受信日:2010年03月30日



事務局のみなさん、

週間報告です。
3月最後の報告です。2003年3月19日の着工から7年を過ぎ、以前の工事場所の最終点検を行っています。何だか長~い、長~い夢を見ていたような気がしています。だが、油断は禁物。気が緩んだ時に事故が起きるので、最後の気力をふりしぼり、監督に当たります。

 ガンベリ沙漠200ヘクタールの開墾は、成果を焦らずに基礎を確実に固め、年月をかけるべきです。「開墾の基礎」とは、排水路・分水路・農道らの整備や植樹だけでなく、開拓農民の士気を維持し、周辺住民や行政との友好・協力関係を築くことです。これまでの耕作地3,000ヘクタールの回復は、「廃村の復活」と呼ぶ方がふさわしく、回復が早かった理由は、既にあった村の共同体がそっくり戻ってきたからです。
 広大な新開地はこれまでのようにうまくいきません。各方面の協力が不可欠になります。
 本格的な試験農場(自立定着村)は、今準備が始まったばかりだと考えていいと思います。
 そして何よりも、初志に帰り、この事業を通して乾燥化の進むアフガニスタンの危機的な実情と対策を広く訴えることです。アフガニスタンは戦では滅びません。農地の沙漠化で滅びます。成し遂げた灌漑・用水路事業は決して小さなものではありませんが、恩恵を受けたのは広大な国土の一部に過ぎません。ここは、人間の業績を誇らず、この国を癒す一つの解決策として、実を以って、水の恵みの偉大さを訴え続けねばならないと思います。

 建設の任を負わされた小生の役割は終わりました。「老兵は死なず、ただ消えゆくのみ」です。重機の唸り、激流の川の音、威勢のよい作業員たちの掛け声が、耳の奥から消えることはないでしょう。米軍ヘリコプターの機銃掃射の音さえ、懐かしく思い返されます。燃え尽き症候群などという新語は要りません。一仕事終えて、ただ静かに休みたいと思うのが普通の人情でしょう。

 最後に述べたいのは、日本と現地、双方が尽くした多大の労苦も、天意に叶ってこそ力となり、成就するということです。人の作ったモノも思想も、やがては滅びます。しかし、天の恵みが廃れることはありません。私心を去り、人為の垣根を超えて協力することにこそ、恵みを顕わす大きなカギがあるような気がします。このことを肝に銘じ、自然と人間の関係を問い直し、引き続きみなさんの御協力をお願いします。それがきっと、自分たちと日本のためでもあるのでしょう。

みなさん、お元気で。



排水路の整備。第一試験農場は約180ヘクタールで、長辺1.3㎞の長方形を
なしている。傾斜は7.8mの高低差があり、急流が下る。頑丈な排水路にせねば
ならない。床面はコンクリートに近い強さのものを敷き、瘤落としを100m毎に設け、流速を減殺する。時間はかかるが、これがないと湿害が起きる。3月29日



ガンベリ沙漠・岩盤周りのQ2貯水池堤防、外法面の植樹。浸透水処理は
物量と根気で切り抜けたが、植樹の数も半端ではない。水辺はヤナギ、
中段はクワ、最下段はガズとユーカリを植えている。ユーカリはアフリカで湿地帯の水を吸い上げる目的で使われることがあるそうだ。
両方植えて結果を比べることにしている。3月29日



ガンベリ沙漠横断水路・分水路の追加工事。砂防林は余りに長く、水遣りが大変だ。水路よりやや低い場所は、わずかな傾斜を利用して分水路を引く。3月29日



第一期工事で最難関だった「G岩盤」盛土工事(取水口から4.8㎞地点)。岩盤周りの築堤はここが初めてだったが、Q2に比べると何だか小さく見える。竣工は2005年4月だった。ここも一年半をかけて出来あがった。植樹はヤナギとクワ、オリーブ
など。地盤が軟弱で湿地帯処理はずいぶん苦労した。ヤナギ・クワ共に4~6mに
成長、この3年間決壊はない。緩速載荷という方法。
5年がかりで軟弱土層を圧し潰し、ほぼ安定したと見ている。3月28日



ドレーン工もここが最初であったが、効果は著しく、2007年3月の施工以後、漏水はなくなった。目の粗い砂と砂利を厚さ2.5m、幅12m敷き、腹つけ盛土とした。
湿地帯側(写真右側部)はヤナギを大量に植えている。2010年3月28日撮影。



G岩盤地帯の場合、浸透水は河の上流側から大部分が砂層をくぐって来ていた。おまけに、河床の変動で水路直下に激流が当たるという危うい状態だった。流れを旧河道に押し返したのが百数十mの石出し水制(3基を300m間隔で設置)。先端を上流側に鉤型に曲げ、土砂の堆積を図る「かぎ型水制」。水路の根方を洗っていた新河道は消え、土砂の堆積が水制間に起き、湿地は乾燥している。河道は
この3年間でほぼ固定しており、もはや大過はないと思われる。3月28日撮影。



いつも引き合いに出されるスランプール盆地。もう誰もここが沙漠だったと思わない。G岩盤周りの苦労は、この光景で報われる。 道路沿い3.5㎞の分水路の
ヤナギ並木は5m前後に成長し、歩行者に木陰を提供する。2010年3月28日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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