2006年度の水利事業報告 及び2007年度の計画 ペシャワール会現地代表・PMS(ペシャワール会医療サービス)総院長 中村哲 |
ペシャワール会報92号より (2007年06月27日発行) |
■用水路建設 2003年3月に着工した全長13キロメートルの用水路は、2007年4月、4年の歳月をかけて第一期工事を完了した。連続して第2期6・8キロメートルの工事に入り、早ければ1年、遅くとも2年以内に完了する。 2006年度は、翌年夏に予測された戦火の拡大、旱魃の進行を念頭に、強行軍で進められた。土石流の谷ダラエ・ヌール渓谷2・5キロメートルの通過だけでなく、取水口の最終的な大改修、河道の変化で崩壊に瀕した4〜5キロメートル地点の湿地帯処理、1・3キロメートル地点の護岸と、3つの大規模工事を並行して短期間に終えた。 最大許容送水量は毎秒4〜5トン(一日約50万トン)、今やマルワリード用水路は直接灌漑地(沙漠化から回復)が約900町歩以上、冬の渇水期に送水できる既存の隣接用水路の面積を加えると、数千町歩になる。多くの旱魃難民が帰農し、廃墟となった村々が復活した。今後、第二期工事が進展するに従い、直接灌漑される地域は飛躍的に拡大してゆくと思われる。 用水路は大幅に日本の伝統技術が取り入れられた。全区間にわたって柳枝工と蛇籠工で造成され、11の水門、7つのサイフォン、水路沿いの植樹が12万5千本、3つの貯水池を擁する堂々たるものとなった。4回の夏を経て、土石流、洪水、土砂崩れによる決壊に何回も遭遇、工事の半分以上が「水路保護」に費やされ、河との戦いでもあった。ニングラハル州北部農村の守護神として長く機能するだろう。 重要な点は、建設の主力が周辺農民であったことである。4年間でのべ38万人が働き、600トンのワイヤーで蛇籠1万6千個を生産・使用したのも彼らであった。水路が必要とされる限り、現地の彼ら自身で改修できる。 これが可能になったのは、過去3年をかけて培ってきた現地・日本人職員たちの実戦的経験、作業員であった周辺農民の労働力の質の向上、そしてこれを物心共に支え続けてきた日本側の並々ならぬ努力である。水路第一期工事の詳細は別表に譲る。 ■井戸(灌漑)事業 2007年4月に飲料水源は1500ケ所を超えた。しかし、地下水の下降は依然として続いており、今後も努力が必要である。2006年度で特筆すべきは、トルハム国境の4基目のボーリング井戸が完成、渇水地獄は解消しつつある。しかし、他地域では水源事業が始まった頃よりもひどい状態が続いている。 2006年度は、主に用水路沿い、公共性の高い場所を選んで仕事が進められた。詳細は井戸担当者の報告に譲る。 今後、井戸事業は継続されるが、用水路事業と一体となり、ため池の造成、汲み上げ用水路などの事業も進めることになる。 ■表は、水源確保事業の現状です |
飲料井戸 | 灌漑井戸 | カレーズ | 計 | |
ダラエ・ヌール | 395(395) | 11(11) | 38(38) | 444(444) |
ソルフロット郡 | 542(542) | 542(542) | ||
ロダト郡 | 263(263) | 263(263) | ||
カイバル峠 | 4(4) | 4(4) | ||
アチン郡 | 171(171) | 171(171) | ||
スタッフ用 | 20(20) | 17(17) | ||
その他 | 17(17) | 17(17) | ||
計 | 1,412(1,412) | 11(11) | 38(38) | 1,461(1,461) |
飲料井戸 | 灌漑井戸 | カレーズ | 計 | |
ジャララバード | 7(7) | 0 | 0 | 444(444) |
ソルフロット郡 | 14(12) | 0 | 0 | 14(12) |
ダラエヌール | 3(3) | 0 | 0 | 3(3) |
シェイワ郡 | 14(14) | 0 | 0 | 14(14) |
カマ郡 | 2(2) | 0 | 0 | 2(2) |
トルハム | 1(0) | 0 | 0 | 1(0) |
その他 | 1(1) | 0 | 0 | 1(1) |
計 | 42(39) | 0 | 0 | 42(39) |