Top» トピックス» 掲載日:2023.6.19

―アフガニスタンの現状とPMSの今(9)―

ペシャワール会会長/PMS総院長 村上優

ラマダン中のアフガニスタンへ
 2023年3月20日より4月26日まで、PMS支援室の藤田室長ほか2名がアフガニスタンを訪問しました。昨年12月の訪問・視察についてはこのコラムの8回にシリーズで報告しました。今回、アフガニスタンはラマダン中で、昼間は絶飲食です。30度を超える暑さの中、ラマダン中にもかかわらず懸命に働くPMSスタッフと直に親しく接しながらの交流でした。前回は久しぶりだったため、全ての事業を駆け足で巡った印象でしたが、今回はじっくり実際の業務を共有し理解を深めることができました。

 今年の3月になって、小雨だったり時には局所的な大雨が降るなど、アフガニスタンは予測できない気候の移り変わりです。5月5日には、活動地域であるカマ地区の渓谷で局地的な大雨による鉄砲水が発生、被害が出ました。

バラコット用水路事業について
バラコット用水路造成は昨年10月に着工後、急ピッチで工事が進んでいます。取水門は完成し、1500m地点までの試験通水が行われました。この事業は大河川からではなく小河川と崖地の湧水から取水する、いわばPMS方式灌漑事業の応用編です。
事業地のコット郡バラコット地区は5500mのスピンガル山脈の麓で、大河川はありませんが、小規模河川がある地域です。しかし、近年の地球温暖化の影響で干ばつ、豪雨、洪水が繰り返し発生し、アフガニスタンの伝統的手法で造られた取水口は壊滅状態となり、農地に十分な水が行き渡らず耕作が年々難しくなっていました。

この地域に隣接したアチン郡などでは、PMSは2000年代に井戸掘りをしていました。しかし2001年に当時のタリバン政権が倒れた後は治安が悪化、また干ばつによって村人は難民となって離村しました。すると無人となった所にISなど外国勢力が入り込み、さらに治安が悪化するという悪循環でした。

2021年8月にタリバンが再び政権につくと欧米軍は去り、治安が大きく回復しました。難民化していた村人が帰村しますが、細々と灌漑していた農地では増えてきた村人を養えません。そこで村の長老会がマルワリード用水路によって潤ったシェイワ郡を見学、PMSによる灌漑事業を熱望したのです。村人が現場を守るための自警団を組んだりする中で、今回の用水路工事が始まり、大勢の村人(200人に及ぶ)が作業員として参加、今年9月には完成予定です。工事は順調ですので一旦は成功するでしょうが、厳しい自然条件の中で安定的に定着するにはまだ時間がかかります。用水路の改修・補修工事に村人も参加し、彼らが技術を習得した後に本当の完成と言える時が来ます。

将来への展望
バラコット事業の成功には大きな意味があります。

【1】同様の自然環境・住民環境にある地域がアフガニスタンには沢山あり、干ばつで困窮している。小規模河川に適した応用編PMS方式灌漑のニーズは高い。
【2】地球温暖化による気候変動は今までの経験をはるかに超えており、予測は困難。少雨や局所的豪雨など相反する事態が同時に起こる。こうした事態に適応しながら維持できる術(すべ)が必要で、現地の伝統的工法をも念頭に置いた今回の事業はモデルケースとなる。
【3】村人が用水路建設に参加することによって、維持管理できる熟練工を地元で養成することができる。アフガニスタンの伝統的農業の自立、農業を可能にする灌漑事業が想定できる。

今夏には3度目のアフガニスタン訪問が予定されています。灼熱の季節ですが、技術支援チームによる現場視察やPMS技術者との意見交換・交流は得るものが大きいと期待しています。