基地病院移転は半年延期、既存水路の救済が焦眉
基地病院移転は半年延期、既存水路の救済が焦眉

PMS(ピース・ジャパン・メディカル・サービス=平和医療団日本)総院長
ペシャワール会現地代表 中村哲
ペシャワール会報94号より
(2007年12月05日)
基地病院移転は半年延期に
護岸用の蛇籠を修繕する中村医師
みなさん、お元気でしょうか。
 パキスタン、アフガニスタン共に、現地は混乱の修羅場が遠からず予測され、必死の仕事が続けられています。

 先ずパキスタン・ペシャワール側では、先日からPMS基地病院の移転が問題になり、会員の皆様に心配の声が多く寄せられています。その後の経過をお知らせします。結論から言えば、移転は半年延期されました。これは、パキスタン政情の大混乱で行政機能が円滑に動かぬようになったこと、アフガン難民強制送還の動きがUNHCRに牽制されたこと、性急な動きは現在PMSにとっても不利が多く、動きがつかぬことがあります。当方としては十分な準備期間を取らねば、診療ができぬ状態にあります。西野医師、藤田看護師、アフガン人古参職員のジア医師らを中心に、じっくりと情勢を読み、移転と新態勢の建設が着実に進められようとしています。

 パキスタン北西辺境州では、先月のワジリスタンで大規模な反乱の後、今度はスワト渓谷で反乱の火の手が上がって国軍兵士200名以上が捕虜となり、タリバーン勢力の支配下に入りました。
 11月24日現在、米軍に押されたパキスタン国軍1万数千人が同渓谷を包囲、大規模な軍事作戦が計画されていると伝えられています。

 一方、アフガニスタン側では、南部・東部諸州を中心にタリバーン勢力の面の実効支配地が既に全土の半分を超え、首都が着実に包囲されていると伝えられ、欧米軍との間で戦闘規模が拡大しています。おそらく米国の擁立する新政府は、タリバーン勢力との妥協なしに存続することは不可能です。首都カーブルの人口は500万人を超え、大半がその日の職にこと欠く避難民だと見られます。一部区域の華美な風俗と余りに対照的、革命前夜を想起させ、一触即発の状態に誰もが不安を感じています。

次々と涸れる既存水路
 この背景をなす大きな出来事は、外国軍の無用な軍事行動と共に、今年9月から東部では雨が一滴も降らず、記録的な河の異常低水位が続いていることです。クナール河沿いでは、既に8月から初冬並みの水位となり、チャガサライからジャララバードに至るまで殆どの取水口が干上がりました。この結果、川沿いの村々は既にコメ、トウモロコシの収穫が全滅、冬小麦も危うく、大凶作が確実視されています。

 灌漑省によれば、私たちの建設したマルワリード用水路(Japan Canal)のみが生き残り、現在これだけでシェイワ郡、シギ郡の全域(推定約2500町歩)を奇跡的に潤している状態です。かつて安定した水供給で知られたジャララバード郊外のベスード用水路(推定約3000町歩)も涸れ、住民たちの間に絶望的な雰囲気が広がりました。

 私たちの用水路は第二期工事を急ぎ、11月末までに3.2キロメートル地点(N1区域=取水口から16.3km)を完成、シギ郡に大量送水を可能にしようとしています。これと平行してベスード用水路の取水工事を住民と一体になって進めています。間もなくベスード用水路が復活する見通しです。直ちに連続して、シェイワ用水路の斜め堰と取水門の建設、対岸のカシコート村用水路の復活が手がけられます。

 堰上げ工事に必要な石材の大量輸送態勢を整え、来春予想される大混乱を前に、空前の規模で計画が始動し始めました。河と戦ってきたこれまでの経験を生かし、「ともかく各村の食糧自給を絶やさぬよう、各村の農民と一体化し、手がけうる全ての取水口復旧に全力を尽くせ。2年分の予算を使っても構わない」と異例の方針を指示しました。かつて水路工事に携わった元日本人ワーカーたち、鈴木祐次、鈴木学、紺野、石橋らも非常招集で続々と現地入りを始めました。試験農場の進藤も12月から救援に駆けつけます。

進まぬ復興、不毛な議論
 遅々として進まぬ復興、実のない内外の議論、外国軍の横暴に対して、もはや忍耐は限界を超えました。これは緊急事態であり、吾々の戦であります。いたずらに農民を殺戮する外国軍の「対テロ戦争」と対決し、一人でも多くの命を守る戦いであります。

 もちろん日本人ワーカーたちの安全には極力配慮し、ギリギリまで留まって私たちの「命を守る平和の戦い」を完遂し、日本人の心意気を示したいと存じます。日本にあって、平和を祈り、命が脅かされる現地の実情に心痛める多くの良心、その絶大な支援に衷心から感謝申し上げます。

 どうぞ、寒風の中で餓えに苦しむ多くの人々のため、彼らと命運を共にするPMSの現地職員のため、お祈り下さい。
 よきクリスマスと正月をお迎え下さい。