受信日:2010年11月7日


 11月4日、無事にジャララバードに着きました。しかし、到着時間が少し遅れ、その日は現場を見れませんでした。2週間不在のうちに、工事の進行は早く、カマII取水口水門工事は既に基礎工事を終え、コンクリート工事に入っています。鈴木くんの現場指導、村井くん・杉山くんの会計および報告事務の仕事がなければ離れられなかったでしょう。

 さて、今秋・今冬は大洪水の後始末も加わり、PMSとしては、おそらく最大規模の仕事となります。場所だけで述べると、昨年・一昨年のガンベリ沙漠岩盤周りの貯水池と堤防工事が過去最大の物量を投入し、主幹排水路の整備と相まって、おかげで沙漠横断水路、次いでガンベリ沙漠開拓が可能になり、こちらの方は時間をかけて徐々に完成に近づけます。今秋の試験農場の小麦播種は150ジェリブ(30ヘクタール)、間もなく始まります。しかし、今回ばかりは、各場所の仕事量だけでなく、作業地が分散。相当なエネルギーが要ります。
来春まで仕上げなければならぬ工事は以下の通り。

1.マルワリード用水路取水堰の改修
2.ダラエヌール渓谷の自然土石流路復旧
3.マルワリード用水路の小さな修復(約16カ所、鉄砲水による)
4.シェイワ取水口の自然河道回復
5.カマI取水口・主幹水路350mの復旧とかさ上げ
6.カマII取水口、主幹水路1㎞、取水堰の完成
7.カマ対岸ベスード側の護岸工事(低水位根固め護岸)
8.マドラサ寮の完成
9.ガンベリ沙漠試験農場の排水・分水路の延長
10.シェイワ郡シギ村の湿害処理(主幹排水路の完成)
11.ベスード郡カブール川側(ベスードI)の取水口の仮工事

 以上を同時進行で行っています。しかし、最優先すべきは河川工事です。昨年は2月下旬に増水期が始まって工事が中断、1年待ちました。

 今冬の最大目標は何をさておき、カマ取水堰と取水門、対岸工事です。カマII 主幹水路の完成、対岸約2㎞の低水位期護岸は何としても目途をつけないと、カマ郡7,000ヘクタール、対岸ベスードの数百ヘクタールは絶対に守れないとの判断です。河川工事は「やらねば、やられる」と言えるもので、現在総力を上げて進行中です。

 一般に河川工事の厳しさは、限られた工期に大量の物量を投入するだけでなく、技術的に不確定要素が余りに多いこと、住民の強力な支持が求められることです。すなわち、臨機応変に工種や設計、建設順位を変えたり、良好な地域住民との関係を保つことです。更にここでは戦乱が加わり、安全上の配慮が求められます。幸い過去2年間の仮工事と測量で下地はできており、混乱を忌避するカマ長老会は「PMS(日本人)以外の外国人立ち入り拒否」を決定、ICRC(国際赤十字)も組織としての活動はやんわりと拒絶されています。

 カマ長老会は、ソルフロッド長老会と並んで発言力があり、政府・反政府勢力共に、腫れ物に触るように接しています。カマの場合、同じパシュトゥ民族、モハマンド部族で固まり、地縁・血縁が一体となっているので結束が強力なのです。しかも、ひと冬分の小麦収穫を放棄して協力すると言うのですから、並々ならぬ決定だと思います。

 さすがに大洪水は予想できず、一時は愕然としました。 現在進行中の公的筋との協力については日本で議論のあるところでしょうが、前線においてはずいぶん事情が違います。誰がやろうと、「日本がやった」としか理解されません。また、絵になる美談は通用しません。目前の農民の窮状の前には、内地で認識されるような議論や意見の相違は吹き飛んでしまいます。

 前線部隊と内地との運命的な相違でしょうが、実は同じジャララバードPMS内部でさえ、現場組と事務所組との温度差はあります。 週間報告を再開し、公式の報告書では読めない現場からの声を届けます。どうぞお楽しみに。



基礎工事と床面打ちが終わったカマ第二取水門。(11月4日 鈴木撮影)


 これまでの経験から、取水門の間口を広げ、河の堰上げをできるだけ低くする。低水位期の渇水、高水位期(夏)の洪水の両方に対処するのは、この方法しかない。その上、カマ全域の耕地は約7,000ヘクタール、マルワリード用水路のあるシェイワ郡の約2倍ある。このため、PMSの建設した取水口としては最大の水門となる。間口が狭いと無理な堰上げになり、洪水被害を受けやすい。

 自然は人を待たない。工事は8月から交通路敷設、9月からの基礎工事を進めてきた。 これがカマ郡30万農民の生活を支えると思えば、感慨ひとしお。床面は厚さ約60cm鉄筋コンクリート。その下には約1メートル以上の基礎コンクリート層が施してあり、巨石層に連続して文字通り盤石。



大洪水時の同水門付近と対岸村落の水没。現在、PRT(地方復興チーム)の
旧水門を撤去、流水圧をまともに受けぬよう設計。7月27日の洪水で異常な
堰上がりは明らかで決壊寸前となった。洪水時、旧水門より下流側は
越流被害を受けていない。(7月29日撮影)



10月30日の同地点。対岸護岸工事のための交通路敷設は、ほぼ2㎞に迫っている。「PMSが護岸工事開始」との噂で、避難していた村人が帰りはじめている。
住民の期待が大きい分だけ、精神的には圧力。11月中旬、最低水位を待って、
低水位護岸工事(根固め工)を一気に進めなければならない。



残った対岸中洲の根固め工。堰による洗掘防止に蛇篭工の有用性は既に
実証されていたが、2010年3月初旬、急速な増水で仮工事が危ぶまれた。
そこで採用したのは、「木工沈床」にヒントを得た工法。蛇篭を井形に組み、
中に砂嚢、砂利を詰め込んだもの。河床材料の礫石粒径が小さく、
砂が多い場合、蛇篭の単純連結に比べ、自然河岸とのなじみは格段に良い。
工期短縮のため、今回はこの工法を大幅に採用する。(10月30日)


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


← 前の報告へ ○報告トップへ○ 次の報告へ →

Topページへ 連絡先 入会案内