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カシコート用水路の堰を作るに当たり、関連する護岸工事は不可欠である。これを取水堰の予備工事と呼ぶか否かは別として、2010年の大洪水で流失した主幹水路の回復には欠かせないものである。

左岸・カシコート側の様子

元来同部は、緩やかな傾斜の砂浜か河岸線を成していた。著しい変化は、最近のものである。

下流側にあるPRTの作った橋は、大きな障害になっている。五本の橋脚がわずか104m幅に設置され、2010年8月、大洪水の際に橋の上流側に堰上がりが生じ、左岸を大きく浸食、溢水で下流1㎞まで被害が及んだ。中心の橋脚が傾き、現在交通不能である。また、橋から上流部の左岸の護岸は、長さ330mにわたって弧状にえぐられ、同部にあったカシコート主幹用水路が流失した。

同部の護岸工事は2003年、EU関係の土木工事が主要河道を閉塞した際に施工されたもので、高さは冬の水面から約4.9m前後、自然地面から1.1~1.2m、根固めは施工されておらず、巨礫を表法に急角度で張りつけただけのものである。洪水時に下部の洗掘が発生し、一部が崩落して低くなり、洪水進入の形跡が残っている。現在の主要河道は、この弧状に浸食された部分に沿って発生しており、2012年2月3日現在、低水位期に全水量の90%以上を流していた。

新河道は、村落のシルト層を浸食しながら、翌2011年夏、更に同河道幅を村落側へ拡大した。

右岸・ジャリババ渓谷側の様子

工事予定地の対岸は、マルワリード用水路が走り、ジャリババ渓谷の鉄砲水が下る地点でもある。数件の家を除いてほぼ無人地帯。河岸線を成すのは、巨礫の堆積層、ジャリババ渓谷から張り出した砂利堆積層、半島状に突き出した岩盤(用水路工事時に名づけたB岩盤)である。

元来、左岸に比べて急流であり、巨礫層の上に、不規則な砂州が形成されていた。2003年の左岸の主要河道閉塞が行われると、水位が著しく上がったが、流速は逆に減少し、砂礫の堆積を一時的に増した。2010年の大洪水は、これらの砂礫を流し去り、再び巨礫層の露出が目立つようになった。ジャリババ渓谷からの運ばれる砂利堆積部は、クナール河の主要河道が左岸寄りに移動した後(洪水後)、粒径の小さな礫石がその上を覆った。

なおジャリババ渓谷は、年々流路がクナール河の下流側に注ぐようになり、現在の地点で安定している。2006年8月にマルワリード用水路の取水口、及び用水路500m地点までを埋めつぶした鉄砲水は、道路建設会社の資材置き場が流路を塞いだために発生したものである。流路を旧に復してからは、巨礫堆積が渓谷上流部にとどまり、河に達するのは砂礫のみである。

現主要河道の流れ

護岸予定の400m区間で、低水位期の落差2.8m、特に上流側は急勾配で、230mの長さに1.85mの落差がある。洪水後に発生した新河道の流速(2012年2月の低水位期)は、上流側2~3m/秒、下流側で0.8~1.2m/秒前後であった。幅55~70m、正確な水深は測量できなかった。一方、中心の旧主要河道②は、12月までに枯れ川となっており、粒径20~40㎝の巨礫が河床表面を覆っているのが観察された。礫は上流側で粒径が大きくて層が厚く、下流側では小さくて薄かった。

旧中心河道と新河道の分岐部(X地点)は、砂州IIの先端から上流約115mまで、浅い平坦な流れを成している。河床は泥土の表面に厚さ30~50㎝の巨礫が覆っていて、水深50㎝前後、幅約200m以上、浅く緩やかな流れで、左岸の新河道③に向かって幅広く注ぐ。クナール河の主要河道は、この地点で右岸寄りから左岸寄りに変わる。

