水路現場写真(2009年8月11日受取)


事務局のみなさん、

 8月3日の用水路開通を終え、みな一斉に次の段階の工事にとりかかりました。
現在進行している主な工事は以下の通りです。

1)Q岩盤周りの貯水池の浸透水処理
これが一番、大ものです。興味のある方もいましょうから、メールの最後の方で多少詳しく説明します。目下の最大懸案となっています。

2)残されたコンクリート工事。水門、橋の下部(基礎と下部で実は90%完了)は速やかに水を通せるよう完成していますが、上部構造は、現在「水上工事」でやっています。沙漠横断路だけで、水門が4、大きな橋が3つがあります。

3)小水路(分水路)の整備;総延長で約7kmは最低必要です。

4)農地の整備;要するに開墾で、水路開通の翌日から始められています。約200ヘクタールを今年の小麦の作付けに間に合うよう、努力が続けられています。

5)植樹;沙漠横断水路、岩盤貯水池、居住地の全域で始まりました。といっても、横断水路3,500m、岩盤周囲合計4,200m、岩盤直下の浸透水による湿地1,200mにていねいに植えて行くので、相当な時間と根気が要ります。また、砂防林として植えた長さ約5㎞の林も、まだまだ世話が必要です。

6)開拓団の居住地の建設;118家族分。基礎を終え、壁を築く段階ですが、4家族にひとつの井戸を置きます。現在ボーリングと手動ポンプ設置を完了したもの20、さらに続けられています。

7)ガンベリ排水路の整備と湿害の処理;現在大かたは片づきましたが、沙漠の灌漑が進むと水量が変化し、最終処理まで年余が必要かと思われます。

8)これまでの工事の小さな維持改修を全長24.3kmにわたって行うこと。これも重要で、これゆえに「自立定着村」の構想となったのです。

9)マドラサの内装・外装;完成まで2カ月を見ています。

 以上が一段落して「人里」と呼べるまでには、これまでのスランプールなどの荒蕪地の緑化を考えると、最低3年、長くて6年の月日が必要だと見ています。年々、自然条件も社会条件も変化いたします。それに耐えて用水路は生き続け、恵みを広げてゆきます。戦乱時も平和時も、干ばつや洪水があっても、世代や政権が変わっても、外国軍が来ても去っても、経済不況でも好況でも、水を基に生きる人の営みは続きます。
 マルワリード用水路に開通はあっても、完成はありません。今後も末永く、見守っていただくことを願い、最後の報告といたします。


ガンベリ沙漠横断水路の始点(8月10日)


横断水路最後の水門(始点から3.1㎞)。ここから急傾斜で枯れ川に落ちる


同水門前面。上部の施工はこれから。(8月8日)


PMS農場を潤す分水路の始点(上記水門に付属)(8月10日)


ガンベリ沙漠横断2.5km地点


上記地点から開始された農地造成。PMS農場。(8月8日)


Q2貯水池。(8月10日)


Q3貯水池。(8月10日)


ガンベリ横断水路に沿う住宅地と防砂林の苗木。(8月10日)


Q2貯水池直下の浸透水処理 下段を透水性の砂利で覆う。(8月10日)


下段地面に追い下げられた浸透水。(8月8日)


ドレーン工の一種 排水を促進して堤防内の滞留=軟化を防ぐ。
飲料水として使用できる。


モスクとマドラサをK貯水池(13km地点)から望む。(8月10日)


モスク正面。ドームの改修が済み、最終段階。(8月10日)


こだわりのミナレットの小ドーム。(8月10日)


床うちが始まるモスク内部。(8月10日)


横断路を過ぎた水は沙漠終末点から枯れ川に下る。(8月9日)


枯れ川に落ちる水を利用して砂防林の灌漑。(8月9日)


Q2貯水池周りの植樹チーム。(8月9日)




浸透水処理について

 ガンベリ横断水路に達するまで、用水路は約2kmの岩盤を迂回します。工事区分から、沙漠に入るまでの区間をP(900m)、入ってから沙漠に沿って横断水路に至るまでをQ(1,100m)としています。ところが、ここは激しい土石流が岩盤伝いに下ります。幅の狭い蛇行水路は、一撃で崩されてしまいます。しかし、ダラエヌール規模ほどではありません。激しくとも短時間で、水量はそう多くないのです。そこで、これを回避するために、土石流の谷を堰って大きな貯水池とし、雨水を取込んでしまいます。その結果、ガンベリを見下ろす岩盤地帯は、さながら数珠のように池の連続となっています。

名称 長さ 最大幅 堤防高さ 水深
1 P貯水池  150m  100m  17m  7m
2 Q2貯水池  400m  260m  15m  7m
3 Q3貯水池  180m  120m  10m  7m
4 Q4貯水池  450m  30m  5m  1.5m

 Q4は「貯水池」というより、長いお堀という方がいいかもしれませんが、以上のように、全体がいわゆる「天井川」となっています。すなわち、水底が自然地面より高く、かつ水路と異なって水深が深いものです。当然、漏水が起きます。
 「漏水」というと、みなさんは良くないことを想像しませんか。しかし、平たい地面に掘られた用水路、自然の河川でも、漏水は常に起きています。ただ、見えないだけなのです。これを浸透水とも呼び、地下水の大きな源となります。ところが高い堤防に囲まれた貯水池は、普段ならば地下水になる浸透水が堤防の壁から浸みだしてくることがあります。あるいは、地盤が砂質であれば、堤防の下をくぐって湧き出してきます(ボイリング)。自然状態で出来て長く残るものを泉、湧水と呼んでいます。人工的な堤防では、これらの水の抜け道が空洞をつくってパイプのように流れ出し(パイピング)、大決壊となります。

 普通日本で見られる河川堤防の決壊は、これに拠ります。川の水かさが増して堤防の上の方からの浸透水が増加、また雨水で堤防の土が柔らかくなって膨張、乾いた土との間に亀裂を作り、上記の現象が決壊をおこして水害となります。
 では、どうして決壊しない堤防を作ったらよいのか。しかも、これまでの貯水池と異なって、沙漠の谷は厚い砂の層でおおわれています。実は今回、これが最大の難問でありました。

 理論的にいうと、水を通しやすい砂の層を取り除き、水を通しにくい赤土で置き換えるのが最善です。しかし、何年もかかる大工事となり、実際的ではありません。河川工事では普通、図のような方法がとられます。

1) 堤防の内側を赤土など、水を通しにくい物質で覆う(ブランケット工)。
2) 堤防本体をできるだけ厚くとり、場合によっては遮水壁を設け、浸潤線を下げる。
3) 堤防の外壁を石垣や植樹で強化し、下段に砂利の層で浸透水の吐き出し口を設ける(ドレーン工)。
4) 堤防の頂点(天端)を厚い砂利などで覆い、雨水による堤防本体の軟化を防ぐ。

 以上の対策でほぼ満足できる結果が得られるようです。
でも、実際の工事は、それほど生やさしいものではありません。気が遠くなるほど膨大な量の赤土、砂利、そして根気と時間を必要とします。更に、既に用水路沿いに農業が営まれておれば、こちらの都合で工期と工法を選べないことが多いものです。また、浸透量の推定は実際にやると難しく、結果を見て経験的に処理せざるを得ないことが殆んどです。

 現在、ガンベリ岩盤の貯水池の浸透損失は約20~30パーセントで、通常範囲内のものですが、水量を調整しながらドレーン工と外壁強化を行い、稲刈りが終わる時期を待っています。秋にブランケット工を再度行い、工事が完了します。


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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