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2002年度の水利事業報告

ペシャワール会現地代表・PMS(ペシャワール会医療サービス)総院長
中村 哲
ペシャワール会報76号より(2003年07月09日)

●職員:148名(うち日本人8名)
●事務:10名
●運転手:7名
●門衛:9名
●技師・見回り:62名
●水路関係新規雇用:44名(内訳未定)
●雑務作業員:1日平均約300名
●(その他料理・掃除など)

2002年度はジャララバード支部事務所を大幅に再編し、さらに診療所に併設してダラエ・ヌール支所を開き、農業計画と共に長期に備えた。
また、2003年春は例年よりも降雨が多く、一時の希望を持たせたが、旱魃は収まっていない。耕地の沙漠化、村落の荒廃は目に余るものがある。自給自足の村の復興が痛感され、2003年3月、灌漑計画と飲料水源(井戸)計画を分離、「農業用水確保・15ヵ年計画」を決定した(詳細はペシャワール会報75号)。

要約すれば、
1) 比較的低山(4,000m級)の雪解け水に依存してきた地域に無数の溜池・井堰で貯水
2) 高山(5,000m級以上)から流れる大河川から水路を引いて、旱魃地帯を潤すことである。

飲料水源(井戸)確保事業
2003年6月15日時点で、作業地は1,000ヵ所に達した。難民帰還によって水源のある村の人口が増加、加えて水位の下降が著しく、深さ90mに達する手掘り井戸も出現、一旦完成した半数以上の井戸が再掘削を余儀なくされた。しかし、大口径ボーリングも一部に投入し、我々の井戸掘り技術は現地で定評あるものとなった。

今後は、補給と組織化の力量に応じていつでも拡大できるものの、病院と同様、職員19名が他の援助機関に引き抜かれ、ぎりぎりの状態で手を抜くことができない。
なお、アフガニスタンの最大の貿易拠点であるトルハム国境(カイバル峠)では、2001年6月に着工したボーリング井戸2基が、1年10カ月を費やして完成、2003年3月、5月にそれぞれ1号井戸、2号井戸が正式にアフガン政府に譲渡された。 住民とPMS側の負担で6月下旬までに給水管計3.5kmを埋設、国境の公共機関、少なからぬ中小バザール商店、食堂などが潤うことになる。これはアフガン側国境で初の公共水源で、住民や政府関係者の喜びは大きかった。

▼アーベ・マルワリード要図/中村哲医師作成

灌漑計画
2002年度は、ダラエ・ヌール渓谷下流に大口径(直径4~5m)の灌漑井戸5基を完成、合計30ヘクタールの耕作を可能にした。同地は中流域38カ所のカレーズの水の恩恵に浴さなかったが、これによって数千人が帰農できた。

しかし、ニングラハル州北部(クズクナール、シェイワ郡、ダラエ・ヌール最下流域)は、耕地の荒廃が数千ヘクタールに及び、予想したよりもはるかに広大な地域が旱魃にさらされていることが判明した。
急を要すると見た我々は、前述した用水路計画を2003年3月に開始、綿密な調査の末、水計画事業の有能な職員を配置、5月11日に作業工程を最終決定して、予定総工費2億円をかけ、本格的な作業が始まった。

水路の概要は以下の通り(上記地図参照)
1. 名称 アーベ・マルワリード(=ペルシャ語で"真珠の水"の意)
2. 場所 クナール河右岸のジャリババ村からシェイワ郡まで計16km
3. 川幅:4~5m
流水断面積:3.5~4.0m2
水深:1m前後、両岸に植林
4. 流速:毎秒0.7~0.8m
平均勾配:0.6~0.7/1,000m
流下量:毎秒3.0~3.5トン
5. 灌漑予定面積
(半砂漠化した耕作地)
1,500ヘクタール
6. 生産高 予想生産高:小麦・トウモロコシ計約1万トン、
生活可能人口:成人で約7万名
* アフガン政府 年間小麦消費基準=152kg/1名、
小麦生産量=3.5トン/1ヘクタール、
表作=トウモロコシ4.0トン/1ヘクタール、またはコメ3.0トン/1ヘクタール
7. 中途部分の約7kmが岩盤沿いの掘削、暗渠(トンネル)21カ所、うち4カ所で道路を横切り、1ヶ所が水道橋。
2重の水門と共に沈砂池を取水口に置く。

水路の殆どは地元の伝統的スタイルを改良したもので、現地で必要とされる農業土木技術のほぼ全てを網羅する。水位の下がる今冬に入口付近を堰して一挙に取水口を仕上げ、一旦通水を確認、その後数年を掛けて半永久的なものに仕上げる。従って来春から耕作が可能で、相当の難民の帰農を促すことができる。
また、これによって、職員たちが経験をつみ、将来の15ヵ年計画に備えることができる。

なお、調査を重ねれば重ねるほど、地元スタイルのものの方が、見映えのする近代的なコンクリート水路より優れ、維持・修復も容易であることを確認せざるを得なかった。掘削、土盛り、植林、石積み、巨岩の爆破などが大半の工事の要素である。6月15日現在、ブルドーザー1日平均3.5台、爆破班2チーム、労働者180名で約2kmの掘削を完了している。

作業地は良質の土、砂、岩石を産し、いずれも掘削・岩盤の爆破によって得られ、農民たち自身が優れた石積み技術を身につけている。アフガンの伝統的水路は、柳・桑の木を水路沿いに植え、その根が盛り土の土手を守る。私たちも基本的にこれを採用し、維持の困難なコンクリート建造物は極力避けている。
▲岩盤での作業

▲伝統的水路沿いに植えられた柳の木(写真はPMS作業地ではありません)

現在全ルートの地区割りを行い、チーム編成を3チームから10チーム(600名)、爆破班を2から5チームに増加、ある程度の簡単な機器を揃えれば、作業はさらにスピードアップする。また、12月の取水口工事=試験通水に向け、必要資材(蛇籠3,000個、聖牛200個、コンクリート棒など)の現場生産、1万本以上の植林の準備が必死で行われている。

一方、将来性から言えば、井堰・溜池が最大の働きをすると思われるが、基本技術は現地に備わっている。PMSとしてはダラエ・ヌール中流域に石と土、植樹を基本として、2003年9月に最初の試みを行う。これは従来天然の雪に頼ってきた貯水を下流域で行い、今後数世紀は続くと言われる「地球温暖化」に対処するものである。

成果が上がれば画期的で、自然の勢いで住民たち自身が広範囲で行うものと期待される(なお、今年の旱魃について一部に楽観的な見通しがあるが、これは今春の降雨量が例外的に多かったことだけを根拠とするもので、年々進行する夏の雪線の上昇、氷河の崩落、小河川流域の砂漠化、春の鉄砲水・洪水の増加を総合すると、「温暖化による自然の貯水力低下」が根本的な問題だと我々は分析している)。