事務局のみなさん、
村井・杉山両君は無事にイスラマバードに着きました。
さて、大洪水の報告です。帰国に影響があるかもしれませんが、早めに連絡します。
洪水の怖しさは言葉にはできぬ程で、施工した本人しか解りません。――と言えばおしまいですが、今回はウルトラ級で、さすがに肝が冷えています。それも、複数個所ですので、秋の大攻勢を考えながら眠れぬ夜が続きます。相手が人ならば説得も可能でしょうが、自然は喋らず、人の都合を待ってくれません。さすがの小生も、今回ばかりは縮みあがりました。
何とか一応の手立てを打ち、水位の低下を待ちたいと思います。
7月27日夜半から降り始めた雨は、断続的に豪雨となり、7月29日夕刻まで続きました。ジャララバードのみならず、ヒンズークッシュ山脈東部全域を広範囲に襲ったようです。クナール河は28日夕刻から各地で氾濫が始まりました。知れる範囲では、ニングラハル州、クナール州、ラグマン州、カブール州、パキスタンのチトラール、ペシャワールらが襲われ、イスラマバードでは着陸中の旅客機が墜落して150名が死亡したそうです。推測ですが、インド洋・インド亜大陸から訪れる夏のモンスーンが、異常高気温による蒸発で多量の湿度を帯び、例年以上の降雨となったのではないかと思います。
過去7年、河の観察を始めて最高水位となりました。住民のお年寄りでも、こんな洪水は生まれて初めてだと言います。
クナール河沿いでは、PRTが昨年造ったと言われているカシコートの橋が壊れ、濁流に没しました。PMSの各取水口もまた、危険にさらされました。マルワリード取水口では、鬼木さんが越流決壊間際でかさ上げしたレベル(2005年6月27日)を更に約1m超えました。盤石と思われたシェイワ取水口は、あと30㎝まで水が迫りましたが、それをピークにして、午後2時頃から水位は上がらず、同じレベルを保っています。
ジャリババ、シェイワ付近で、分刻みの急激な増水は、翌28日午前8時頃から観察されています。
30分ほど遅れてカマ取水口が襲われました。第一取水口は既に27日朝には水中に浸かり、河の水位が水路内を上回りました。さらに約80㎝高い流れが流路内になだれ込みました。第二取水口は水門を越えて濁流が流入しました。不幸中の幸いは、第一主水路内に住民が架けた橋で流量が著しく落ち、第二取水口では、越流したものの、下段の堰板が2.6mの高さに積まれており、その分流入量が激減したことです。
あいにく本日は半ドンでしたが、緊急に余水吐きの幅を広げ、家屋の損壊を防ぎました。作業は明日も続行されます。
マルワリード用水路内では、C地点に草・木切れが集まって流路を塞ぎ、取水口に逆流したものです。水路内に垂れるヤナギの枝の伐採をしてなかったのです。こちらの方は昨日から突貫工事を続けて流路内を浚渫、ヤナギを切り倒し、枝を掃い、無事開通しました。心配されたガンベリ沙漠と旧湿地帯では、被害は皆無でした。
図らずもこれによって、今秋から開始されるカマ取水口の抜本的な計画が立てられます。余裕高の決定、対岸護岸の施工など、大綱が決まったのです。皮肉にも、最終測量を開始した直後でした。事情次第では帰国できませんが、その折はご勘弁願います。自然は人を待ってくれません。用水路が壊れると、せっかくの「写真展」も台無しですのでご理解下さい。









★Dr.T.Nakamura★ 中村 哲
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この1時間ほど前から急に水位上昇、午後13時まで上がり続けた。