中村医師からの連絡(2009年6月6日受取)


総会に集まられたみなさん、事務局の方々、全ての会員の方へ


 本日、やむを得ざる事情にて恒例の総会と理事会に出席できないことをお詫びいたします。

 6年を過ぎた用水路建設は、今年5月末に主要工事を終え、全長24kmを開通する予定でありました。しかし、4月から5月にかけて予期せぬ集中豪雨に度々襲われ、その上行政や軍閥・米軍PRTとの折衝が難航、工期が一カ月延長を余儀なくされました。
 それでも、ガンベリ横断ルートは3.8kmのうち、約3kmを完成、PMS試験農場に達しました。岩盤周りの難工事1km区間は2週間で全工事を完了、ガンベリ沙漠に第一弾の灌漑が開始されます。

 アフガン情勢は、隣国パキスタン・北西辺境州と同様、政情は厳しさを増しております。「今中断すると、完成の機会を数年待たねばならないだろう。財政上の損失だけでなく、続々と帰農した15万人以上の人々に大きな影響が避けられない」との判断です。
 そこで、職員・作業員、計700名は、現在摂氏48度の酷暑と砂嵐をおして、殆んど自発的に必死の作業が続けられています。一作業員から重機の運転手、指導的な職員に至るまで、これほどの活気は今までなかったことです。
 当方もその熱意を汲み、全力で取り組んでいます。しかし、手抜きは許されません。ここは工期が多少延期されても、何百年でも過酷な自然に耐え得るしっかりしたものを完成すべきです。延期といっても、それが2週間後に迫っています。
 もちろん、2週間後に用水路が開通しても、200ヘクタール以上の農地の開墾、分水路の整備、120所帯の開拓民の居住地の建設など、絶えることなく仕事は続きますが、全ては水が流れての話です。
 これはもう、一つの戦でありましょう。皆を突き動かしているのは「平和な生活」です。30年以上の血なまぐさい出来事と外国軍の干渉に、人々は辟易しております。

 先日、マルワリード用水路の沈砂池使用をめぐって、PMSと現地農民は米軍PRT(地方復興チーム)と対立、結局15万人の農民たちの圧倒的な圧力で水路を守った事件がありました。彼らは「復興」という名目の軍事活動に日々接し、その関与を嫌ったのです。決して暴力対決ではありません。生きるため、自らの土地を守り、家族の安全を思う強い動機が、吾が用水路を守り、そして今、過酷な環境下での作業に勤しませています。

 このような事情を斟酌いただき、本日の欠席のお詫びを重ねて申し上げます。どうぞ、今後も変わらず、温かい関心をお持ちいただき、共に活動の成果と喜びを分かち合っていただければ、これに優る喜びはありません。

2009年6月6日
ジャララバードにて 中村哲
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