受信日:2010年07月09日



事務局のみなさん、

 湿地帯の変化が圧巻ですが、次回写真を送ります。
ガンベリ沙漠は酷暑です。乾いた熱風は、まるでドライヤーの風を浴びているようですが、新農場では粛々と開墾が進められています。「ガンベリ沙漠に水田出現」とは、東部アフガンで信ぜられぬ奇跡らしく、ときどき見物人が来ます。


1.水稲栽培増加とその対策

 今年は日本の「稲作普及計画」もあずかって、水路沿いの至る所に水稲が栽培されています。しかし、水稲は小麦の約5倍の水量が必要です。このため、マルワリード用水路は限界まで送水中です。現在、送水量;毎秒5.2トン(1日48万トン)まで上げて様子を見ています。処理した湿地帯は実に約500ヘクタール以上、この新開地も水源をマルワリード用水路に頼るため、夏季の送水量は過去最大になりました。でも、水稲栽培はやはりコントロールが必要です。このために発生するのが1)下流側村落の水不足、2)湿害の発生、3)作付農地の疲弊です。1)と2)については、湿地帯は完全に処理され、少なくともわが用水路流域ではあり得ません。3)については、現地ではコメを毎年植えず、次の年はトウモロコシを植えて土地を休ませます。今年はラッシュになりましたが、農民たちは徐々にバランスを作ってゆくと思います。


2.ジャララバード事務所(PMS本部)

 杉山、村井の両君が来て、長い懸案であった会計監査システム導入に尽力しています。案ずるよりは産むがやすし、アフガン政府側の要求が思ったより簡略化されたもので、何とか出来そうだと村井くんが喜んでいました。事務所の秩序は、ジア先生の尽力により驚くほど改善、綱紀粛正が成りました。現場はさらに締り、灌漑については最強の実戦部隊です。


3.カマ用水路

 最大の懸案だったカマ取水堰、ベスード取水堰の方も、外国軍の買収工作と戦いながら、本工事ができる見通しが出てきました。3つの堰が完成しますと、計約9千ヘクタールの農地が確保され、計約40万人が安定した生活を送ることができます。堰はPMSの手でとりあえず送水できているものの、これまでの経緯を見ると仮工事に近く、毎年改修してきたのが実態で、シェイワ堰、マルワリード堰と同様、半永久的に使える強固なものを建設いたします。援助の良否は決して量ではありませんが、やはりこれほどの人々が安心して暮らせるのは大きな事だと思います。水を制する者は国を制する。今やPMSに非協力的な勢力は、アフガン農民の間にはありません。

 カマは調査すればするほど、余りの放置された状態に絶句。粗雑なやっつけ仕事が多く、真剣なら、外国の軍や援助屋に任せられないと思いました。主な調査は完了、立案と交渉の段階に入りました。今秋に計画が始動いたします。PMSの戦線がどこまで拡大するのか不安になる方も居られましょうが、日本の良心にかけて、ここはひと頑張り。軍事活動以上に活発にやります。



育つ水稲。田植えから2週間経過したもの。今年は約1町歩(1万㎡)で様子を見て
種籾を生産、来年度は何とか30町歩までもってゆく。主にアフガン種。
日本種は九州の旭竜で、進藤ワーカが実験済み。収量が多いのが人気で、ダラエヌールでは広がりつつあった。脱穀で苦労するのが難点で、生産量が増せば、
太陽光発電で脱穀機を導入予定。ダラエヌール旧試験農場付近は水不足で
農地が壊滅に近いそうだ。ラマザーン(断食のこと)までに
4戸の住居を完成、旧農業職員らが24時間態勢で見張る。
ガンベリ沙漠。2010年7月8日。



右側が「田植え後5日」、左側が「田植え後10日」。
何度見ても飽きない沙漠の中の奇景。2010年7月8日



7月7日、過剰送水で用水路内の水位が上がり、余裕高を越え、あわや決壊寸前となった。G岩盤周り水路。浚渫と観察を怠ったためだ。ここがやられると
ガンベリ沙漠の稲作はもちろん、シェイワ郡全体が壊滅する。来週から改修工事に入る。収穫を保証するのは、やはり目立たない水路と灌漑網だ。冷や汗一升。
2010年7月8日、4.8㎞地点。



同48km地点の水位が青色点線で、「余裕高」が赤色点線なので、
余裕高を20cm超えた水位、ということになる。 人が得ることばかり考えると、
自然の鉄槌が下る。反省。今後のことを考え、G岩盤周り全域で
余裕高を上げる工事を行う予定。



モスク・マドラサその後。緑が少ないので、やはり暑い。
現在、植樹と庭園を造成中。2010年7月8日



モスク背面から。



マドラサ。現在夏休みでひっそりしているが、子供のいない現在が
植樹の手入れ時期。活着しなかった木もある。水遣りを怠ったためだ。
言い訳に対して、「結果を見せろ」と一喝。2名を張りつけ、芝を移植中。
2010年7月8日



マドラサ寮の天井うちが始まった。これが終わると、建物らしくなる。2010年7月8日



カマ第一水門。昨年の大洪水に耐え、水門自体は改修の必要はない。
2010年7月4日



蛇篭に次いで現地で認められるようになったのが、日本の堰板。二重にして
階段状に水を落とし、最初の堰板にかかる流水圧を減らす。
日本の伝統工法を応用した、スグレモノ。夏の洪水を取込まず、
底水の土砂流入を防ぐ。2010年7月4日



カマ第二取水門。PRTの請負が作ったものを、スライド式水門から堰板式に変え、河の全面堰上げを行った。だが、水門幅が狭くて無理な堰上げになっている。
全面的な改修で、水門の間口を大きくとり、堰上げ高を下げ、
堰幅を倍以上にしないと、大洪水に対処できない。2010年7月4日



カマ第一水門の下流側。昨年の大洪水の時は河の水位が著しく上がり、
右岸を越えて水路内に流入した。今年は冬季に、余裕高を全体に60cm上げ、
事なきを得ている。柳枝工と空石積みの組み合わせも強靭である。
それに、美しい。正面はPMSが今年、ダンプや重機のために架けた橋。
2010年7月4日



カマ第二用水路の夏の状態の調査。取水口から約1,040m、このような漏水、
浸透が著しい。浸透損失は、この区間だけで約40%と著しい。尤も、取水口で
水量調節する慣習がアフガニスタンになかったためで、夏の洪水を
一旦取り込んでから余水吐きから捨てるシステムである。
この弱点は冬の取水で、貴重な水が大量に失われる。2010年7月6日



「洪水を取込んで捨てる」という着想で作られた余水吐き。やはり、
日本人の目から見ると雑で、冬の渇水期を乗り切れない。
今秋から本格的な工事が始められる。2010年7月6日



カマ第一取水口から600m地点。せっかく苦労して堰や取水門を作っても、
勝手に橋を作って水路幅を半分以下に縮めている。このような個所が
少なからずあって、流量を著しく落としている。2010年7月6日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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