受信日:2010年12月10日


事務局のみなさん、

少しハードになりましたが、取水口の被害と工事開始の様子を送ります。
しばらく通信がないかもしれませんが、ご勘弁願います。


マルワリード用水・取水口の破損と対策

 2010年夏の大洪水は、取水堰の機能を失わせた。主な理由は堰対岸中洲の流失による河道の変化である。不動と思われた中洲の河床材料が弱く、表面に砂が多かった。このため、約100m以上の新河道が堰のための護岸背面に発生、主流が左岸に寄った上、深い谷状の流路となり、取水門に用水が乗らなくなっている。

 取水堰そのものの破損は軽微であるが、対岸中州だけでなく、クナール河全面の堰上げなしに、今後マルワリード用水路が使えることはあり得ない。以下、調査と結論である。

1.護岸背面に発生した河道は、入口部で幅約180~200m、漏斗状に深い切れ込みのV字型の流れを成す。長さ約450m、流れの中央の幅は約120mで事実上主流となっている。流れの深さは、残った砂州表面から上流部約0.5~1.0m、下流部で4~5m、入口部と底部の表面礫石の粒径は25~60㎝だが、下流側では砂質を多く含む。

2.元主流であった堰の流れは保たれているが、水門部で20㎝前後と著しく低下しており、冬の取水は困難となった。河床そのものは以前よりも深くなっているが、斜め堰の下流側は、大洪水時の激しい流れのため、砂利が流されて巨石列下端に深掘れが発生し、堰に沿って激しい流れが生じている。巨石の転動は殆どなく、砂吐き・余水吐きの溝が乱れている程度。水位低下は、主に主流の移動による。

3.周辺の分流の状態;元主流の堰より上流側に2つの分流があったが、いずれも大きな礫石で埋め潰されている。このため、新たに発生した主流に異常な水量が集中したものと思われる。今夏の大洪水の水量を考えると、単に中洲の河床材料だけの問題ではないように思える。

4.対岸カシコートに架けられた橋が折れ、対岸工事の交通路の確保は難しい。ダンプカーと重機はカマ橋から搬送できるが、甚だしい悪路で、ブディアライからの巨石輸送は不可能。

5.増水期まで約2ヶ月半、応急工事を実施せねば、マルワリード用水路灌漑域は再び土漠に戻る可能性が強い。仮に多少の取水が出来ても、ガンベリは水が届かず、沙漠に戻るのは確実である。

6.米軍の撤退に伴う混乱は近づいていると思ってよい。1年後は、戦火によって工事ができなくなる可能性がある。応急工事といっても、それなりに耐久性があるものを作るべきである。


対策

 極めて短い工期を勘案すると、物量動員を惜しむべきではない。

1.主流河道の分割。過去カシコート側にあった分流水量に見合うだけの傍流(長さ約500m、幅50mで、水底レベルを取水堰側に合わせる。分流の復活は、住民が恐れて協力しないので、行わない。

2.現主流の処置;左岸カシコート側から、流失した砂州を半分回復し、全体に幅100m前後の浅い流れにする。このために必要な巨石の代用に、蛇篭(1x2x0.6m)約3,000個を人海戦術で河原の水際で作らせ、ローダーで深掘れ部分に落とし、急流部を埋め潰す。

3.斜め堰(約220m)沿いに交通路を敷設して堰を約100m延長、ブディアライから巨石を輸送、主流右岸部に大量を貯石、左岸側工事と同時並行で深掘れ部に投入する。主流の処置が進んだ段階で、斜め堰を適切に整形、冬の越流高をとりながら重機を帰還させる。

以上の工事の必要人員と重機・ダンプは以下の通り。

掘削機 ローダー ダンプ 作業員
主流左岸(カシコート側) 2 1 4 100
斜め堰(ジャリババ側) 2 0 6 0

また、作業員と資材(主に蛇篭)は、ジャリババ側から筏で輸送する。
ワイヤーの大量購入、蛇篭生産を増やす。
工事期間は、2010年12月中旬から2011年2月下旬まで10週間。




洪水後の河道の変化を上流から見る、
主流となった新河道。幅は狭く見えるが、深く落ちる半楕円型を成している。



斜め堰側から見る。護岸面だけが残って背面が主流になっている。


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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