Top» 活動レポート» 掲載日:2023.9.7

6・7月月報

バラコット用水路改修工事
雨量観測を開始


皆さま、お元気でお過ごしでしょうか。
4月に続き7月に再度アフガニスタンへ行きました。今回は、PMS支援室技術支援チームから大和さんと宮本さんが私たち支援室員に同行されました。今年9月に完工を予定している、バラコット堰・用水路の建設上での技術指導と完工後の新規事業をどこに立ち上げるかの適地調査が大きな目的です。支援室員はこれまでと同様に、各セクションのルーティンワークやPMSの各活動の理解、職員や地域住民との交流を深めていくようにしました。

バラコット用水路建設は、日本側からの技術指導のお陰で順調に進行していましたが、丁度私たちが日本を出国する6月下旬に現地から、完成した用水路の床面に部分的に亀裂が入ったとの報告が来ました。

彼らは亀裂の原因が、用水路床面のライニング工に使用する「ソイルセメント」の土質によるものと考えました。ソイルセメントは土(ハウラ)とセメントとを混ぜて作ります。バラコットではライニング工を施す場所にある土を(現場発生土)を使っており、数カ所の亀裂の入った場所は全てシナレイ(頁岩=けつがん)の層であることが分かったのです。また、はるか崖下で農業を営む住民が「この土質のある田に水を張って稲を植えると苗自体が倒れてしまう。水を入れるとドロドロになる」との情報もありました。亀裂部の用水路を基礎部分から掘り起こしてみると、ソイルセメントの部分が粘土のようにドロドロになっており同じ現象が起きていました。工事初めの切土作業時は、シナレイの層はたいへん固く、場所によっては掘削機にノミを装着して削る必要があったので、その時は用水路の側面に隣接する切土部分が固い層で良かったと喜んでいたのです。

今回の亀裂発生で、シナレイは水に触れるとドロドロになる土質であると知ったと報告しました。
既に現場では用水路床面のライニング工に、赤土を使ったソイルセメントに変更して、改修工事を始めていましたが、大和さん、宮本さんが亀裂の実態を観察するため改修工事を一旦停止して到着を待つようにしました。
素人ながら、現場を見るまでは地盤が沈下してしまっているのではとたいへん心配しました。
さて、ジャララバードに到着翌日に早速バラコット用水路現場へ向かいました。

亀裂は、用水路床面だけではなく用水路壁にもあり、用水路壁が一部沈下しているところもありました。亀裂部や切土の部分からサンプルを持ち帰り観察した専門家の宮本さんによると、原因は頁岩(けつがん=シナレイ)で、乾燥しているときは非常に硬いが一旦水を含むと柔らかくなり膨張する土質であると教えて頂きました。PMSのエンジニア達の話しと一致していました。

改修工事については議論が尽くされ、凡そエンジニアたちが改修していた通りでしたが、プラスして大和さん、宮本さんからのご指導で、砂利を敷いた基礎部分の圧縮の強化、用水路左壁と切土斜面の間は、下に普通の土をその上に赤土を圧縮しながら詰める、用水路左壁の上部に穴を空け、降雨時の水を用水路に流入させる等々。以上の工法で改修が始まり現在も続けられています。改修工事の詳細は写真がありますのでご覧ください。

今回の訪問で、大目玉はPMS独自の雨量観測が始まったことです。
大和さんの指導の下、ジャララバード事務所、ダラエヌール診療所、バラコット事務所の三カ所で観測が始められました。全セクションの責任者がジャララバード事務所に集まり、大和さんから説明を受けながら実技も行いましたが、診療所のハフィズラー先生や事務所責任者のサーブルジャンたち全員たいへん関心が高く楽しそうに行っていました。

降雨が少ないアフガニスタンなので滞在中に降雨があるだろうかと思っていたところ、7月25日にジャララバードで午前7時から1時間半にわたって17mmの雨が降りました。突然の降雨でそれも短時間だったので驚きました。スピンガル山脈方面で標高の高いバラコット用水路事務所では、午前5時40分から1時間半の豪雨で30mmの雨量で、いつもは水量の少ないコット川やナージヤン方面の川で激流が発生しました。この雨により、バラコットの用水路現場は落石や交通路側の崖崩れが発生。取水堰の対岸側の護岸堤が2カ所流失し、順次修復工事に取り掛かっています。

