2009年度の農業事業報告
及び2010年度の計画

ペシャワール会現地代表・PMS(ペシャワール会医療サービス)総院長
中村哲
ペシャワール会報104号より
(2010年7月7日)

PMS試験農場にて作付予定の作物(2010年3月現在)
栽培種 作付面積
(2010年3月現在)
播種〜収穫 備考
シャフタル(アルファルファ原種) 25ha 11〜3月 緑肥として使用
菜種 25ha 11〜3月 緑肥として使用
スイカ 8ha 2〜6月 アフガン種、日本種、パキスタン種らの品質・収量の比較研究
水稲(コメ) 20ha 6〜10月 短粒米、長粒米の収量比較や最適種と収量増産法の研究
トウモロコシ 40ha 5〜10月 アフガン種のうち、耕作条件による収量増産の研究
小麦 100ha 11〜4月 収量増産、脱穀技術の研究
サツマイモ 5ha 2〜10月 日本種の増産、調理法の研究
(果樹) - - -
1ha - 湿潤な貯水池周辺で引き続き試作
ビエラ(biera) 3ha - アフガン産のもので、養蜂を試みる
柑橘類 2ha - ガンベリ沙漠での最適種の研究


農業について

ダラエヌール渓谷の試験農場は、徐々に進行する渇水でいずれ荒廃する。2008年冬から中断していた農業事業は、2009年8月、ガンベリ沙漠横断水路が開通すると同時に、再開された。
 最終的に計200ヘクタールが割り当てられ、少しづつ農地を拡大している。2009年度は、とりあえず22ヘクタールが耕作可能となった。しかし、農業チームの主な作業は、現在のところ開墾と水路網の整備である。灌漑工事と農作業は分離できない。
 09年度は、スイカ、ピーナツ、菜種、野菜類を植え、主力は開拓作業に従事している。当分、用水路建設班と一体になり、2010年度中に再編成が行われる。後述の自立定着村構想と並行して、作付け、農作業の分担、収穫物の分配態勢を決める。本格的な農場の生産は、まだまだ時間をかけねばならない。
 また、沙漠の土質は灌水によって劇的に変化するので、今しばらくの観察は欠かせない。現在、スイカの収穫期で、約2,5ヘクタールの土地で品種の比較研究が行われている。
 今夏、水稲は数ヘクタールにとどめ、2010年秋に100ヘクタールを目標に開墾、小麦の生産を本格化させる。(参照:上記表)
 その他、養蜂、畜産、養魚なども計画されているが、先ずは農地整備を優先する。
 現場では、全ての作業員が農民である。2010年度は、彼らの勘と経験に任せ、現地種を中心とし、増産を図る予定である。最低5年をかけ、試行錯誤を重ね、モデル農場を確実に実現する。


水源事業内の、『植樹』について

 植樹の目的は、
@水路工事の一部で柳枝工、 A土手の法面保護、 B土石流の緩流化、 C防風・防砂林の造成 であるが、2010年度は、さらに10万本が植えられ 全体で約30万本が植えられた。第一期工事(13q)地帯は既に水遣りの手間がなくなり、ほぼ活着した。
 2010年度秋から、柑橘類、ブドウ、ザクロなどの果樹園造成が始まる。植樹チームは農業チームと、年度内に一体化する予定である。

自立定着村の建設

用水路は常に維持補修が必要である。このため、ガンベリ沙漠の新開地のうち、約200ヘクタールの試験農場に熟練した作業員を定着・自活させ、彼らに水路保全の任を与える計画である。
 約80家族(1,000名)の村を目指しているが、2009年度は、水路本体の工事が難航、所有地をめぐる争いで、家屋の建造は中断している。
 しかし、開墾地の拡大と共に、入居者を徐々に増やす方針である。また、行政側との十分な協議が必要で徐々に進める方針に切り替えた。沙漠の開墾が容易ではなく、周辺の村との協力がなければ安心して住める状態ではない。2kmに及ぶ住宅群が、軍閥の狙うところとなり得るので、開墾地の拡大と並行して増やし、急がぬが良いとの判断である。2010年は、試験例として10家族前後を考えている。
 安全に暮らせる居住環境は、砂防林の成長、治安の安定、開墾地の整備、政府との合意らが不可欠である。既に、蛇籠・RCCパイプ・どぶ板等の生産、鉄筋加工、育苗場等、必要なワークショップは、集中して管理できるようになったものの、家屋の建設は4家族分のみである。


2010年度の計画

年度報告に述べた通り。農地開拓、用水路保全、排水路整備、浸透水処理、植樹、果樹園造成ら、まだまだ手が抜けない状態である。農業計画はまだ準備段階だと言えよう。医療面ではハンセン病診療の場の確保が遅れているが、政情の変化を考慮し、急がない。


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