受信日:2010年09月17日


事務局のみなさん、

無事に着きました。大洪水の後始末にしばらく追われそうですが、用水路内は大丈夫です。
まだまだ先の長い話なので、みなさん気長に御協力願います。主な作業地の被害は添付の表をご覧ください。

但し、今年は異例。秋冬の短期決戦ですので、連絡を密に決行したいと思います。


 日本に戻っても、洪水のことを思うと全てが上の空、やっとかっとで着いたら、明日から2日間アフガン側が休日、結局一週間遅れたことになります。洪水の水は引き、今度は急激な水位の低下が起きています。また、9月に入ってから3回、用水路沿いの山麓に集中豪雨が襲いました。
 日本から指示された通り、職員・作業員一同、断食期間中も皆必死で働き、用水路流域の作付けは守られました。主な被害と復旧の状態は添付の表をご覧ください。
 印象的だったのは取水堰の強靭さです。マルワリード、カマなど、大きな崩壊はなく、相当な掃流力(流速や水圧を考慮した押し流す力)に耐えうることが実証されました。もちろん、一部補修は欠かせませんが、容易です。これは真冬を待って行います。「現地住民の手で維持できる」とは、こういうことかと思いました。コンクリートの堰なら、財政・技術共に中途半端な仕事しかできず、おそらく悲劇的な事態になっていたでしょう。

 より専門的な推測ですが、堰の工事は、堰本体、水叩き工、護床工らに分けられます。斜め堰は、これらを一体にして、専ら捨石で行うものでした。洪水に対して昔の工法が強かったのは、異常な急流で巨石の一部が動き(転石)、バランスをとることです。コンクリートの堰と異なるのは、割れることなく、蛇篭と同様、全体として可塑性に富むことです。
 とはいえ、用水路内は人力で維持できても、自然河川の工事は完成後も数年は観察して改修を繰り返さざるを得ません。しかも、マルワリード、カマ、ベスードと作業地が散乱しますと、小生一人の指揮が及ばないだけでなく、相当な物量を短期決戦で投入せねばならず、財政的にも無理があります。 現場に慣れた旧ワーカー・グループから数名が助っ人に駈けつけます。「在郷軍人会」のようですが、これをまとめてきたペシャワール会事務局に感謝します。
 パキスタン側はもっと深刻でしょうが、これも大洪水被害全体の一部と考え、協力をお願い申し上げます。





復旧したカマ第一取水堰と水門、主水路。斜め堰の大きな崩壊は見られない。
水位の低下が急速(9月17日)



浚渫を終えたカマ第一主水路。送水量1日60万トン



同第一取水堰遠景および主水路土手のかさ上げと浚渫の完了。
堰は殆んど無傷である。だが冬の護岸工事(根固め工)が残っている。
江戸研究者の田中教授の資料によると、正確には「渦巻き型の堰」というそうだ。



悪いことばかりではない。「沙漠の中の水田の実り」。マルワリード用水路流域は
守られ、稲作を至る所に広げた。 ガンベリ試験農場では、2.5ヘクタールに
とどめたが、0.5ヘクタールは田植え時期を逃して失敗。
6月中旬に田植えしたものの生育は良好。(9月6日)



アフガン種おそるべし。50℃を超える沙漠の熱風と砂嵐に耐え、実をつける。
今年は砂嵐対策の防風林なしだったので、相当影響があっての結果だ。
当面のカギは防風、防砂林。造成が進めば、確実に収量は上がる。(9月6日撮影)



カマ第二取水口。水門を約1m超えて濁流が流入。あわや決壊と思われたが、
強靭な護岸強化で完全な破壊は起きなかった。
対岸ベスード村落に浸水が起きた。(2010年7月30日)



2010年9月15日の状態。PRTの既設水門は位置が悪い上に取水幅が狭いので、
無理な堰上げになる。今秋完全に撤去してPMSの手で新設予定。
現在、交通路を敷設中。準備を整えて10月から一気に開始。



10月着工を目指して、主水路沿いに交通路(約1㎞)を敷設中。主水路といっても、砂泥の長いプールと言えるもので、冬の漏水量は45%以上、夏は逆に河側からの浸透水で水量が増し、非常に制御が困難だった。マルワリード用水路と同様、
ライニング(用水路底に施す土砂、セメントらの敷設)開水路を建設予定。
長さ約1㎞、先端に小さな貯水池を置き、水量調節門を設置する。



ジャリババ土石通過路の処理。
ジャリババ土石流路も例年の数倍の水量が
通過した。取水口から約600m地点に16m幅の「通過路橋」を置いていたが、
欄干を超えて水路内に水が溢れた。抜本的な対策は、サイフォンの設置または
通過路橋の幅の拡大であるが、後の課題とし、とりあえず、①欄干の高さを上げて越流量を減らし、②万一溢れても河側へ排水する工夫を実施した。
(写真:7月31日。水門を一時遮断して見た水路内の様子。)



9月16日。とりあえずの改修を終了。幾度か再び土石流が襲ったが、
水路に大きな被害はなくなった。



マルワリード用水路取水堰・対岸中洲の状態。9月16日。
対岸中洲を遊水地として堰を造ったが、中洲が流されることは想定してなかった。全部流された訳ではなく 堰の背面から約40m幅で傍流が発生している。
かろうじて取水が出来ているのは、中洲先端に置かれた蛇篭列が堰の効果を
発揮しているためで、2004年3月、鈴木学、鈴木祐二が「念のため」と置いたもの。現在取水には影響がないが、問題は冬季の渇水期である。
水門間口の拡張を行い、必要なら浅い堰上げを行う。
測量と調査は、来週から開始。


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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