アフガンいのちの基金No.88
「アフガン復興一問一答(その2)」

PMS病院長 中村哲
2002年03月03日(日)


現在の「アフガン復興」の状態は?

総論があって各論がない状態である。一部には積極的に活動している団体もあるが、少数の動きだろう。「東京会議」でアフガン側の期待が膨らんだだけに、即時実施できるものは実施しないと、裏切られた感情が広がってゆくだろう。現在、首都カブールでは、援助団体の豪勢なオフィスだけが立ち並んでいるのは異様である。外ではその日の食にもこと欠く乞食が沢山いて、まるで敗戦直後の占領軍のように国際治安支援部隊がパトロールしている。このままでは、民衆の気持ちが離反する。反英米感情は、ますます高まっている。やがて爆発するのは目に見えている。依然として「緊急状態」が続いていると考えてよい。

政情不安で活動しにくい面があるのでは?

地方は確かに治安が悪くて活動しにくい。現在の政治的な確執の構図は、一口で言えば米露の暗闘である。大量のロシア製武器が、旧北部同盟軍とそのシンパに流されている。強盗・略奪は珍しくない。麻薬栽培も、堂々と行われるようになった。地域によってはタリバン旧政権下の秩序を懐かしむ声も根強い。しかし、支援は大都市については可能。できることはいくらでもある。ただ、政治・軍事に触れることをタブーにすべきだ。「どんな政治体制ができようと内政問題だ」との認識で臨めば、さほど障害は考えられない。
 要は、一般の民意を汲むことが重要であって、政治を論ずることではない。昨年、大干ばつで人々が数キロの道のりを歩いて水を得ていた最中に、ある国際団体は娯楽用のプールを作っていたことがあった。西欧人に悪意はなくとも、これでは人々が信用しないだろう。現在の状態は、まさにその連続である。


あなたが指導する立場だとしたら、まず具体的にどうするか。

先ず、民衆を食わせることだ。荒廃した首都の建設事業や土木工事を大規模に始め、失業者を一時的にでも減らす。それだけでも政治安定につながることを誰も言わない。先進国側の論理に立つ綺麗ごとが余りに多すぎるのだ。首都カブールは奇妙な町で、ものの流通はさほど障害がないのに、民衆の購買力がない状態である。しかも、現在の大都市は旱魃避難民があふれている状態である。社会不安を一掃するのは暴力でもなく、美しい理念でもない。それは、満足な衣食住である。これら国内避難民は、多少の収入さえあれば、故郷へ残した家族を養い、小規模な投資を準備して戻る機会を窺うことができる。アフガン農民は簡単に自分の土地を捨てない。
 考えもなく目立つ上部構造だけに湯水のような金を注ぐのは良くない。アフガン社会基盤の整備への投資であるべきだ。現段階で民衆は実は地雷除去や教育よりも、生存することを欲している。彼らの声が国際社会に殆ど届かないのだ。


日本のODA(政府開発援助)の建設事業は、過去評判が良くないこともあったが?

アフガンの今の実情の中では、違う。中流・上流層だけでなく、下層の膨大な人口(農民、都市貧民)に建設事業や土木工事を通じて雇用機会と収入源を与えれば、それだけでも政治的安定につながるだろう。現在の趨勢は、アフガン社会の中ではむしろ少数である西欧化した上流層の意見が、先進国に説得力をもって歓迎されているきらいがある。
 この際、躊躇することはない。土木建設関係の援助は日本の得意とするところだ。民衆は必ず歓迎する。政府施設、中流層の住むアパートの改修、道路の補修、水道設備など沢山ある。貧民も中流層も、みな歓迎する。ただし、これは急場しのぎであって、次に必要なのは農村生活の保障に重点を置いた土木工事、水利施設だろう。


カブール中心の支援だけでよいのか?

今はそれが最善だ。また当分はそれしかないだろう。飢餓民が集中しているので援助効率がよいこと、目の行き届く支援ができること、国家再建の中堅たる中流階級を呼び返せることと密接につながってくる。


NGOの役割については?

はっきり言って、援助ごっこではいけない。また民間の限界がある。案外知られてないが、声なき一般のアフガン民衆の多くが、NGO事業を「偽善的ビジネス」だと嘲笑、軽蔑していることを知っておくべきだ。NGOの良さは、政府にも国連にもできない、小回りのきく模範的な小規模プロジェクトを通じて、現地の真のニーズを訴え続け、結果的に良い方針を共に生み出してゆく原動力であるべきだ。話題性に飛びついて、名を上げることに腐心するようになっては本末転倒だろう。まして、政治交渉の手引きをしたりするのは危険だ。アフガン社会は一筋縄ではゆかない。特定の勢力だけとの接触では、誤った方針に結びつきかねない。政治は政治家に任せて置けばよい。


援助の実施時期については?

食糧配給、貧民救済、土木建設事業を中心とする首都再建については今!この数ヶ月が鍵である。
 その他のことは実情を把握しながら、ゆるりゆるりとやればよい。


ペシャワール会の方針は?

「アフガン問題」は、再び忘れ去られてゆくだろう。だがペシャワール会の方針は、これまで変わりなかったし、これからも変わらない。ジャララバードを拠点に東部の農山村を中心とした活動を継続する。但し、カブールの都市貧困層への支援は、数年後を射程に入れて積極的に続ける。第二期計画では、干ばつ対策と荒廃した農村復興モデルが大きな柱となっている。


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