ダラエヌール診療所では、いつものように診療が行われています。
7月はマラリアの流行期でしたが、今年はたいへん患者が少ないとの事です。言われてみると、ジャララバードの宿舎でも4月は蚊がかなりいましたが、今回の滞在では少なく不思議に思っていました。40度近くの気温だったのが関係しているのかと考えたりしています。
また、7月22日の早朝、5時過ぎに腹痛で友人に付き添われて診療所に来たタリバン兵が、空に向けて発砲するということが起きました。

診療所への銃の持ち込みが禁止されて長い時が過ぎていましたので、医師をはじめ皆が恐怖に怯え、診察をしました。連絡を受けたジア先生は急ぎ駆け付け事情を確認した後、郡の保健局へ報告し最終的に保健局、経済局の担当官たちと患者だったタリバン兵も引き出され診療所に謝罪することで落ち着きました。患者のタリバン兵はあまりの腹痛で一刻も早く診察をしてほしくて思わず発砲してしまったと詫びていたそうです。2021年8月の政変から以降、PMSの活動地では人々の行き来が自由になり、聞く人ひとりひとりが、今は夜でもどこにでも行ける、と答えるので喜んでいる最中の出来事だったので私たちも驚きましたが、ジア先生の迅速な働きとナンガラハル州とシェイワ郡の関係局の対応が診療所の職員たちを安心させました。

農業計画では、今年もさつまいもの栽培を昨年よりは拡張して行っています。今年はシェイワ郡をはじめカマ、ソルフロッド郡などにツルを配り各地での栽培も試みています。責任者のアジマルジャンが連絡先を把握し定期的に観察をしていきます。

私たちの活動地のいろいろな場所で戦争の爪痕があります。特にISに占領されていたバラコットの工事現場周辺では、外国軍が駐留したチェックポストには今でも網目状の防護壁が数えきれないほどです。良く見ると銃弾で打ち抜かれた痕跡も多く、ついこの間まで戦争地だったことを感じさせます。今ではそのままタリバン兵や警察が使っているところもありますが、放置されているのも多く、いつの間にかバザールの店々のドア代わりに使われるようになっています。

また、7月のバラコットの現場では地雷が堀り起こされました。赤土を取るために稼働していた掘削機がたまたまシャベルを入れた所から出てきたそうです。さすがに長い戦争を経験した国だけあって大騒動にはならず、すぐに駆け付けたコット郡の処理班が片付けてくれました。100kgの重量がかかると爆発するものであり、掘削機の運転手が無事であったことに感謝しました。

今回もアフガニスタンに1カ月月の滞在でしたが、相変わらずいろいろな出来事がありました。以前中村先生と、ここでは「一段落つく」という事があるのだろうかと、よく話していたことを思い出しました。そして、だからこそ我々がいる意味があるのだと話していたことも。
出来事の続きは次回に報告をしたいと思います。
日本も気温が30度を超えても驚かなくなって来たようです。
皆さまもお元気でお過ごしください。
PMS支援室一同 2023年8月19日


▼ガンベリ農場では、今年も小麦の刈り取りが行われた。40ヘクタールで約60トンの収穫となった。刈り取った小麦を運ぶため、トラックに積む作業員たち。2023年5月11日


▼袋詰めされた小麦(50kg)はバザールへ出荷される。2023年5月18日



▼ツルが繁茂し、植え付けの時期を迎えたサツマイモ畑。2023年5月22日


▼サツマイモはいくつかの植え方が試みられている。写真は水平に掘った溝にツルを寝かせるように植え付けている。サツマイモの評判は上々で、ツルは昨年から予約していた30名(PMS職員・作業員を含む)に配られた。2023年5月22日


▼支援室員もサツマイモの植え付けを手伝った。2023年7月23日


▼田植えは約10ヘクタールに行われた。線を引っ張ってまっすぐに田植えする風景はPMSでおなじみ。2023年5月30日


▼雁詰(がんづめ)を使って田んぼの除草作業に勤しむ作業員たち。右2つは現地農民から借りている物で、以前日本からの農業支援で持ち込まれたものが複製されていた。左は2年前にペシャワール会から送ったもの。


▼ナツメヤシ園
初収穫の昨年よりさらに多くの実をつけた。9月に収穫予定で、その後乾燥させる。PMS職員たちが収穫の時期を今か今かと待ちわびる。2023年7月15日


▼8月10日までのクナール河の水位グラフ。昨年の同時期(赤線)よりも水位が高い。このまま増水して、昨年を超えるような大洪水が襲わないことを願う。
KUNAR RIVER HYDOROGRAPH/Flow=CUM/sec


