銀行こわい
PMS会計担当 中山博喜
2005年2月7日(月)
月末になると給料の準備でなにかと忙しく動き回ることになる。

提出された出勤簿を基に給料を計算し、その後に領収書を作成して、いよいよ支払準備完了ドンと来い、といった手順を踏んでいくわけだが、ここにきて我々は人間文明が生み出した英知の結集ありがとう先人たちよ的ヒッサツの手段に打って出るのだ。

その名を「銀行振り込み」という。

早い話が、銀行振り込みによる給料の支払いを行ってしまうわけである。

日本では給料の銀行振り込みなんてのは当たり前になってしまったが、そもそもこちらは銀行の機能のなんたるかなど知らない人が多い。その銀行から自分の給料を引き出すということは、これはまさに摩訶不思議の世界へ!いざっ!決死の突入!といった様相を呈するわけである。

銀行というのはなにもマイナーな存在というわけではない。パキスタン側に限っていうと、公民合わせて相当数の銀行が顧客獲得にしのぎを削っているし、本院のように職員の給料を銀行振り込みにしているところも少なくない。月末になると公共料金の支払い時期とも重なって、多くの人が銀行の前に長蛇の列をなして我が番を待つ、といった光景が繰りひろげられたりするのだ。

だがしかし、先にも述べたように、だからといってみんながみんな「銀行の仕業とは如何なるものか」ということを理解した上で利用しているわけではない。少なくとも本院職員のかなりは「そこに行けば我が給料はあるのだな。そこで給料を貰えばよいわけであるな」と、ただひたすらもうそれだけを信じてなりふり構わず猛勇盲目的に不思議の世界へ駆け込んでいく人々ばかりである。

彼らにはいわゆる「自分の口座」という概念が無いようで、それ故せっかく自分の口座を持っているにもかかわらず給料が出るたびに全額引き出して、口座はいつも残金ゼロ、といった人が少なくない。

こういう人がたまに罷り間違って全額引き出し損ねたりすると、血相を変えながら会計室に飛び込んでくるわけである。

「おいっ!残ったわしのお金は何処に行ってしまうのだ!?なんとかしてくれ!」

これに対して「何処へも行きませんよ」なんて言ったところで彼らは納得しない。

「とにかくもって銀行に行けば残りはもらえるから、行きなさい、さあ、銀行に行きなさい」と言って銀行に強制連行しなければならない。

こういう人々が訳あって退職したりなんかするとこれがまた大騒ぎになるわけで、彼らが必ず訊いてくるのが

「わしが退職したら、銀行に残ったお金はどうなるのだ!?なんとかしくれ!」というたぐいの質問である。

そんなになんとかしてくれと言われてもなんとも出来ないわけで、というかなんとかしなくてもお金は彼らの個人口座に残っているわけであるが、それを説明するのにもうそれはそれは時間が掛かってしまう。

ここ最近、ペシャワール市内の銀行に「ATM (現金自動預け払い機) システム」が導入され始めた。ハッキリ言って最初このシステムに興味を示す職員は皆無だった。

ところがしかし、職員の一人が自分の取得したATMキャッシュ・カードを見せびらかすやすぐさま「おお、カッチョイー」と、それをどう使うかは全くもって知らんが、とにかくやたらと欲しいぞ欲しいぞ状態のお祭り騒ぎになってしまった。

見せびらかした本人もご満悦で、それをどう使って給料を受け取るかは全くもって知らんが、とにかく次の給料はコレで貰うのだ!と目をキラキラ輝かせながら鼻息を荒くしている。

しかし私は知っている。

彼は今月、自分の給料のほとんどを前借してしまっている。フハハハハー、もはや君の口座に振り込まれるお金はないのだよ。