今何をすべきか
ペシャワール会事務局ボランティア 松井淳一
2003年07月21日
最近の日本のマスコミでは、イラク、北朝鮮、パレスチナ問題が盛んに取り上げられているが、アフガニスタンのことにはあまり触れなくなったようだ。しかし、ペシャワール会を支えてくださっている会員の方々は、アフガニスタンのことを忘れてはいない。

あれは、忘れもしない2001年9月11日のことだった。私はその日、たまたまテレビの前に座っていた。テレビの画面にはニューヨークの世界貿易センタービルが映っている。そこへ、アメリカン航空とユナイテッド航空の旅客機が激突した。

いったい何が起きたのだろうか?テレビに字幕が付いていなかったので、耳が聴こえない私には、すぐには様子がわからなかった。そこでインターネットにつないで情報をキャッチした。

要約筆記者が入力した文章がスクリーンに映される
まだ、テレビで字幕の付いている番組はそう多くはない。あらかじめ収録されているドラマや映画などには字幕をつけやすいが、生放送に字幕をつけるのは困難である。ごく最近になって、生放送にもリアルタイム字幕をつけることが試みられるようになった。

このリアルタイム字幕というのは、言葉をその場で要約筆記者が文字に置き換えて字幕にするというものである。なかには、コンピューターの音声認識エンジンを使って文字に変換し、コンピューターが間違って変換した単語を要約筆記者が訂正するものもあると聞いている。 今年の総会も、去年と同じく小郡の要約筆記サークル「たなばた」にパソコン要約筆記を依頼した。要約筆記というものは、手書きであれ、パソコンであれ、話し言葉をそのまま文字にすればいいというものではない。

現地報告会の様子。右手が要約筆記用スクリーン
第一に、人が喋るスピードを全て文字に置き換えるのは、とても困難な作業である。たとえそれが出来たとしても、今度は読む方がついていけない。そこで、可能な限り言葉のニュアンスを変えずに文字数を減らす必要がある。それには要約筆記者のセンスが要求される。

あれから1年、さすがに要約筆記者たちも腕を上げてきたようだ。この要約筆記者たちによって、文字に置き換えられた中村先生のメッセージがスクリーンを通してひしひしと伝わってきた。

現地活動を報告する坂尾ワーカ
世界には、埋められたまま放置されている地雷が無数にあるという。いつも、想像するのは地雷を誤って踏んでしまって足を失った人たちの姿だ。と同時に、一緒に吹き飛ばされる瀕死の動物たちもいるかもしれない。このことを思うと、とても切ない気持ちになってくる。

この世は、人間だけのものではない。全ての動物や植物がつながっていて、そして一つの宇宙が形成されているのだと思う。それなのに、人間はあまりにも身勝手ではないだろうか?

どうにかならないものだろうか。この人間の愚かさは…。

アフガニスタンでは、タリバンを追放し平和が訪れたかというと、決してそうではないと聞いている。支配者や権力者たちのエゴイズムによって、真っ先に犠牲になるのは、いつも最も弱い立場にある人たちにちがいない。ソ連の侵略から続く戦争と内戦によって、どれだけ多くの国民が苦しんだことだろう?

そこへ、とどめを刺すように襲ってきた未曾有の大干魃。さらに悪いことに、「テロ撲滅」という名のアメリカの空爆。行き場のなくなった人たちが大地をさまよう姿が容易に想像される。

戦争や内戦は人災である。一方、干魃は天災であるから仕方がないのかもしれない。しかし、戦争や内戦を繰り返す暇があるならば、その費用と労力でダムを造るなり、干魃への対策をしてこなかったのは、これもまた人災といえないだろうか?

今、アフガニスタンでは、水を確保するために灌漑用水路を作っているという。9割が農民か遊牧民というアフガニスタンでは、水は最も大切な資源に違いない。それは、とてもよく練られた計画で、遠い未来までを見据えたものなのであろう。

「何が正しくて、何が間違っているか?」を問うのではなく「今、何をすべきか?」を考えるべきである。中村先生はそう強調されていた。

自分より高いところにいる人を見て羨むのはマイナス思考であると思う。むしろ、自分より低いところにいる人を思いやる気持ちが、自分を豊かにするのではないのだろうか?
2003年07月21日