事務局のみなさん、
週間報告ではありませんが、これまでのまとめのようなものを送ります。
柳枝工の話
蛇篭工と組み合わせて行われたのが柳枝工である。
ヤナギは古くから人類と共にあり、生活の隅々まで入り込んでいる。日本ではシダレヤナギが有名で、決まって川端や田の境界線に植えられた。このため、日本ではあの世とこの世の境の象徴として理解される。シダレヤナギの形がなんとなく幽霊の形に似ていて、怪談につきものである。また、ヤナギの枝がしなやかで折れないので、女性の容姿のたおやかさを譬えて「柳腰」と云い、「何をくよくよ、川端やなぎ。恋われる何としょ、ことしょ。水の流れを見て暮らす」という俗謡もある。今昔物語に出てくる「青柳」は、女性の姿をしたヤナギの精である。
花札が一時日本人ワーカーの間で大流行したが、「雨」の札にヤナギが出てくる。小野道風という文筆家が、ヤナギに飛びつくカエルを眺めている。精神的に落ちこんでいた小野道風が、そのひたむきなカエルの姿に感激して立ち直るという物語を描いたものだ。このしなやかな性質を利用して籠や行李(こうり)が作られる。日本の「ヤナギ行李」はよく知られているが、現地でも果物かごや小物入れをヤナギの枝で編んで使う。
水辺に植えるのは万国共通らしく、屋敷の中には絶対に植えない。
一方、キリスト教世界では、切っても切っても枝を出す旺盛な生命力が、「復活の象徴」として理解された。日本でも不老長寿のまじないに使われたそうだ。
さて、アフガニスタンで吾々が使用したヤナギは、シダレヤナギではなく、枝がまっすぐ伸びる種だ。世界に300種以上あり、その上変種や亜種も多いというから、同定は難しい。ヤナギ科は大きくヤナギ属とポプラ属に分けられ、主に花の形状で分類されるらしい。「ヤナギに花が咲くのか」と疑問を持たれる方は、野生のネコヤナギを想像してほしい。東部アフガンでは、3月中旬が花盛りで、少し注意すれば見つけることができる。雌雄は枝ごとに異なる。雄しべ・雌しべが分かれて咲くと考えるとよい。花粉をつける方が雄花だ。






枝葉をつけた状態で、ヤナギの全体積の49%が土中にあると言われている。それも、細かい毛根のようなものが主で、川底までびっしりと、まるで絨毯のように進入する。絶対に「水腐れ」しない水辺の木だ。湿地帯処理のとき、クワなどの木々は腐り、ヤナギだけが残っていたのが印象的だった。
福岡県の柳川市も、おそらく初めは低湿地帯で、ヤナギだけが活着しやすかったのではないだろうか。呼吸できるてっぺんの枝葉が頭を出していれば、水につかったまま成長する。まるで半分水草のようだ。
★Dr.T.Nakamura★ 中村 哲
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こんなに派手に花を咲かせるのは珍しい。 (2010年3月16日、カマ第一取水口にて)