▼5月31日、クナール河が増水し洪水が発生。カシコート護岸が損傷との連絡があった。


▼護岸の根方が深く洗堀されたのだろうか、崩落が植樹箇所まで及んでいる。木はなぎ倒され一部流出してしまった。2023年5月31日


▼6月3日から補修工事開始。2023年6月3日 右上/6月3日から補修工事開始。2023年6月3日 左下/バルカシコート護岸の下流側に貯蓄しておいた巨礫を使用。2023年6月5日


▼護岸高50cmの嵩上げも行った。2023年6月11日


▼既存の水制1基の補修と、新規水制3基の造成を実施。損壊部30mとその上下流30mずつ、計90m区間の補修工事を完了。2023年6月14日


▼ミラーン取水口でも、増水により護岸が一部(右図の赤点線部)損傷を受けた。砂州1に接続する石積み堰・土砂吐き1を通過した河道[1]と、河道[3]Aが再合流する地点の護岸が濁流にえぐられ、一部崩落。2023年7月17日


▼こちらも巨礫を落とし水制の補強を行った。現在、PMSで貯蓄していた巨礫が不足気味で、場所によっては岩山から切り出した角石を購入して工事に使用している。7月10日から17日まで緊急補修工事を行った。2023年7月16日


▼カブール河のカシマバード堰。
クナール河の各堰を襲う高水位とは打って変わって、こちらは堰の巨礫が露出するほどの低水位。上流の数か所のダムで水位調整が行われている影響だと思われる。2023年8月8日


▼取水門への流路を確保するため、上流の堆積土砂の除去を行った。昨年も同様の工事を行っている。2023年8月8日


▼村民たちも出てきて、スコップで採った砂利を袋に詰め土のうを造り、水位確保のためそれらを堰の前縁に積んでいる。2023年8月9日


▼6月に入り、アフガニスタンの厳しい夏が始まった。見渡す限り木1本生えていない台地の上に貯水池を造成する為、作業員たちは炎天下の中で働いている。水路工事もいよいよ終盤に差し掛かり、9月末までの後期は残すところ4ヶ月を切った。2023年6月7日


▼2023年5~6月(6/27~30 大イード休暇)
[1]護岸工事…5月中旬完了
[2]取水部工事 -堰取水門…5月上旬完了
[3]落差工…5月中旬完了
[4]湧水用水路工事…5月上旬完了
[5]用水路工事…約4km地点まで進行中
[6]横断排水路工事…5月末完了
[7]植樹工 -護岸・用水路全線…3月より継続中
[8]貯水池工事 -貯水プール・余水貯水池…5月上旬開始


▼[1]護岸工事 [2]取水部工事
川の中の工事にあたる、堰・取水門は5月上旬に、両岸の護岸石積みも5月中旬に完了し、今は石積みの間に施した植栽への水やりが続けられている。2023年5月31日


▼[4]湧水用水路工事
湧水用水路5月上旬に完成し、用水路との間の空いたスペースは花壇に変身した。アフガンの人々は本当に花が好きだ。2023年5月8日


▼[5]用水路工事
取水点側から工事を進めてきた用水路の末端は、ついに崖上の台地に到達。終点4.3km地点までもう少し。2023年6月21日


▼[5]用水路工事
末端側より用水路造成の各工程が順次進められている。2023年6月21日
左上/4,220m地点。水路床面のソイルセメント工。
右上/4,200m地点。ソイルセメント完了後、湿らせた麻袋で養生。

左下/3,900m地点。床面が固まった箇所に壁造成用のレンガを用意、水を撒く。
右下/3,850m地点。湿らせたレンガをモルタルで繋ぎながら、壁を造成していく。


▼[5]用水路工事
末端側より用水路造成の各工程が順次進められている。2023年6月21日
左2枚/3,700m地点。積みあがった水路壁の内側にモルタル左官を行う。炎天下の中で急激な乾燥収縮を防ぐ為、テントを張って作業している。
右2枚/3,650m地点。造成完了した水路に水を流して水養生中。左官を行った内壁には湿らせた麻袋を掛けてひび割れを防ぐ。


▼[7]植樹工
水路脇には全線に渡って植樹が行われ、水やりを継続している。主にユーカリを植え、高地に適したアーモンドやクルミも植えられている。数年後、どのような光景になっているだろうか。2023年6月14日


▼水路にクラック(ひび割れ)発生
水路造成が完了した箇所から、水養生の為に通水を行っていた。ところで、2,500m地点付近にて数十メートルに渡ってクラックが発生した。PMSエンジニアによると、この区間でソイルセメントに混ぜた土の材質に問題があるとの見立てだった。乾燥していた時は非常に硬かったが、水分を含ませるとチューインガムのように柔らかくなり、クラック発生につながったという事である。PMSとしては初めて遭遇する出来事で、対処法について日本側に相談があった。7月に予定される渡航視察時に、日本のエンジニアも実際に現場確認する流れとなった。2023年6月18日


