最後に「ババ」をつかむ者
PMSワーカー M.S.
桜に似た「アルチャ」
3月・4月は一番美しい季節です。

この時期の病院はまるで植物園のなかに造られたかのようです。病院の庭は春・初夏の花でいっぱい、ざっと数えただけで30〜40種類ぐらいの花が咲いています。日本の桜に似たフバニー(杏)、アルチャ、矢車草、パンジー、香り高いスイトピー、ナーランジ(柑橘類)、その他名前を知らない花が咲き誇っています。

フバニー、アルチャ(プラムの1種)などは、ある時期一気に芽を出し、一気に花を咲かせ、散ってしまうので、ちょっと目を離すと悔しい思いをします。このような季節を告げる花は単調な生活にメリハリを与えてくれる有難い存在です。また年がら年中咲いているような気がするバラやハイビスカス、ブーゲンビリア等は、これはこれでまた有難い存在です。

PMS病院の中庭
花は姿・形・色の美しいところが好まれるだけでなく、こちらの人は香りも重視しているようです。パキスタンの国花がジャスミンというのも、香りの高いところが愛されたのでしょう。こちらでは、香りは花だけでなく、食べ物、飲み物でも大切な要素の一つのようです。シンチャエ(緑茶)に入れると、いかにもパキスタンという香りのするカルダモンも愛飲されています。バザールで木(の皮?)を削ったようなものが売られていました。煮出すとレモンティーのようになるそうです。齧ってみるとなるほどレモンの味が染み出てきました。

病院では午前と午後にティータイムがあります。午前は甘いミルクティー、午後はシンチャエをキッチンが用意してくれます。検査室では午前のティータイムには、持ち回りで10Rs(ルピー)出してビスケットを食べるというのが、私にとってはささやかな、現地のスタッフにとっては、多分大きな楽しみとなっています。

人にも蜂にも愛されているスイートピー
私のビスケット当番の日、差し出した10Rs札は使えないとスタッフに言われました。こちらのお札の表は全て建国の父カエデ・アザムですが、その顔の部分に字が書かれているからダメなのだそうです。

以前にも一度同じ理由でスーパーマーケットで100Rs札の受け取りを拒否されたことがありました。その時は手持ちのお金を全て合わせても結局100Rsに足らず、お札の裏にサインをし、もし銀行が受け取ってくれなければ後で交換する、ということで不承不承受け取ってもらいました。

中央の星型花壇は、日中太陽の光を浴びて開花し日没と共に閉花する「ム・サムリー」が満開です
カエデ・アザム(偉大な指導者の意味)の顔にいたずら書きがあるのは失礼だということが拒否の理由だそうです。ボロボロで薄汚れたお札も結構失礼ではないかと思うのですが、顔へのいたずら書きは許されないようです。そうしたお札は流通が止まってしまうので新品同様のきれいなお札が多いようです。お札の受取時は、特にそれがきれいなお札ならチェックをしなければいけません。しかし、そういう習慣もなく、面倒くさがりの私はノーチェックで受け取っています。

その顔に文字の書かれた10ルピー札、駄目で元々。一応使ってみて、駄目ならこれをと別の10ルピー札を渡しましたが、やはり駄目で手元に戻ってきました。

次のビスケット当番の日、再度別のスタッフにチャレンジしてもらいました。少ししたたかなこのスタッフは上に大丈夫な札を重ねて、ちゃっかり20ルピー分のビスケットを買ってきました。

今頃、店の人は気がついて怒っているのでは、と私は心配したのですが、そのスタッフは大丈夫と言います。考えてみれば、私もどこかで掴まされたわけだから、掴まされる方が注意が足りないということなのでしょう。そして、そういうぼんやりした者が最後にババ(現地語でお父さんの意味)を掴むことになるのでしょう。相変わらずノーチェックの私。いつか、あの素顔の美しいカエデ・アザム様に再会できるかも。