アフガンいのちの基金No.55
「迫り来る飢餓と無政府状態」

PMS病院長 中村 哲
2001年11月29日(木)

11月13日の北部同盟カブール進駐以来、カブールを除く全アフガニスタンで治安が急速に悪化。各国の救援団体、WFP(世界食糧計画)、国連組織は、カブール市以外の地域で困難に直面している。厳冬を迎えてアフガニスタン全土が恐るべき状態。
 もともと飢餓避難民であふれていたカブール市民のうち、相当のパシュトゥン系住民がラグマン州、ニングラハル州の東部に逃れてきている。東の最大の町ジャララバードでは、11月15日から「防衛隊長」ハザラット・アリの率いる北部同盟軍民が闊歩し、PMS(ペシャワール会医療サービス)とDACAAR(デンマーク救援会)以外の全ての外国団体、国連系の事務所が略奪された。治安は最悪である。

 現在、圧倒的多数の地元パシュトゥン系住民たちは沈黙し、市民の大部分は周辺農村に家族を避難させて、バザールの店主たちは昼間だけ営業をしている。彼らが望みを託するのは「州知事」ハッジ・カディール。地元パシュトゥン出身の人望ある人物だが、武力を持たぬため、北部同盟の軍民を抑えることができないでいる。しかしPMS診療所のある地域や山村部は安全で、医療活動はもちろん、大部分の地域で水源確保事業は継続されている。


PMS(ペシャワール会医療サービス)活動の現況

1)医療活動

 カブールの5診療所(ダシュテバルチー、カラエ・ザマーン・ハーン、チェルストン、ラフマン・ミナ、カルガ)及びダラエ・ヌール、ダラエ・ピーチ、ヌーリスタン(ワマ)の各渓谷のPMS診療所は平常どおり診療を続けている。
 8月に予測された悪性マラリア流行が東部で現実のものとなり、かなりの犠牲者が続出、ペシャワールでも多くの子供たちの死亡が確認された(公営病院だけで死んだ子供の数が200名以上を記録。大半がジャララバードから治療にきたもの)。11月29日、PMS病院は2チームを急遽編成、薬品(マラリア薬約1万人分など)を満載して流行地に送った。最も犠牲者が多いと見られるシェイワ、カマ地区で2週間、フィールドワークが行われる。


2)食糧配給活動

 著しい治安の悪化のため、コンボイを使うカブールへの大量輸送が困難となった。しかしカブール陥落まで 828.3トン、その後カブール残留職員の手で 109トン、合計 937.3トン(93,730人の1ヵ月半分)の小麦粉、食用油 74,200リットルが配給された。現在ペシャワールに約 3,000トン、ジャララバードに 281.7トンの小麦粉が蓄積され、治安が回復すれば直ちに輸送できる。しかし、カブール市内については間もなく国際救援が殺到すること、それまで餓死寸前の一割弱の最も貧窮する市民に1ヵ月半生存できる量を配給したので、当面の餓死の危機はカブール市内については遠のいたと判断、今後の配給の主な対象を東部へ逃れてくる避難民に集中する予定。


3)水源確保事業

 作業地の大半が北部の軍民の略奪から安全な農山村地域であるため、一部を除いて作業が継続されている。11月16日現在、総作業地668、利用可能水源562(うち完成460、カレーズ30)である。ダラエ・ヌールで砂漠化が残ったブディアライ村では、川床のレベルに達するレベルまで掘り下げた灌漑用の大口径井戸が水を得て、1月初めまでに本格的な緑化計画が期待される。


以上が現状であるが、無政府状態がいつまで続くかによって、「いのちの基金」第二期計画の実施時期が左右される。しかし、たとえ無政府状態でも、ある程度の支援は可能である。現状の支援を継続しながら、ペシャワールのPMS基地病院を強化、情勢を冷静に見て本格的な第二期計画の策定を行う。ただし
1.農村の自給自足態勢を確立すること
2.東部の恵まれぬ地域、アフガン国内の飢餓避難民に集中すること
が大方針である。



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