▼7月1日より日本からの視察団が現地入りした。バラコット用水路の建設現場には度々足を運び、クラックの対処を始めとして、PMSエンジニアとの間で多くの意見が交わされた。写真は用水路末端4,3km地点にて。2023年7月11日



▼2023年7月(豪雨・洪水による破損多数)
[1]護岸堤防…洪水によって右岸側2箇所で破損
[2]取水部…取水門前に砂利堆積が著しく、堰上流には洪水で土石堆積
[3]水門小屋建築…7月上旬より開始
[4]用水路工事…クラック修繕箇所を除き、4,3km地点まで到達
[5]横断排水路工事…豪雨時の鉄砲水によって数か所で崖浸食発生。雨水処理の強化を行う
[6]植樹工…水やり継続中
[7]貯水池工事…継続中 [8]崖上雨水溝工事…崖上からの鉄砲水を軽減させる為、7月中旬に開始


▼[4]用水路工事 -クラック調査
今回の渡航ではPMS支援室メンバーに加え、技術アドバイザーチームの大和技師、宮本技師が同行。先にPMS技師から相談を受けていた、用水路のクラックについての調査を行った。2023年7月2日


▼[4]用水路工事 -クラック調査<
クラック発生箇所を測定。3週に渡って行ったが、その間に新たに発生したものも含め、2,25km地点~2.8km地点で複数見られた。ここの地盤にはシナレイが多く見られ、またクラック箇所の水路床ソイルセメントも採取したところ、同じ土質が確認された。シナレイは日本では頁岩(けつがん)と呼ばれ、頁岩の水を含むと柔らかくなる性質がクラックの原因であると断定された。2023年7月2日


▼[4]用水路工事 -クラック対策
議論を重ねた末、シナレイによって再度クラックの発生が考えられる為、発生箇所は壊して造り直す事となった。その際、別の箇所から運んだ良質な赤土(保水力が高い)で用水路床のソイルセメントを造成する。また水路の下の地層にもシナレイが含まれている事が大いに考えられ、ここに水が浸透してしまうと地盤沈下によって水路が損壊する可能性が高い。
対応策として、これまでは、2層のソイルセメントだけで造成していたところ、砂利層と赤土層を設け、その上に、2層のソイルセメントを置くようにした。さらに崖の切土斜面からの雨水新党が考えられる為、ここにも赤土層を設け、溜まった水は水路内に放流するよう、2mピッチで水抜き孔を開けて行く、壊した水路壁のレンガは作業員が一つ一つ分解し、再利用していく。2023年7月21日


▼[4]用水路工事 -2023年7月24日のクラック箇所の修繕
左上/砂利層の造成。コンバクターで転圧
右上/締め固めた砂利層の上に赤土を投入、同じように転圧して赤土層を造成

左下/赤土層の上に、今までの要領でソイルセメント層を造成。セメントを投入
右下/良質な赤土とセメントを混合。前回はこの土にシナレイが含まれていた


▼豪雨・洪水発生
7月25日早朝、バラコットは局地的な豪雨(30mm/1,5h)に見舞われた。数時間の雨だったが、コット川は氾濫。用水路工事現場でも多くの破損が起きた。当日の午後に視察に訪れた際には、コット川は既にいつもの枯れ川に近い状態、小さな水筋がいくつか見える程度になっていた。一気に水が流れ下り、また土地が枯れていく様を実感する。2023年7月25日
左上/7月25午前 -コット川の氾濫
右上/7月25午後 -コット川(左上と同じ場所)

左下/7月25午前 -用水路工事現場
右下/7月25午後 -用水路破損個所


▼豪雨・洪水発生
堰は少し乱れた程度だったが、堰上流に土石が堆積した。また護岸堤防は右岸側2箇所で破損が起きた。人のサイズ程もある大岩がこれだけ流されてしまった。今後の修繕と対策に時間を要する事になりそうだ。2023年7月26日


▼豪雨・洪水発生
横断排水路数か所と、崖上からの鉄砲水にさらされた交通路では浸食が起こった。2023年7月26日


▼崖上雨水溝工事
崖上に雨水溝を造り、流れ下る水を減少させ、鉄砲水から用水路と交通路を護る仕組み。且つこの溝は貯水池まで引かれ、豪雨の灌漑利用が期待される。2023年7月26日