受信日:2010年09月24日



事務局のみなさん、

日本から来た3人、みな元気です。
 明日から再び猛烈な努力が始まりますが、この一週間の主な出来事です。
なお、添付のように、洪水被害の復旧と同時進行、PMS単独実施の方針を固めました。
 皆さんには大変な重荷でしょうが、昨年並みの支出を維持すれば出来ます。
なんとかやりましょう。

昨日9月23日、村井・杉山・石橋の3名が無事に到着しました。
日付を見て驚いたのは、小生もまた僅か1週間前に到着したということです。ひと月経ったような気がしていたのです。

 復旧作業は、まだ続いています。大洪水に続いて、東部アフガンでは異常な頻度で局地集中豪雨に見舞われました。マルワリード用水路付近だけで、鉄砲水が20回以上、用水路の送水は持ちこたえたものの、土砂があちこちの箇所で流入しました。これによって、人里の被害は殆んど発生しませんでしたが、その分だけ用水路内のトラブルを引き受けなければならぬということです。

 小生が日本を出る直前から、「診療所を除く全職員、作業員700名、浚渫作業に集中」と指示、断食の厳しい条件の中で、事務所職員もシャベルを持って働きました。折からコメの熟成期で大量の水が要ります。貴重なイード休みも返上し、皆必死で働きました。小生が到着したのはそんな時でした。

 クナール河の方は、驚くべきは、日を追って水位が下がり続け、9月18日までに、シェイワ、シギ、ベスード全体で水が完全に途切れました。原因は河の水位の急速な下降だけでなく、100年に一度という大洪水が上流から大量の土砂を送り、取水口を埋め潰してしまったのです。9月19日から異例の速さで機械力を各取水口に集中しました。シェイワ取水口は、3年前に回復した旧河道1.2㎞のうち480mが巨大な礫石で埋め潰されていました。とりあえず、隣の分流との最短距離100mを掘削して水を得、9月22日に灌漑が再開されました。しかし、まだ9月です。1月まで水位はさらに下がり続けます。一グループを張りつけにして、幅50m、1.2kmを掘削、旧河道の完全回復を目指しています。

 ベスード郡のカブール河側は、既に残った職員たちの努力で仮工事を開始、何とか取水を回復していました。こちらは流れが緩やかなので割と簡単に済んだそうです。PRT(米軍の地方復興チーム)が関与してPMSが手を引いたクナール河側の取水口は無惨、即時改修が悠長な手続きに縛られて実行できず、かといってPMSが介入する訳にもゆかず、渇水状態がひどくなり、相当な範囲の農作物が被害を受けています。
 このため、カマの工事を一時中断することも考えましたが、綱渡りのような重機の転用で工事が続けられています。カマ取水口の対岸地区は、機械力を急きょ増強、来週から開始されます。増水の始まる3月上旬まで、カマ第二取水口・1㎞の主水路建設、その対岸1.8㎞の堤防築造は絶対に終了せねば、多くの地域に被害が起こります。少なくとも増水前に主要工事を終えたいと思います。

 カマの計画は尋常でない物量が必要なので、公的筋との協力を予定していましたが、やはり調整に時間がかかります。適切な工期も迫っており、基本的にPMSが自前で実施する方針を固めました。自然は人を待ってくれないのです。しかし、将来的に全国的な展開を考えると、公的機関以上に良い理解者・協力者は得られません。少しずつ灌漑・農業分野で前向きに協力を進めたいと思っています。そこで例年のセリフながら、超突貫工事、それも、二正面どころか三正面、四正面作戦と相成りました。予算を憂える向きもありましょうが、昨年並みを維持し、3年間かければ出来ます。

 前門の虎、後門の狼ですが、もとよりこのような事態は覚悟の上、60万農民の生存を日本の良心にかけ、ただ実行あるのみ。ご協力に感謝します。



溢れて来た鉄砲水で崩れた決壊箇所の補修工事。20mの決壊部を3日で
直してしまった。(2010年9月23日/ブディアライ村。)



長雨でコンクリート工事ができず、マドラサ寮の建設が1ヶ月遅れたが、この間、
植樹と芝生造成を本格的に行い、美しくなった。
緑はアフガン人のあこがれの色彩だ。(2010年9月23日/モスク正面にて。)