考察

総合的に過去8年間の経過を見ると、2003年まで比較的安定していた河道は、主要河道閉塞工事(目的は不明)と護岸工事で堰上がりを生んだ。左岸護岸面と右岸B岩盤との間が約130mと狭くなり、河の流れが急にくびれた地形を通過し、夏季に水位を上げた急流が右岸側へ注いだためである。
流水が右岸側の下流域を浸食すると共に、上流域では高水位期の水位上昇を引き起こし、柔らかい河床材料で成る左岸が浸食された。自然の河岸線が村落側へ後退して川幅を広げ、護岸部では下部の洗掘が進んでいた。
2009年のPRTの架橋は、この護岸壁とB岩盤との間で行われ、同地点の川幅を更に数十m狭めると共に、橋脚によるスクリーン効果で、上記変化を加速したと思われる。

2010年の洪水被害は、起こるべくして起きたと言わざるを得ない。橋脚は深掘れが生じて傾き、復旧の目途が立っていない。もろい土質の左岸河岸は、更に大きく浸食が進んでいる。この状態で護岸工事を進めるのは多少議論の余地があろうが、水路復旧が至上命令であると共に、放置すれば新河道が確実にサルバンド村を破壊する。周辺地形の観察から、かなり有効と期待され、施工に踏み切る。

また、上流数㎞は右岸側に主な流れがあり、岩盤沿いの深掘れが連続している。左岸は概ね砂礫の浜が河岸線を成す。だが、河道①②の分岐点(X地点)の平坦な河床が、2010年の大洪水後に形成された。
上流から流された大量の砂礫が堆積し、右岸寄りの主流が阻まれ、左岸寄りに変化したものと思われる。

護岸工事の方針

1.低水敷きの幅・深さの拡大

主要河道を右岸ジャリババ側(旧主要河道)へ戻し、2010年夏に発生した大洪水時以上の流水断面積を確保する。旧中心河道と右岸側の水深を深くすると共に、河道の幅を思い切って広げ、砂州I・IIと中心河道掘削で得た河床材料で新主要河道を埋め潰し、緩傾斜(1:10以上)の高水敷を河岸線から連続させる。これを幅広い遊水地とし、低水位護岸として石出し水制を採用する。これによって、低水敷きの河床低下が十分期待される。
右岸は、マルワリード堰からB岩盤まで約900mにわたり、ジャリババ渓谷の砂利堆積層を挟んで、巨礫層が不規則に連続している。同堰末端から年々巨礫層が露出し、河岸線に沿う河床を低下させていた。砂州の移動・新河道閉塞と共に、X平坦部右岸側(約260m)を十分に開放すれば、直進する旧主要河道が右岸寄りに復活し、架橋部の堰上がりに耐え得るとの判断である。これに加えて、ジャリババ渓谷から張り出した分厚い礫石層を、砂州Iと共に掘削して除去する。

2.左岸カシコート側の護岸と根固め工

旧護岸線を復活することは避ける。溢水防止と用水路保護が主目的である。上記中心河道掘削で得た河床材料で高水敷を成し、連続して洪水崩壊部の大部分を遊水地化する。カシコート主幹用水路の通過区間(約200m)のみ、保護措置として強靭な根固めと高水位護岸を行う。護岸の余裕高は、洪水浸入の状態から、現在の高さを保持して強化措置をとれば十分と考えられる。ひと夏経てから河原の状態を確認、粗朶沈床らを加えることを考慮する。
傾いた橋については、行政に早期撤去を提言する。
予想される下流への主な影響は、砂州の変化である。傾いた橋から約0.3~4.0㎞下流(マルワリード用水路D~G)地帯に大量の砂礫堆積があり得る。しかし、橋から下流は、川幅が200~300m以上に再び拡大し、右岸にはPMSの石出し水制群がある。2008年までに固定した河道は、2010年の大洪水でも、大きくは変化しなかった。大過ないものと思われる。

なお、2004年~2011年までの変化はこれまでの報告の通り。
MADERAによる主要河道の閉塞(2003年4月)
マルワリード用水路の堰(2004~2008年)
PRTのカシコート架橋(2009年)
大洪水(2010年8月)

カシコート護岸・河道変更工事の概念図

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