。紙面を借りて会員・支援者の方々に明らかにしておきたい。この地域がPMSの独壇場となったのは、われわれが優れているからではない。それほど旱魃(かんばつ)問題に関心が薄く、他にやるものがいなかったのである。 水は人々の生命線である。「もし、ニングラハル州北部農村が壊滅していれば、ジャララバードもまた、失業者と避難民で溢れ、カンダハルと同様に血なまぐさい騒乱の渦中に投げ込まれたであろう」とは、事実を知る住民たちの実感である。 誰でもよい。国際支援の関心がつまらぬ政治的駆け引きや、無益な戦争を離れ、人々の生活と生命に向くことを期待する。 第2期工事の詳細は別表に譲る。(※HPには記載しておりません) ■井戸事業 2007年4月に飲料水源は1,550ヶ所を超えたが、2008年は学校、モスクなどの公共施設だけに絞り、2008年12月、井戸事業を水路事業に統合した。これは、次に述べる自立定着村建設が急がれるためで、新たな村の飲料水源に集中している。2008年6月現在、18カ所のボーリング井戸がガンベリ沙漠に建設された。また、同沙漠の岩盤地帯の水路沿いには、浸透水(湧水)を利用して清潔な飲料水源を得る試みが行われようとしている。 |
![]() マルワリード用水路 要図 |
■2009年度の計画 事業は基本的にこれまでの連続で、目新しいものはない。年度報告に述べた。医療面ではハンセン病診療の場の確保が懸案で、水路事業は自立定着村の確立が大きな目標である。 |