マドラサ校舎。夏休みが終わって学童が戻ってくると、沙漠のような地面が
一面の芝生。教室が涼しくなったと、評判が良い。2010年9月22日



ダラエヌールにも異例の降雨があり、2008年6月の鉄砲水以来の規模、
一部が流路を越えて畑や人家を襲った。ここにも一グループを張りつけ、
土石流路500mの堤防工事中。サイフォンは無傷だった。2010年9月20日。
(ブディアライ村R1サイフォン上流)



シェイワ取水口500m上流。2008年の再掘削工事で旧河道を完全に
回復したと思ったら、上流の砂礫で埋め潰され、9月初旬から取水口が
機能を停止。9月20日に仮工事を開始、23日にとりあえず復旧した。
写真は9月20日



とりあえず回復した分流。当分大丈夫だが、水はさらに下がり続ける。
今後に備え、適切な場所から約1.2㎞にわたって幅50mを掘削、
夏の洪水に備える。2010年9月23日



シェイワ取水口。頑丈な堰、対岸の護岸、水門は殆んど被害がなかった。
護岸壁は砂礫がかぶって見えないが、砂吐きを設けたため、砂の堆積は殆んど
起きなかった。とりあえず必要水量を回復。これも日本の伝統土木工事の勝利。
2010年9月23日



おなじみガンベリ沙漠の岩盤周りQ2大池。ここも集中豪雨にさらされ、
最高55㎝水位が上昇、ここも貯水池がなければ下手の人家や田畑が
甚大な被害を 受けたと思える。貯水池周辺は、水辺のヤナギ、堤防の各段はクワ、山側はユーカリで、造成後1年経過。浸透水は著しく減った。2010年9月24日



連続するQ3大池。樹木の生長の早さに驚かされる。2010年9月22日



Q2大池堤防の外法。もう沙漠ではない。2010年9月23日



Q2-Q3 を結ぶ水門の撤去作業。間口を広げないと異常高水位の時に、
幅1.6m水門2つでは急速な排水に間に合わない。機械で壊すことを提案したが、
水門を造った5名の作業員が「手でやる」と志願、ハンマーで頑丈なコンクリートを
手作業で壊している。愛着があるのだ。さすがに頑丈で鉄筋を
溶接機械で切りながらの作業だが、その忍耐と腕力は畏るべし。
水門が高価なのでカマの排水門に転用する予定。9月23日。



流失したマルワリード堰対岸の中洲。正確には「傍流が発生」と言うべきで、
幅約60mの浅い川になっている。堰と対岸の低水位護岸は無傷。
いまのところマルワリード用水路の取水に影響がなく、却って好ましい変化かも
知れぬが、冬の到来を待たねば分からない。2010年9月23日



残った斜め堰と対岸護岸。洪水は対岸中洲を護岸面の背後から流し去り、
施工した部分が小さな島となって残ってしまった。川中島のヤナギは一部
流されたが、たくましく起き上がって再成長を始めている。今年は水門の改修で
間口を広げ、低水位でも必要水量がとれ、堰上げ高を無理に高くしない。



カマ第一および第二取水堰と水門。ほぼ復旧して、カマ郡全域は守られた。
第一水門は大洪水に備え、50㎝のかさ上げで済む。
第二水門は撤去して今冬に全面改修予定。2010年9月22日



カマ第一主水路の護岸壁。ブディアライ土石流路から運んできた巨礫は
びくともしない。今回の大工事の護岸は、この巨礫が主役だ。工事の半分以上の
エネルギーがこの巨石輸送に注がれる。マルワリード、シェイワ、カマの堰、
石出し水制と、あちこちで活躍した格好の石材。2010年9月22日



カマ第二主水路の工事。湿地内に交通路1㎞を敷設完了。測量を再度行って
準備、10月中旬の稲刈りと同時に水路建設を開始する。2010年9月23日



ガンベリ沙漠第一試験農場の水田。既に熟成期に入った。初の試みだったので、収穫の多くを期待してなかったが、ここまで実るとは思わなかった。水田の向こう側が育苗場。植樹や農場については、来週報告します。2010年9月22日撮影



実るほど頭を垂れる稲穂かな。 7年の日月、夢幻しならず。汝剣を取りて剣に
倒れよ。吾らは鍬を取りて自然の恵みを顕さん。 2010年9月22日


★Dr.T.Nakamura★
中村 哲


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