受信日:2010年12月8日


事務局のみなさん、

お疲れさまです。
無事に戻りました。
今年は河川工事の大仕事になりました。

 現場にやっと到着して3日が過ぎました。それでも長い、長い時間が過ぎたように感ぜられます。今冬は大洪水の後始末が加わり、三正面、四正面の仕事を覚悟していましたが、不安適中です。最大の工事であるカマ第一・第二取水堰の完成、対岸ベスード側4㎞の護岸工事は、鈴木学くんの奮闘で、やっと目鼻がつきかけたところです。また、大工事に備えて村井・杉山の事務方がJICAとの契約変更の仕事を終え、財政的にもホッとしかけていました。

 最大の悩みは、マルワリード取水堰の改修です。厳冬期に入って最低水位の時期に、数日で一気に片付けるつもりでしたが、昨日から準備を始めようとして現場にゆき、愕然としました。長さ800m以上あった対岸中洲が消えただけでなく、そこが主流になってしまい、V字型の深い切れ込みになっています。1ヶ月前までは河床が見えなかったのです。周辺の河床も大きく変わり、分流が埋め潰されています。

 全体が半楕円形に見え、浅い流れだと思っていて、「とりあえず100m程の堰延長で済む」とタカをくくっていました。だが掘削機で探ると滝のように落ちるじょうごの形で、半円の長さは300m以上は優にあります。幸い取水量は作業員が冷たい水の中を胸までつかり、材木を組み立てて堰上げ、必要量を確保、3,000ヘクタールの農地を守っていました。しかし、ひと雨ふると一発で流れ去ってしまいます。 

 さらに、交通路の確保ができません。対岸住民を恐れて、重機の運転手や警察も嫌がります。やっとの説得でダンプカー2台、ローダー1台、掘削機1台を調達しましたが、石材輸送が不可能です。そこで巨石の代用に蛇篭2,000~3,000個を人海戦術で組み、深い谷状の場所を埋め潰しながら、広く浅い傍流を300m以上掘り、取水堰を復活させる工事を開始しました。対岸のカシコート村は、作業員もたくさん居て、実際には安全です。また、10数年前、マラリア・コントロール計画で巡回診療した場所で、みなPMSを覚えています。問題はカマ、ベスード、ガンベリ沙漠と分散した作業地を把握できるかです。大事な作業のやり方は、小生が居ないと分からないからです。

 だが、「やらないと、やられる」。3月前に全て片づけねばなりません。15万人の死活問題です。農業復興、ガンベリ沙漠開拓、緑の回復といっても、水あっての話です。河川工事は心臓に悪いと思いました。増水が始まる前に膨大な仕事量がこなせるのか、やや心配ですが、他に方法がなければ実行する以外にありません。「断固実施」を指示し、短期間に超人海戦術で、強行することにしました。さすがに今回ばかりは、冷や水を浴びせられることの連続ですが、これも皆の協力があってこそ出来ること、心から感謝いたします。


河原の巨礫。粒径が30~40㎝のたくあん石なみ。
それだけ流れが激しいということで、普通は河床表面の石よりも大きな巨礫を
捨石工に使うと間違いがない。ブディアライからの巨礫輸送が最大の山場で、
12月下旬に開始予定。2010年12月6日



マルワリード取水堰、無惨の一語。堰対岸中洲が流失、主流を成している。
放置すれば今夏は確実に斜め堰先端が崩壊、シェイワ郡の大半が再び沙漠に戻る。
材木を使って作業員が冷たい水の中で努力し、かろうじて取水を保っているが、
雨で増水すれば流される。2010年12月6日



同崩壊部を上流から見る。
近くで調べると、見た目よりも遥かに大きく深い谷を作り、激流となっている。
クナール河全水量の推定80%以上が流れ、傍流は礫石で埋め潰された。
7年間の努力は何だったのか。今冬の最大懸案となった。2010年12月5日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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