受信日:2010年07月31日



クナール河氾濫

 マルワリード用水路内の浚渫作業を今日中に済ませ、再び水門を開けました。洪水でも、戦争でも、どんなことがあろうと、人々は生活せねばならないからです。今年はシェイワ郡全体で水稲の栽培が爆発的に増え、多量の水を必要とする時期です。
 カマ取水口は重機も進入できず、余水吐きを次々と拡張して排水、何とかカマ郡の家屋流失を防ぎました。灌漑は何とかなっています。
 ジャリババ、カシコート、シェトラウ、ベスードら、河寄りの村落はことごとく河の氾濫に襲われました。流勢は依然衰えず、29日夕刻 一時晴間の後、再び曇天となり、人々は不安げに河と空を見ています。さすがに今日は、上流から流れてくる薪あつめで喜ぶ人の姿はなく、救出された多数の住民が、河沿いにテントを立てていました。

 主な被害状況は下の写真をご覧ください。これまで何度も集中豪雨に見舞われましたが、これほど広範囲で長期かつ断続的なものは初めてです。

 おそらく、「100年に1回の大洪水」と長老がいうのは間違いないでしょう。しかし、渇水と増水を繰り返しながら、そのピーク同士の差が年々拡大しているのは確実。次は「数百年に1度」と言うかも知れません。マルワリード用水路の最後の努力は、堰の大改修でしょう。水門幅を大きくとり、堰上げを最小限に抑えること、これ以外に方策はありません。堰に始まり、堰で終わる工事となりました。諦めなければ何とかなります。河童になりはてれば、筑後川の水天宮でお会いしましょう。もうひと頑張りです。協力を宜しくお願い申し上げます。



外国団体が、B区岩盤と主流を閉塞したMADERA(EU建設団体)の堰との間に、
2年前架けた橋。橋脚が折れ、倒壊は時間の問題。毎秒1,000トン以上の水が
夏季に通過する。今回の洪水は、推定で毎秒1,600~2,000トンである。
それがこの狭い60mを通過するから、予想された結果。
夏の流水圧の測量をせず、冬季に短距離を短絡的に選んで仕上げたもの。
橋脚も、日本の一級河川でさえ見られぬ華奢なもので、やっつけ工事の軍用道路としか言いようがない。これで、カシコート村に軍は気楽に入れまい。
2010年7月30日



カマ第一取水口。水没して、もはや調節機能はない。河のレベルが
第一取水路のレベルだ。2010年7月30日



カマ第二取水口。水位は昨日より返って増加。余水が対岸のベスードの村落に
氾濫、数百ヘクタールが水没して洗われている。今秋から始まるPMSの抜本的な改修工事に望みを託す。2010年7月30日





流失寸前の川中島。今は去る2005年6月27日、当時水門のかさ上げ工事を
していた鬼木さんが目撃したのと同じ状態。但し、同年12月に再建されたものは、1m高いはず。過去の最高水位をはるかに超える高さだということだ。
対岸の中州は水で覆われて見えない。「中州全体を遊水地とした」と述べたが、
ここまでの水位は予測できなかった。結局、吾々も外国軍と同様、見通しが甘かったと言わざるを得ない。だが、「西側には時計があり、吾々には時間がある」。
けだし名言。吾々も時計を捨て、自然の時間をとる。2010年7月30日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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