Top» トピックス» 掲載日:2023.9.3

―アフガニスタンの現状と
PMSの今(11)―

ペシャワール会会長/PMS総院長 村上優

失われた命を想う
ウクライナでの戦争が始まってから1年半、両軍の兵士50万人、一般市民の死者が1万人と報道されています。戦争報道では、人が死んでいくという現実感がないまま、人々が殺し、殺されている事実を抽象化して、人間の持つ攻撃性を鼓舞するように描かれています。この報道を前に、二つの既視感が甦ります。一つはアフガニスタンの40年間の戦乱であり、もう一つはイラクでの湾岸戦争です。アフガニスタンでは1979年のソ連軍侵攻からの戦乱、欧米軍の侵攻など40年以上の戦闘があり、数百万人の人々が亡くなりました。

2021年8月にタリバン政権が復活したアフガニスタンではおよそ40年ぶりに戦闘が無くなりました。治安も安定して、その結果、戦闘のさなかに中村医師が黙々と用水路建設で働いていた時とは異なり、安心して工事に励むことが可能になりました。

2022年末以降、ペシャワール会は3回の現地訪問を行いました。建設中のバラコット用水路の工事現場では、日本の技術支援チームとPMSの技術者が一緒になって話し合う光景が日常となりました。多くの住民からの要望で、新しい用水路をどこに建設すべきか、視察し、話し合い、調査する姿も普通に見られます。これこそ平和の第一歩でしょう。その具体的な様子を、7月に現地を訪問したPMS支援室メンバーや技術支援チームが近日中にHPで報告する予定です。

対話の必要性
 タリバン政権復活後3年ということを新聞やテレビメディアなども報じました。その多くは「女性の人権を無視する政権」と非難するばかりで、治安の改善や不正・腐敗の激減、干ばつの被害などについては素通りしています。そのなかで、元在アフガニスタン公使の宮原信孝氏は「深刻化するアフガニスタンの人権問題:求められているタリバーンとの対話」と題する論文を公表されました。宮原氏は女性の高等教育や就労などの問題を批判する一方で、前政権の急速な崩壊の背景には腐敗があったと結論づけ、タリバン政権は治安を改善してイスラム法による「秩序ある支配」によってアフガン国民に受け入れられているとして、タリバン政権との対話を重ねる必要性を指摘しています。その詳細は次のURLから見ることができます。
https://www.spf.org/iina/articles/miyahara_20.html» (SPF笹川平和財団HPへリンクします)

日本政府(JICA)と国連とPMS
 日本政府はアフガニスタンに対してFAO(国連食糧農業機関)と連携して無償資金協力「地域社会の主導による灌漑を通じた農業生産向上計画」を実施することを、8月28日にカブールの日本大使館で調印しました。日本でも8月30日にJICA(国際協力機構)がFAOとPMS方式による灌漑事業の普及に努める契約を交わしました。日本政府(JICA)がFAOに資金を提供し、FAOがクナール州ヌールガルでPMS方式灌漑のモデル事業を行います。その事業にPMSが技術協力するというものです。

PMSはこれまでナンガラハル州で「伝統に学ぶ灌漑工法」により農業を甦らせ成果を上げました。またJICA と協力してPMS方式灌漑事業ガイドラインを作成し普及のための基礎を作りました。アフガニスタンの自立には、干ばつによって荒廃した農地を回復することが必須です。そのために灌漑事業が必要なのです。 日本が緊急人道支援だけでなく、アフガニスタン自立のための支援に踏み出すことは大きな意味があります。アフガニスタンを国として承認して支援するのが効果的ですが、未承認の現在、国連機関を介しての支援となります。課題は諸々ありますが、日本とアフガニスタンの対話の第一歩となることを期待し、PMS/ペシャワール会も協力することにしました。