かわらないもの
−ペシャワールより−
PMSワーカー M.S.
2003年11月29日
病院給食。月曜日は野菜。この日はジャガイモで、卵は寒い間の季節限定。卵の下にあるのがナン
いつものように中庭に整列して、朝礼が始まった。一番左端に女性8名が並び、続いて医師、看護部門、検査、ドライバー集団、そして右端に事務部門が数列続く。女性の一番後ろに並んでいる私にはメディカル部門のスタッフの後姿がよく見える。ここで働くようになって未だ2年半ほどだが、メディカルスタッフの入れ替わりは激しく、私より古いメディカルスタッフはいつの間にか半分以下になってしまった。

季節の花を欠くことのない中庭も今は薔薇とハイビスカスが少し咲いているぐらいである。中庭は少し寂しいが、後方に広がる芝生の奥には菊がずらりと並び、ポインセチアの赤い色も鮮やかになってきた。宿直時が寒いとのことでガスストーブの用意をした11月29日、雨が降り、イムラン検査技師による「雨が降ったから、今日から冬が始まる」との分かりやすい冬入り宣言がなされる。
翌朝、ペシャワールの街は数年振りという霧に包まれた。いよいよ冬本番である。

火曜と木曜は牛肉とじゃがいも。右の皿はパラオ(炊き込みご飯)とナン(全粒粉パン)
水曜日はルビア(豆)
金曜日は野菜。この日はカリフラワー
土曜日:マーシュ・キ・ダール(豆)
人は代わり、季節も移ろったが、変わらないものもある。病院給食である。私は昼食だけ病院給食をいただいている。主食はパラオ(炊き込みご飯)とナン(全粒粉パン)、それに副食が一品。ナンは飽きのこない味で気に入っている。一時はジャムや蜂蜜を塗ったりもしたが、今は何もつけず素朴なおいしさを味わっている。

副食は、月曜と金曜が野菜、火曜と木曜が牛肉とジャガイモ、水曜がルビア(豆)、土曜がマーシュ・キ・ダール(豆)である。月曜と金曜の野菜は季節により変わるが、変わるといっても、ジャガイモ、カリフラワー、オクラ、かぼちゃ等数種類である。そして、このパターンを毎週、たぶん毎年繰り返しているようだ。材料は曜日によって変わるが基本色、基本味にそう変化はない。

その中では、強いていえば私は水曜日のルビアが一番いい。この豆で日本の煮豆を作ると全く同じようにできる。苦手は土曜日のマーシュ・キ・ダールで、土曜は弁当日にしている。基本的な色、味に大きな違いはないのになぜ苦手かと考えると、一度まずいと思いつつ食べ、翌日体調を壊した。多分体調が良くなかったのでまずいと思ったのだろうが、悪いイメージを持ってしまったこと、汁と実が分離できないことが私の苦手な理由だと自己分析している。何度か挑戦してみたが、2年後の今も視覚段階で挫折している。

どの曜日の副食にもその汁には怖いぐらいたっぷりと油分が浮いている。本当は、この油分に美味さが濃縮しているのかもしれないが、油、コレステロール、高脂血症、成人病と悪い方に連想は続く。皿を傾け、油を避けつつ実だけをすくって食べている。しかし、土曜日の小さな豆には汁がない、実そのものが半ば汁化している。

時折キッチンから美味しそうな匂いが漂っているのに出くわすことがある。そんな日はちょっと期待を持ってしまうが、昼食に出てくるものはいつもの病院給食である。
素材の持ち味を生かすというのが日本的なら、こちらはどんな素材でも最終的には同じものにしてしまうという技があるようだ。

こちらというのは、あくまでも病院給食という意味である。キッチンのスタッフも別の機会には「やるじゃない」といいたくなる腕を何度か発揮している。そして美味しいチキンカレーなどを食べさせてもらった時は、私もコレステロールなど忘れ、汁までナンで拭き取るようにして食べている。