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―アフガニスタンの現状とPMSの今(2)―

2021年9月17日
ペシャワール会会員・支援者の皆様へ

「緊急のアフガン問題は、政治や軍事問題ではない。パンと水の問題である。命の尊さこそ普遍的な事実である」
─ 中村哲
 前回8月25日の報告から3週間が経過しました。現地とは頻繁に連絡を取り、安全を確認しております。8月15日にいったん休止したPMSの活動は一部再開しました。近況をお届けいたします。
ペシャワール会会長/PMS総院長 村上優

1. PMS事業の再開について
◎医療
ダラエヌール診療所は、地域住民からの要望もあり、安全を確認した後、8月21日に再開しました。多くの職員が復帰して診療は軌道に乗りつつありますが、時期的にも早期に通常の態勢に戻ることが求められます。これまでにも新型コロナ感染者の来院はありましたが、6月頃よりデルタ株と推測される患者が急増しています。

◎農業
9月2日にPMS農場があるガンベリ地区を管轄するシェイワ郡長より治安状態の報告を受け、事業を一部再開しました。レモンの収穫から始まり、田畑の整備をしています。

◎用水路
9月4日にナンガラハル州の行政当局より連絡があって協議が開催され、用水路事業の報告をしました。その時点では州知事が正式に就任していなかったため、具体的な工事再開には至っておりませんが、すでに現場の見回りなどを行い、再開の準備は整っています。

2. 干ばつについて
今年は2000年の大干ばつを上回る干ばつが進行し、国境を越えて近隣国へは逃げられず、首都カブールには多数の国内難民が集まっています。PMSが灌漑した地域は農地がすっかり復旧し豊かで干ばつの影響は受けていませんが、一歩離れると干上がった田畑が見られます。ダラエヌール渓谷には、大口径の灌漑井戸が13本ありましたが地下水位が下がっており、草一本もない2000年当時を彷彿とさせる荒廃した畑が広がってきました。そのため、用水路から水を高所に揚げて灌漑する計画を立てています。ナンガラハル州の他地域も同様で、井戸やカレーズの水位が下がってきています。
 国連世界食糧計画(WFP)は「数百万人が大飢饉の危機に瀕する」、国連食糧農業機関(FAO)は「アフガニスタン人世帯の20%以上が大惨事の食糧不足」と警告を発しています。前政権も今年6月に「アフガニスタン全国民が被災し、30%が餓死線上、50%が飢餓線上にある」と訴えていました。このままでは惨状が待っていると言わざるを得ません。

3. アフガニスタンの現況と課題
 カブールとジャララバードでは8月21日にバザールが開き、続いて学校が再開するなど、人々の生活は普段に戻りつつあります。治安は安定しているようです。一方、銀行は開いたものの預金引き出しの制限(200ドル/人/週)があり、経済は十分回っていません。PMSでは診療活動を再開したものの、9月末には薬品が底をつきます。また、職員への8月分の給料も未払いの状態です。物価はじわじわ高騰してきています。
 アフガニスタンの暫定政権の主要閣僚が発表されるなど、体制の全容が徐々に見えてきました。PMS事業再開の条件(治安・職員の安全・地域の安全)は整いつつありますが、灌漑用水路などの規模の大きな事業は州や国レベルの明確な理解を必要とします。また、特に大きな費用がかかるという点を考えれば、銀行が前述したような状態では身動きが取れません。早期の銀行正常化が待たれます。今はまだタリバン政権を断罪するのは時期尚早で、制裁を科すのではなく政権の行方を慎重に見極める時期です。

4. 私たちが訴えたいこと
 中村先生は大干ばつの中、飢餓・餓死に直面しているアフガニスタンの人々への食糧援助と、長期的には干ばつ対策=灌漑用水路事業による自立支援、「戦より食糧自給」を繰り返し訴えていました。2021年は深刻な干ばつに新型コロナ感染症の拡大が加わり、このまま孤立させては惨状が待っているだけです。私たちは「命をつなぐこと」を最重要課題と考えています。凄惨な戦闘を回避することが、命をつなぐ唯一の道ではないでしょうか。
 アフガニスタンは40年にわたって大国や周辺国の代理戦争の場となり、戦乱が続いておりました。その間、様々な主義・主張が飛び交うなかで、人口の80~90%を占める農民・遊牧民の存在は国際社会から無視されてきました。貧困者ラインが90%という実情を直視すべきです。手を差し伸べる対象は彼らなのです。それこそが、平和への第一歩と考えます。
 基本的人権の最も大切なものは生存権であり、アフガニスタンでは深刻な干ばつのためにそれが脅かされています。私たちは、どのような状況下であっても、人々の生きる権利を第一と考え、「他所に逃れようのない人々が人間らしく生きられるよう」(中村哲)支援を続けてまいります。どうぞ、今後とも温かいご支援とご理解を賜りますよう、お願い申し上げます。