アフガン復興/軍とセットの援助に反発

中村哲
2003年11月22日(日)朝日新聞掲載
▲用水路作業現場/2003年11月20日撮影

私たちPMS(ペシャワール会医療サービス)がアフガニスタンのクナール州で用水路を建設中だった今月11月2日、発破作業を攻撃と誤認した米軍ヘリコプター2機が機銃掃射した。作業地の平和は一瞬にして吹き飛ばされた。クナール州には現在、米軍の兵力が次々と集結している。当地の治安状況は私が滞在した20年間で最悪になっている。

いま、ほとんどが農民であるアフガンの人々が切実に欲するのは、食糧と平和な村々の回復である。この4年、東部アフガンは未曾有の干ばつで耕地が砂漠化し、大量の難民が発生している。彼らが大都市に流れ、治安悪化の背景をなしていることは意外に知られていない。

こうした事態に対応するため、私たちは井戸掘りに努め、これまでに1,000本の井戸を造った。さらに、用水路も建設中だ。これは10数万人の帰農を促し、少なからず地域の復興と安定に寄与するはずだった。にもかかわらず、このところ現地では米軍のアルカイダ掃討作戦による誤爆が頻繁に起こり、住民の米軍への敵意が日増しに高まっている。

イラクと同様、アフガンでも、米軍に対してだけではなく、国連組織や国際赤十字、外国のNGOへの襲撃事件が頻発している。地元民から襲撃を受け、すでに撤退した国際団体もある。「人道支援に赴いたのになぜ」といぶかる日本国民も多いと思う。

現地が反発するのは、復興援助が軍事介入とセットになっているうえ、外国側のニーズ中心で民意とかけ離れたものになっているからだ。「タリバーン政権は問題もあったが、アメリカの介入はもっと嫌だ」というのがアフガン民衆の本音だろう。

地元民は「タリバーンに代わって、(米国の)デモクラシーがきた」と言い、嫌なものが入れ替わっただけと受け止めている。しかし、大っぴらに言えば「アルカイダ協力者」と烙印を押される。
結局、暴力による干渉はろくな結果を生まなかった。人々が生きるための支援なら軍隊は必要ない。これまでPMSは一度も攻撃を受けたことがない。

今回、私たちは「テロリスト」からではなく、「国際社会の正義」から襲撃された。日本政府がこの「正義」に同調し、「軍隊」を派遣するとなれば、アフガンでも日本への敵意が生まれ、私たちが攻撃の対象になりかねない。すでに私たちは車両から日章旗と「JAPAN」の文字を消し、政府とは無関係だと明言して活動せざるを得ない状況に至っている。

平和には軍事力以上の力がある。国是である平和主義を非現実的だと軽んじ、米国の軍事力行使だけでなく、自衛隊の派遣すらも是認しようとする日本の風潮は危険かつ奇怪である。