受信日:2010年11月9日


緊急報告

ベスード郡無惨!

事務局のみなさん

 冬が近づいて河の水が下がり、渇水対策と共にカマ取水堰と取水門の工事が本格的になってきました。昨年の仮工事は早い雪解け=増水で2月下旬に工事が不可能となり、苦杯をなめました。そして7月・8月の大洪水の急襲、集中豪雨の多発と続き、その後始末に追いまくられてきました。そこで今年は、復旧工事、ガンベリ沙漠開拓、シェイワ郡排水路の整備と同時並行で、カマ取水口の早期完工を期して総動員態勢をとりました。

 しかし、3m以上下がった水位で河川敷を調査し、次第に驚くべきことが分かってきました。大洪水でカマ対岸・ベスード側に新たな傍流が発生しており、今夏は確実に広大な農地が氾濫原となる可能性が高いと判断されます。おそらく数百ヘクタールが流失し、ベスード郡に致命的な打撃を与えるでしょう。

 この原因は、大洪水だけでなく、カマ側の護岸工事にあります。西側某国(日本ではない)の財政支援による請負工事が余りに粗雑。単に巨石を河原に積むだけで、せっかくの遊水地を囲って川幅を狭め、その影響が対岸に及んだのです。そのため、ベスード郡のど真ん中にクナール河の主流が移りつつあります。

 詳しくは調査を進めて報告しますが、住民の動きも不穏、事態はかなり急迫しています。「無政府状態」を改めて知りました。現在、対岸側同士の話し合いが住民の間で進んでおり、とりあえず問題になった工事を住民の圧力で停止させています。PMSとしては州の灌漑局と協力、調整を図る積りですが、確実なのは、今冬にベスード側を処置せねば、取り返しのつかぬ事態になること、協議だけが多く実際にやる者が居ないことです。1ヶ月前から交通路を敷設し、低水位護岸を2月までに完了する予定でしたが、さすがに恐怖で髪の毛が逆立つ思いでした。現在、カマ取水口建設を急がせると共に、全力を護岸工事(傍流の閉塞と両岸の遊水地造成)に投入するよう、緊急指示を出しました。

 来週からダンプカー35台を動員、巨石搬送を強行して緊急工事といたします。今なら何とかできるからです。そこで、11月27日の一時帰国の件ですが、場合によっては現場を離れられないでしょう。この局面で一週間の不在は致命的なことがあります。

 何が怖いといっても、地震と並んで、大河川の氾濫以上のものはありません。事情をお汲みいただき、ご協力願えれば幸いです。追って連絡をお待ち下さい。


進む取水門建設。幅1,5mの水門が4個。2列で計8個。高さ4,2m。
PMSが建設したものの中で、最大規模。
カマ郡7,000ヘクタールの約8割がまかなわれる。(11月8日)



取水口から800m地点の調節門の基礎工事。これも短期集中で
一挙に終わらせ、早期に護岸工事の戦力を増やす。(11月8日)



この1枚の写真が全てを語る。手前が取水口工事現場、遠方がスピンガル山脈。
クナール河主流が高く、ベスード側へ流入しているのが分かる。
夏の修羅場は明らかだが、為政者は無関心。(11月8日)



対岸(ベスード)の護岸工事。これも時間との競争。
2月中旬が自然の与えるタイムリミット。(11月8日)



ベスード側に発生した分流。主流よりも低い位置にあり、
今夏にベスード郡の耕地に氾濫するのは確実。(11月8日)


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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