受信日:2010年08月14日



「水被害と今秋からの攻勢」

事務局のみなさん、

お疲れさまです。
 洪水被害については、先に事務局で報告しましたが、厳しい事態が待っています。
今までにない物量を必要とする上、期限付きです。
しかし、頑張ればできます。
一応、今秋の主な予定をお知らせします。
 最終計画は9月に水が引いてから決定しますが、大よその見当はつきます。
どうぞご協力よろしくお願い申し上げます。事務局は多忙になるでしょうが、取水口周りの護岸、堰改修がなければ、7年の努力が水の泡となります。
計画の大綱と現状をまとめましたので、御参考ください。
とりいそぎ。



「クナール河の洪水と氾濫による影響
    (8月4日までの経過と用水路付近の概要)」

 2010年7月27日に始まる異常高水位は、カブール河本流、クナール河共に、近年類例を見ないもので、PMSが観察を始めた2001年以来最高を記録した。特にクナール河は急流であり、砂州や河川敷の変化、氾濫による新河道の発生などが至る所で発生した。

 犠牲者は主にナンガラハル州で、死者・行方不明は100名以上と発表された。その後のニュースによれば、巨大モンスーンによる降雨被害・河川氾濫は、カシミール・ヒンズークッシュ山脈東北山麓・カラコルム山麓と広範に及び、インダス河支流が全て集中するパキスタンで、被災者300万人、死亡確認1800名(8月7日パキスタン内務省発表)、建国以来の大惨事となったと云われる。

 被害を大きくしたのは、近年の河川の低水位傾向および人口増加で、元来遊水地であった場所に村民が居住していたこともあるが、1929年以来の記録的な大出水だと云われる。この洪水によって、PMSの手がけた取水口も影響を受け、秋冬の限られた期間にかなり集中した改修を施工しないと用水路流域の農業生産に甚大な打撃を与えると思われる。以下、工事が必要な場所の変化の概要と対策を述べる。



マルワリード取水口付近

 これまでに記録された高水位(取水口レベルで3.85m、2005年6月27日)を0.8m上回り、4.65m(7月28日)を記録した。対岸の中州が消失、第一分流が主流となった。

 下図は、カマ第一取水口。水没して、もはや調節機能はない。河のレベルが第一取水路のレベルだ。2010年7月30日制作。



 砂洲1および2に挟まれる分流は、堰のある主流より約1.5m河床が高く、高水位時の安全弁として機能し、砂洲2全体が遊水地となっていた。今回、斜め堰と砂洲2のつけ根部分の根固め工(幅20m、長さ100m)を残し、砂洲全体が消失した。8月10日現在、高水位は依然として続いており、測量が不可能。

 秋の低水位期を待ち、流失した砂洲2付近の測量を行い、場合によっては9月早々にも改修(堰延長)を検討せねばならない。用水路流域で今年は水稲の作付けが多く、渇水が起きれば大打撃を与える。なお、カシコート村は余水が氾濫、2008年に米軍PRT(地方復興チーム)が建設したと言われている中央の橋脚が折れ、橋が破壊された。尤も、2003年の主流の閉塞が無理な工事であり、右岸B岩盤と閉塞した堰との距離80mは、洪水時の流速を無視した方法である。平年でも毎秒1,000~1,200トンの濁流が夏に下る。

今回の洪水は、推定2,000トン/秒を超えたと思われる。
 しかし、今後を考えると、取水門の間口を大幅に拡張し、堰上げ高を低めにとらねば禍根を残すと思われる。水門間口の拡張工事は、事実上新設になるが、マルワリード用水路全体の灌漑が停止することは悪夢である。今冬に完成を期したい。



 

シェイワ取水口付近

 シェイワ取水口では、取水門最上部まで40㎝、水位が迫ったが、事なきを得た。2007-08年にかけてPMSが行った旧河道の回復工事(河道1,500m掘削、F・G区間の120m石出し水制)の効果は、今回の洪水で実証され、主流が堅固な岩盤側に復して安定した。このため、クナール河左岸側の洪水被害を著しく軽減し得たと思われる。(別図参照)
 右岸のシェイワ郡シェトラウ村低地は、本取水口の砂吐き用の排水路の水で潤されていたが、河川氾濫で水没、数十ヘクタールの水稲が全滅、排水門から用水路内への逆流が観察された。渇水期に再確認するが、シェトラウ低地は、元来遊水地とすべき地域で、低水位期に岸辺を守るにとどめ、対岸に影響する高水位護岸工事を避けるべきである。



カマ取水口I及びII付近

 左岸に岩盤に連続して砂洲があり、これに沿って巨石列の護岸が施されていた。右岸はベス-ド郡の低地に当たる。従って、異常高水位の際は、余水が右岸を襲う。右岸は「遊水地の河原」として人が住まず、低水位期にだけ畑作が行われていた。
 取水口のあるカマ側(左岸)は、岩盤の安定性を利用し、取水が行われてきた。但し、突堤をつき出して水位を上げるだけのものが多く、ひと夏を経ると先端の洗掘で河床が下がり、翌年には更に低い水位に悩む。カマ郡の広大な耕作地は、麦作に必要な水を得ることが特に困難であった。また、夏季でも、コメの熟成期に必要な水量が得られぬ年が増え、「カマ郡7,000ヘクタールの安定灌漑」はナンガラハル州の昔からの悲願であった。PMSが2008年12月~2010年3月にかけて行った河床の全面堰上げで事態は改善したが、仮工事に近いもので、水位観察を続けてきた。

 カマ第一取水堰では過去3年間の観察で最高2.3m(2009年7月、夏冬の水位差1.9m)であったが、今回の洪水では3m(水位差2.6m)を突破、河に面する取水門および主水路380mは土手よりも0.5~0.8m高い水が流れ込み、完全に水没した。この結果、細砂で水路が埋めつぶされ、カマ郡高地への給水が途絶えた(7月28日)。

 8月1日から、水位がやや下がり、交通路を確保して土手を高くして浚渫を始めたが、8月6日、再び河の水位が上昇、作業が一時中断している。

 カマ第二取水口は、堰上げ工事後初めての高水位期だったが、水位4.5mを突破、取水門から激流が流入した。冬の低水位期との差は4.05m以上である。それでも、堰板を2.5m積んだ分だけ洪水流入を減らした。
 一般にアフガニスタンでは、河に面する水門で水量を調節する方式は少なく、洪水をいったん取り込んで大きな余水吐きで調節するものである。しかし、渇水を恐れる余り、余水吐きが高く設置してあり、数ケ村に浸水した。PMSは7月31日から突貫工事で余水吐きを拡張、カマ郡での激しい水害は避け得た。

 カマ取水口対岸のベスード郡低地は、地形上シェトラウ村と同様、元来「遊水地」的な存在だったと思える。PMSがカマ第一取水堰を建設した際、夏の増水を想定し、堰の越流長を川幅以上に長くとり、高さを低めに抑えたのはこのためであった。
 クナール河の氾濫は7月30日に始まり、浅い傍流を成して村落を襲った。流入部は第一取水口の対岸で、8月4日までに数百ヘクタールの農地と家が浸水した。取り残された村民が数十名がヘリコプターで救出された。



ベスード取水口I付近

   カブール河本流左岸にある同取水口は、クナール河に比べてはるかに緩やかであり、大きな被害はなかったが、かなりの田畑で湿害が発生した。従来の取水方式(洪水も取り込んで余水吐きで処理するもの)は、広範囲な湿害を防止できない。マルワリード用水路の取水方式が最も優れている。
 「カマ」を終えて後、2011年秋に改修事業を行う予定である。


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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