アフガンいのちの基金No.32
「 これまでのまとめ」

PMS病院長 中村哲
2001年11月11日(日)

皆さま、ご苦労様です。連日の努力、敬服します。おかげで初期の見通しが立ちかけてきたようで、うれしいです。何よりも、純粋の厚意が大規模な形で実を結ぶことが、愉快な気がします。どこかいびつな主流からは見放されているようですが、これだけ「まだ捨てたものではない」良心的な人々が日本にいたことを思うと、心が温まります。現地は確かに大変ですが、頑張りましょう。これまでのまとめを送ります。
PMS病院長 中村哲
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第一次アフガニスタン支援計画の実績と見通し

11月に入って試行と調査を完了、食糧配給計画はいよいよ本格的な段階に入った。11月9日にはPMS病院の指導的メンバー(医師、看護士、検査技師)をカブールに急派増員、配給能力を上げると共に、ペシャワール側では、イクラム事務長や藤田看護部長以下、現地・日本人スタッフ総出で買付と輸送に全力をあげている。現在、WFP(世界食糧計画)は「危険地域」を避けているし、国際赤十字は戦争被災民に援助を限定せざるを得ない。カブールは最大の干ばつ避難民を抱えるにもかかわらず、カナダ基金、パキスタン・アラブ系NGOからの救援物資が少しずつ届いているのみである。PMSからの補給が断たれれば、市全体が危機的となる。 

10月20日から11月11日現在、これまでアフガニスタンに搬入された量は以下の通り。
小麦粉 1,400トン 約14,000家族 1.5ヶ月 14万人分
食用油 14万リットル 約17,500家族 1.5ヶ月 17,5万人分
このうち実際に配給された量は以下の通り
カブール市内 小麦粉 978,8トン 食用油 11.8万リットル 9,780所帯、9.7万人
ジャララバード爆撃被災地 小麦粉 54.4トン 食用油 4,192リットル 262所帯

厳冬と戦火の迫る現在、今後さらにピッチを上げ、 11月20日までに以下を急送、カブールで配給する予定
小麦粉 3,080トン 約30,800家族 1.5ケ月  30.8万人分
食用油 22万リットル 約31,000家族 1.5ケ月  31万人分

これはコンボイで110台分の量になるので、毎日休日返上で15−20台がアフガニスタン内部に送り込まれる。総費用は 56,210,000ルピー (約 112,420,000円)で以上の第一次計画を完了する予定。最終的に、総計小麦粉 4,480トン、食用油38万リットル、44,800家族 (約50万人) が一カ月半飢えをしのぎ、断食月明けを無事に迎えることができる。

これは現在のカブール市民の半分に迫る数字だから、市の全体が少なくとも当分、餓死と栄養失調を免れる。勇敢な吾がPMS職員に支えられ、計画は着々と実をあげつつある。これは日本国民の良心の壮挙である。感慨を禁じ得ないと共に、心からの感謝を述べたい。

  なお、「PMSの存在の割にニュースにならない」との声が一部にあったが、国際的な方策、「報復爆撃−大量難民発生と支援」の筋書きに異を唱えると取られる場合は、無視されることが普通である。 12年前の「アフガン難民帰還計画」の大騒ぎの時も同様であったから、紙上の評判を気にする必要はない。宣伝上手な機関は、話題性がなくなれば何れ去って行く。

第二次計画

カブールを取り巻く戦況、政情の変化によっては、次の援助策として以下を考慮する。何れにしてもPMSの堅持する方針は
1.国連や各国NGOが殺到すれば、これに参加せず、彼らに任せる。
2.より困窮していながら誰も手をつけない場所に力を注ぐ。
3.各国政府や国連がゆき届かぬ部分を担う、NGOとしての節を通す。
1.米軍=北部同盟がカブールに平和進駐する場合、WFP(世界食糧計画)、各国NGOや政府援助が殺到するだろうから、主な活動地を東部に注ぎ、爆撃被災地の食糧援助や水源確保、医療活動に精力を投入する。

2.不幸にして戦乱でカブールに大混乱が起き、大量避難民がジャララバードやペシャワールを目指す場合、これを出来る限り東部で迎え撃つ態勢をとり、食料配給のみならず、ダラエヌール診療所を拠点に医療チームを編成、総合的なケアを目指す。

3.カブールが輸送可能な状態で米軍=北部同盟の進駐がなく、WFP (世界食糧計画)が近づかぬ場合、PMSは更に同量の食糧支援を行い、カブール市民の越冬を可能にする。又は、他の団体による救援で飢餓が遠のけば、衣類や毛布の配給を行うことも考慮する。

4.アフガニスタン中が混乱して収拾がつかず、パキスタン側へ大量難民が発生すれば、PMS病院 (ペシャワール)に立てこもり、診療の質と量を高めて、医療支援に集中する。


付記
従来のPMSカブール診療所の活動は、11月11日現在、平生どおり行われている。ダシュテ・バルチー、ラフマン・ミナ、カルガ、チェヘルストン、5つの診療所は何れも健在である。47名の職員のうち、医師1名がペシャワールに逃げたが、他の者は全て献身的に診療に尽くし、極貧の市民たちを励ましている。診療数は何れも外来100−150名前後、11月の集計は集まり次第報告する。
以上
PMS病院長 中村 哲


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