ああ、我が恥多き所行
現地連絡員 杉山大二朗
ペシャワール会報106号より
(2010年12月08日発行)
ジャララバード事務所のスタッフと。左から、運転手のイスラムディーン、農業責任者のアジマール、杉山ワーカ、水路事務のベイダール、村井ワーカ、井戸担当のサーベル。
仲良き(?)会計四人組
今年の夏からジャララバード事務所の会計係に配属された。
他にも水路現場のデイリーレポートや週間レポート、そして月間農業レポートも担当しているが、日常業務は主に事務所で会計の仕事をしている。
会計の責任者であるハニフラさんとカービル、村井君、私の4人で担当している。
「ほら、ミスター・ダイ。この伝票はまだ精算してないよ。あれ? これ、昨日と同じミスだぜ。ちゃんと見ろよ!」
「ありゃ、ほんとだ。いっけねぇ」

 ハニフラさんは私が記録した出納帳や領収書をじっくりチェックして、間違いを訂正してくれる。
 実に細かい性格をしている彼と、万事が大雑把で適当に生きている私とは相性が良く、喩えるならば曹操と劉備、大久保と西郷という良い関係が築けそうである(あれ、いずれも敵対し合ってるか)。
「あーぁ、まーたミスター・ダイがミスしてる! ペナルティーとしてビスケット1箱ねー!」とカービル、村井コンビが囃し立てるので私は三白眼を剥き、「せからしかっ(五月蠅)!」と一喝。  このように終始、冗談(?)を言い合っては、にこやかに仲良く仕事をしている。  因みに会計の部屋では基本的にパシュトゥ語で話しており、いつからか日本語や英語は極力話さないのが暗黙の了解になっている。

古傷も今や勲章?
日本から元会計係だった松永君の電話が入る。懐かしい仲間からの電話と知り、ハニフラさんとカービルに代わる。彼らが私を見てニヤニヤ笑うので「何、笑ってんだよ? 以前、俺が会計のデータを間違って消去したことでも話してんのか?」と問いかけると、彼らはゲラゲラ笑った。
ちぇっ、当たってても、全然嬉しくない。

 もう時効だから書くが、以前松永君が日本に休暇帰国した時に私が一時会計の日常業務を任されていたのだが、あろうことか会計データの一部を消去してしまった。
 思わずポンペイの石膏像のように硬直した後でパニクった私は、迷わず日本に急遽電話して松永君に事情を説明した。
「……」
「おい松永君! 聞いてんのか!?」
「聞こえてますよ……、はぁ、やっぱり何か起きると思ったんすよねぇ……」
「期待を裏切らないのが俺の主義だ! 文句あっか!?」(←何でエバってるんだ?)
「いや、もういいっす。後の処理は俺がそっちに帰ってからしますから……。大さん、お願いですから、これ以上、会計データに触れないで下さいね」
 その後、日本で海鮮ウニ丼、焼き鳥、豚骨ラーメン、カルボナーラ、酒を彼に振舞っては紳士協定を結び、今ではお互いに「なかったこと」として忌まわしき過去に触れないようにしている。

 そこで事務局長のジア医師が「何を愉しそうに喋ってるんだぁ?」とニコニコしながら部屋に入って来られた。
 ハニフラさんが言わずもがな、データ消去の話をジア医師へ丁寧に説明する。
 涙を流しながらジア医師は笑い転げ、その笑い声を聞きつけた他の事務スタッフも「何だ何だ?」と会計部屋に来て、伝言ゲームの連鎖で「ぴゃはは!」と笑う。
 こうなったら仕事にならない。皆で私の失敗を論い、腹を抱えて笑う。
 そうなったらお互いの失敗や欠点を罵詈雑言を総動員して「ペナルティーとしてビスケット買ってこーい!!」の大合唱である。
しかし髭面男どもが子供のようにビスケットと連呼するのも可笑しな話だ。

「1ルピーも、1アフガニーも無駄にしない」
こんな話を書くといつも吾々が遊んでいると思われるので、ちゃんと真面目な話も書こう。
 現在、日本各地で開催している写真展へ私も出向して、来場者の方々に現地の説明をするが、私も会計の仕事を始めて改めて実感したことがある。
「私は僅かな募金をすることしか出来ないけれど、どうか現地の事業に役立たせて下さい」と高齢の女性から募金箱にお金を頂くと、この貴重な募金を必ず現地事業に使わねばという義務を痛感する。

 ある日の朝礼で、ジア医師は「日本で募金して下さる方々の為にも、吾々PMSは1ルピーも1アフガニーも無駄にしないよう、厳しくチェックしてゆくので、皆も気持ちを引き締めるように」と訓示された。頂いた募金を最大限に有効に使い、現地スタッフと共にこの事業を支えることが出来るように精進したい。
 会員の皆さんの変わらぬご支援とご協力に感謝致します。
現地事務局の会計部屋にて、左から、カイスー、杉山ワーカ、村井ワーカ。
この部屋でのこのワーカの2ショットはかなり稀…