受信日:2010年01月16日受取



事務局のみなさん、(1月14日報告の続き)

 アフガニスタンも寒波に見舞われ、夜は零下に気温が下がります。新年は不吉な兆候と共に明けました。外国軍増派ではありません。降雪・降雨のない冬です。普段なら山々が真っ白に覆われ、夏の恵みを期待することができます。冬の厳しさの分だけ、春の雪解け水が里を潤します。しかし、今年はこの10年でも、最も異常です。
 冬の河の水位は、低いとはいえど、12月下旬から一定になり、春まで続きます。アフガンは今が雨季で、河の上流が氷結しても、小雨が断続的に降り、河川の水位が保たれます。しかし、山々は申し訳程度に白い稜線が見えるだけで、しかも極端な少雨です。クナール河、カブール河は私たちが観察を始めて10年間のうち、最も低水位を記録しました。既にスピンガル方面は農地が壊滅状態でしたが、ダラエヌールも、アムラ村・ブディアライ村・ソリジ村は沙漠化が目前です。地下水位も下降を続け、多くの井戸が枯れました。
多くの地域が絶望的な状態となっています。おそらく凍死や餓死者が絶えないことでしょう。

 政情もさることながら、この水欠乏が容易に人々を追い詰め、今や破局が目前に迫ったと感じています。一種の「終末感情」が人々の間に忍び込んでいます。このような事情での水の仕事です。最期の吶喊にも似た心境にならざるを得ません。せめてニングラハル州北部だけでも、死守いたします。カマ、シェイワ、ベスードの3郡は守ります。

 最も取水が困難で、かつ農地が最大のカマ取水堰は、工事が大詰めを迎えています。あと1カ月で仕上げたいと思います。
 みなさんの御協力、ただ感謝です。


カマ第二取水口の改修。数年前PRTが作ったらしいが、1年ともたなかった。ヤワな作りでは夏の洪水に耐え得ない。更に、スライド式ゲートは、高水位時に底水を引き入れ、土砂で埋まってしまう。住民が嘆願してきたが、昨年、この取水門で引きちぎられたコーランが大量に発見され、大騒ぎとなった。その後、外国人への敵意がつのっていた。そこで、あくまで「行政からの指示」という形で着工できた。 写真は
水門の改修。錆びたスライド門を取り外し、堰板方式に変えている所。1月13日



 同第二取水堰。対岸の根固め工が終わり、川底全体に幅広く巨石を敷きつめながら、堰を延ばして対岸に至る。現在でも既に十分な水位上昇が起き、小麦が枯死寸前であった49か村、全域が被害をまぬがれた。だが、工事はこれからが山だ。
1月13日



第一取水堰の対岸工事。村の若い衆が作業員としてやってくる。人海戦術で石を集め、ただひたすら「蛇篭のカーペット」を河原に敷く。こうして巨石の突堤が近づいても洗掘を起こさなくするのだ。早朝の河沿いは寒く、水は冷たい。だが、自分の村の生死にかかわることなので、凍てつく寒風をものともせず、皆必死に働く。
1ヶ月後、十分強靭にしてから、こちらの方から一挙に巨石の堰先端を連結する。
1月14日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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